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それは、風呂の至福のひととき。

ジジイに叩きのめされてボロボロになった身体を癒す、 一日で最高に幸福な時間なのだが…


「竜くん、背中 流しましょうか?」


「いやがらせ? 」

いや、イジメかもしれない。
「そんな! 私はただ竜くんが喜んでくれるならと…」

むしろ迷惑です。

「兄さまが 男なら絶対に喜ぶ って」

妹に何 教えてるんだ、シズカ。

伊集院が仁王立ちをしているので、俺は伊集院家のデカイ風呂(普通の銭湯よか大きい)の湯船から出られない。
握り拳を作って、伊集院は言う。
「おじい様には既成事実を作ってこいって言われました!」

・・・・・・それでいいのか ジジイ(昭和1ケタ生まれ)!!

いかん、このままでは のぼせてしまう。

だいたい、既成事実っていうのも変な話だ。
俺が伊集院の入浴中に間違えて入ってしまった、というシチュエーションだったら まだ判るが、今の二人の格好といえば…

伊集院 ← 服(エプロンつき)
  俺  ← 全裸。

…………どう間違いを起こせと?

いや、正しいのか?(←球技大会最中に押し倒されたことを思い出した)

貞操の危機だ。

と、まあ、冗談は置いておいて。(風呂で死にたくねぇし)
「…伊集院」
手招きをする。伊集院が近づき、湯船につかっている俺に合わせてしゃがみ込んだ。
その手に持つタオルを奪う。
「ちょ、竜くん!!?」
驚く伊集院を無視してタオルでその目を覆った。
伊集院に目隠しをすると、俺は立ち上がってシャワーの横に置いてあったもう一枚のタオルを腰に巻きつけた。
これが近くになかったから立てなかったんだ。
「・・・・・・」
「・・・?」
俺が振り返ると、伊集院は自分でタオルを外そうと思えばできるのに、そのまま座りこんでいた。
「ハズさねぇの?」
「・・・もう外してもいいですか?」
「へ?」
「見られるの嫌だったみたいだから…」

…って、俺が 見られたら困るモノ をしてるみたいじゃねぇか。(下品)

「また押し倒されたくないからな」
俺は風呂を出て、腰にタオルを巻いたまま髪を拭いた。
「私はそんなつもり…」
伊集院はタオルを取って振り返った。 止まって、俺を凝視する。

「?」
「竜くん、筋肉が…」
「ああ、結構 付いてきたかもな」
俺は髪を拭くために上げられた自分の腕を見た。 やっぱり何もしていなかったときと比べると引き締まってきている。
無駄にマッチョになる気はないが、ある程度はないと技の威力も減る。

伊集院は、いつのまにか俺の目の前に立っていた。

「……きれい」

「へ?」
「竜くんの身体って、すごく綺麗」

伊集院は、ちょうど目の高さにある俺の肩に触れた。


ゆっくりと鎖骨へ指を走らす。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・メシ !!

「え?」
「メシの時間だろ。先 行け」
俺は伊集院の手を振り払って、ガバッとTシャツを羽織った。

伊集院は、何もなかったように脱衣室を出て行く。


・・・・・・やっぱり、貞操の危機だ。




俺が着替えて出ると、伊集院は廊下で待っていた。
先 行けって言ったのに…
俺と目が合うと、伊集院は はにかんだように笑った。

「伊集院…」

あえて、訊かないでいようと思ったんだが…やっぱり………


そのフリフリレースのエプロンは誰の趣味だ?

うう、哀しいツッコミ精神。
訊かずにはいられなかった……

「兄様がこれだ!と…」

あほだ。
シズカはあほに間違いない。

「私も 竜くんの趣味はこれだろうと・・・」

おい!!!!!

「誰がそんなこと言ったよ…」
そういえば伊集院は俺が好きなのは長い髪にレースが似合うような女だと思ってるんだよな。
どこから そんな誤解が…
「だって、昔 試合会場に応援に来ていた女の子を見て可愛いって」
「そんなこと言ったっけ?」
「言いました!」
語気も荒く、伊集院が言った。 髪も短く、男の子のような格好をしていた伊集院には かなりショックだったらしい。
そりゃ、俺だって男なんだから、可愛い女の子見れば可愛いって言うよ。
好みとは別問題だけどさ。


「別に俺がなんて言おうと、自分の好きなカッコしてればいいだろ」
好きな相手に合わせて自分の好みを変えたって仕方ねぇじゃん。

「そうですね」

なんだか知らないけど、伊集院はひどく嬉そうに笑って、ピトッと俺の腕に頬を寄せてきた。
「俺は風呂上りなんだ!近づくな!!」
腕を組もうとする伊集院を振り払う。
「私だって帰ってきてからシャワー浴びました!」
「関係ねぇ!!」

・・・結局、俺たちは食堂まで追いかけっこをする羽目になってしまった。










続き







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