カキーン、といい音がした。
「あー、ホームラーーン・・・」
気の抜ける声を出しながら、俺はのんびり走った。
「きゃーーー!! 竜也さまぁ~~~!!」
黄色い歓声………ではなく、 野太い男声 が俺に降り注いだ。
クラスの男どもが伊集院の真似をしているのだ。
「うっせーぞ、てめぇら!」
「おこっちゃイヤーーん」
「竜ー!よくやったぁ!!」
「天才と呼べ」
両足でバン、とホームベースを踏む。
俺ら三年受験生まで巻き込んで、学校では球技大会の真っ最中だった。
「のどかだ・・・」
基本的に身体を動かすのが嫌いじゃない。
俺は、ゆったりと芝生の上に寝転んで空を見上げた。
・・・が、急に影。
「伊集院・・・」
伊集院が寝転んだ俺を上から見下ろしていた。
俺はゴロンと横を向いた。
「竜くん、格好良かったです」
「あっそ・・・。クラスの応援行けよ」
「やっだぁ、先輩!!」
へ?
もう一度 顔を上げると、伊集院の周りにはどうやら同級生らしき女の子達が数人いた。
「好きな先輩の活躍を見に行く!」
「応援する!!」
「これが球技大会の醍醐味じゃないですか~!!」
女の子達は妙に気合の入った声で言った。
そういうもんなのか?
「なんていったって、真琴と先輩は 公認カップル なんだし!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「真琴を奪おうとする男たちを投げ飛ばし!」
……………………空手部の勧誘じゃなかったのか・・・・・・いや、なんで三年生にもなって、とは思ったけど・・・
「真琴の手作りのお弁当!!」
・・・え? あれって家政婦さんがつくってるんじゃねぇの?? あり?
「婚約してるしー!!」
してない。
「 校内中が認めた恋人同士!!」
俺は認めてないんだけどね!
「 ッきゃーー!!!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
もう・・・何がなんだか・・・。
「おーい、竜也、そろそろ出番・・・」
由希がミットを持って近づいてきて、俺の周りに気がついた。
「へぇ、華やかだな」
にこっと笑う。
「由希先輩ッ vv」
おお、ハートが飛んだ。
さすが由希(美形)。
そのままコイツらをどうにかしてくれ。
「みんなはもう出番 終ったの?」
「あとは午後からなんです」
「由希先輩、見に来て下さいよ~」
「はは、試合がなかったらね」
「そっかぁ・・・となると私達も午後は見れないかもね、真琴」
「あ、竜也を見に来たんだ?」
「はい」
「真琴が恋人の活躍を見逃すわけないじゃないですか~」
恋人じゃないって・・・。
「へえ、偉いなぁ。彼女の鏡だね」
・・・おい。
由希、喧嘩売ってんのか?
このハイテンションについていけない俺は、かなり体力を消耗してしまった。
「竜くん・・・」
伊集院のおさげが揺れた。
いつものふわふわの髪を、今日は二つに分けて三つ編みにしている。
「・・・お弁当のこと、騙すつもりじゃなかったんです・・・ただ、私が作ったっていうと受け取ってくれないかもしれないと思って・・・ごめんなさい」
「・・・・・・」
ま、確かに受け取らなかっただろうけど。
俺はてっきり、日頃から俺の食生活をうるさく言ってるジジイが家政婦さんに作らせてるのかと思っていた。
「自分が作ったって知らせないで、俺が食べても何のメリットもねぇじゃん」
「ただ、作りたかっただけですから」
ふーん。
よくわかんねぇ。
「ごめんなさい・・・」
「・・・・・・」
食事を作ってもらって、謝られてもなぁ・・・。
「あー・・・まあ、ありがとな」
食費 浮いたし。
俺が言うと、伊集院はなんだかキラキラと眼を潤ませている。
な、なんだ?
「竜くん!!!」
ガバ ! ! !
抱きつくなーーーーー!!
……………
…………………………
………………………………………スキを 見せては いけません。 ←本日の教訓
俺らの様子を見て、クラスの野郎どもから声が上がる。
「そこーイチャつくなー!」
「っつーか、んなとこでキスすんな!!!」
「竜ー! 真琴ちゃん襲ってんじゃねぇぞーー!!」
俺が襲われてるんだよ。
試合は、2アウト一塁。打者が2ストライク1ボール。
「・・・伊集院」
「はい?」
「弁当、もういいから」
「・・・でも」
「俺がこう言うって判ってたから、自分が作ってるって言わなかったんだろ?」
「・・・・・・でも」
「なんだよ」
俺は受け取らないぞ。
「おじい様が食べろって」
へ?
「そうじゃないと破門だ!・・・って」
にっこり。
「やっぱり身体を鍛えようって人は、栄養を考えるのは大切ですよね」
にーーっこり。
………くっそーー………
最近、負けっぱなしな気がする……
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