失くしたくないから、縛り付けた。
だけど。
人の気持ちは束縛できない。







「Wish Matrix」

− G side −
オレの頬を強く打った兄貴は泣いていた。 なんで? 「なんで・・・っく・・豪が・・・っそんなこ・・・っふ・・・・・言うん・・・っだよ・・」 喉を詰まらせながら、オレを見据える眼は 発する言葉に反して、不安げに揺れている。 「な、なんでって・・・その・・」 オレが一歩踏み出すと、兄貴は一歩下がった。 それだけのことで、オレは頭に血が上る。 オレカラ、離レルナ。 反射的に兄貴に近づいて乱暴に肩を抱いた。 オレは、突き飛ばされると思っていたのにその予想はくつがえされた。 兄貴はオレの腕の中で一瞬呼吸を止めて・・・ オレが少し、力を抜くと、弱々しくオレの胸を拳で叩いた。 「ジュンなんて・・・・っく・・ダイキライ・・・」 まさか。 「・・・豪のことは・・もっとキライ」 そんなことって。 「・・・・・嫌い・・」 「でも、オレは兄貴のことが好き」 オレがそう言うと、兄貴は思いきりオレの胸を突いて腕から逃れた。 「・・・やめろ、簡単に言うな」 耳をふさいで、眼をつぶって。 いつもそうやって、オレのココロを見ないようにしてきたの?兄貴。 違う。 見てなかったのは、オレのほう。 兄貴の気持ちを勝手に決めつけて、あげくに傷つけたのは、オレ。 赤くなった目元を指で拭って、兄貴の手を耳から外させる。 「好きなんだ。兄弟じゃなくて。  恋愛感情の、好き」 「・・オレは嫌い」 兄貴に、そう言わせてしまったのは、オレ。 いつだって、兄貴はオレのこと見ていてくれてたのに。

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