柔らかく微笑うために
傷ついたココロも忘れよう。
「Wish Matrix」
− R side −
最近、自分がコントロールできなくなってきてる。
こんなんじゃ、ダメだ。
豪とジュンちゃんに気づかれちゃいけない。
この想いを気づかれたら、ボクはもう、豪の兄でいることさえ出来なくなるから。
「豪、遅いわねぇ」
「どっかで食べて来るんじゃないの?」
「でも、今日は家で食べるって言ってたんだろう?」
「まーね。大丈夫だよ、小学生じゃあるまいし」
母さんは夕飯の時間を過ぎても戻ってこない豪を心配しいるようだけど
あんなガタイのいいのを襲うヤツはそういないと思う。
事故にでもあったんなら家に連絡くらい入るだろうし。
「でも、烈・・・」
「・・・・わかったよ。その辺見てくる」
母親からみれば、30過ぎても50過ぎてもボクらは"子供"なのだろう。
ボクはのろのろと靴を履くと外に出た。
この時間なら、ジュンちゃんちで引き留められたかなんかしたんだろ。
そっちの方角へ歩いていくと向こうから豪が歩いてくるのが見えた。
足を止めて、軽く手を挙げると、向こうも気づいたようでこちらへ駆けてくる。
豪が自分に向かって駆けてくる。
ただ、それだけで。
こんなに、胸が満たされていく。
「兄貴・・何してんだよ?こんなとこで」
「お前が遅いから迎えに来てやったんだろ?
母さんが心配してたぞ。遅くなるなら電話くらいよこせよな」
「悪ぃ、悪ぃ。ちょっと寄り道してたら遅くなっちまって」
「別にオレは心配してなかったから、オレに謝る必要はない」
「なんだよ、少しはしろよ、心配!」
「反省と言うことを知らないのか、お前は。」
耳を思いっきり引っぱってやると、豪は静かになった。
ホントはしたよ、心配。
どこで何してるのか。
誰と何を話してるのか。
豪と離れてるときはいつも考えてる。
「なぁ、兄貴」
「んー?」
おとなしく後を付いてきていた豪が急に口を開いた。
「今日、なんで泣きそうな顔したの?」
足を止めて振り返る。
「いつの話だ?泣きそうになった覚えなんかないけど?」
「泣きそうだったじゃん。昼間、買い物誘ったとき」
豪のこういう真剣な眼はキライじゃない。
でも、怖い。
この眼の前で、嘘を突き通す自信がない。
「お前の・・・・気のせいじゃないのか?」
「気のせいじゃ、ねぇよ」
誰か、助けて。
「あの・・さ、間違ってたら、ごめん。
もしかして、兄貴・・・・」
ハヤク、助けて。
「ジュンのこと、好きなのか?」
ほんの少し、期待してた。
何に?
自分の気持ちに気づいてもらうこと?
バカじゃない?
そんなことになったら、全部終わりなのに。
豪は、悪くない。
わかってる。
でも。
パシン!
頬が赤く染まっていく豪の顔が、滲んで見えた。