「真琴、愛してる・・・」
「嬉しい! 竜くん!!」
「……うぎゃぁあああーーーーー!!」
俺は、悪夢を見て、飛び起きた。
はぁはぁと肩で息をつく。
一体なんだってあんな夢を・・・。
思わず枕を握り締めた。
「…ん?」
枕に何か入ってる?
そこには…………………………………MDプレイヤー。
『 真琴… 』 『 嬉しい! … 』
さっきの悪夢はここからかーッ!!!
俺はすぐさま服を着替えて朝の稽古のために道場に駆け込んだ。
「なんっつーことをすんだ ジジイぃーー!!!」
精神統一をしているジジイを目掛けて蹴りを繰り出す。
「甘いわ!!」
「げっ! ……ッだぁ!!」
「ほう…」
何度もやられてたまるか!
「……朝っぱらから変なことしやがって…ゲホ」
ジジイとの組み手(乱闘?)を終えて、俺は荒い息を吐いた。
「まだまだじゃな」
「うっせぇ…滅茶苦茶なことさせやがって…寝起きだぞ?」
「戦いはいつ起こるか わからんのじゃ!!」
正論のようだ、が、……準備もなしに稽古は身体 壊れるだろ…。
「しかし、よくワシだと判ったな」
「俺が寝てる間にあんなん仕込めるのは、ジ…師匠くらいなもんだろ。
…んで、製作者はシズカだな。 違うか?」
「せ〜〜かい♪」
シズカがきっちり制服を着込んで道場に入ってきた。
「いい夢見られただろ?」
「悪夢なら見たぞ」
「…そーいえばさ〜」
俺のセリフを無視して、シズカはニヤリと言った。
「真琴は疑わなかったんだな」
「はぁ?」
「真琴がやったとは思わなかったんだろ?」
「伊集院はこういうことはやらねぇだろ」
「へぇ〜〜信頼してるんだなぁ」
ニヤニヤと言う。
「単に性格の違いだろ。こんなあほ なことをするのはお前しかいない」
俺は呆れたように言った。
「ちぇ〜、なんだよ結構 大変だったんだぞ? 声を合成するの」
シズカは不満そうに口を尖らせる。
「朝の目覚ましになるようにタイマーセットにしてさ」
………嫌がらせに そこまで手の込んだことを…
ヒマなのか?
「まあ、早いところ諦めるんじゃな」
「?? …何を?」
俺が意味がわからず訊くと、ジジイは、
「真琴を拒否するのは無理じゃ」
と言った。
「バカバカしい」
俺の呆れ果てた声にジジイは笑って、タオルを投げて寄越した。
「伊集院の者は、狙ったものは逃がさん」
まるで事実を宣言するかのように、はっきり言った。
(バカバカしい)
俺はもう一度 頭の中で繰り返し、頭に掛かったタオルをバサッと肩にかけた。
「誰が狙おうが狙わまいが、俺は俺の判断で決める」
俺の台詞に、ジジイは何が面白いんだか、また大きく笑った。
それを聞いていたシズカは、
「…甘い、甘いぞ、竜!!」
と首を振った。
「既にお前は俺の罠に掛かっている!」
夢のことか?
「ふふふ、それだけではない、この同居も俺の作戦の一部でしかないのだよ…」
「作戦…」
って、やっぱ妹とくっつける作戦か? お前マジで毎日 何考えて生きてんだよ。
「毎日毎日 顔を見つめ…寝ている間は声を聞き…」
「暗示をかける!」
・・・伊集院家。
いいのか、跡取がこんなんで・・・
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