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LOVELY、LOVELY、HAPPY !

 体育祭編






「伊集院」
「きゃっ」
ぺた、と濡れた手で後ろから頬を触られた。
振り向くと、竜くん、それから大道具(応援合戦につかう舞台を作るパート)の 先輩たちが ずぶ濡れになって立っている。
「え??」
思わず外を見た。
青空だ。 夏の柔らかな風が木々を揺らしている。

「濡れた」
にやッと笑って、竜くんはTシャツの 肩口で顔を拭った。
「あ、ハンカチ…」
「いらね、意味ない」
確かに全員が髪の毛からジャージまで グッショリだ。
「も、信じらんねー、校庭で作業してたら いきなりスプリンクラー回されて」
「ははは、真っ先に飛び込んだの誰だよ」
「あちーんだもん」
ヒャハハ、と笑う。
水かけっこでもしていたらしく、みんなハイテンションだった。

「高岡ぁー、リレーのメンバー来てるー?」
竜くんが教室に入って言う。
「遅い! とっくに……って、何その格好!?」
「いや〜、濡れた濡れた」
「ちょっと みんなビショ濡れじゃない!」
近寄らないで、と高岡先輩は追い払うようにシッシッと手を振る。
「集まってー。順番 決めるから」
竜くんは自分の机の上に座って言った。 窓際のその席に、メンバーが集まる。
濡れた髪を鬱陶しそうに かき上げて、竜くんは また左の肩口で顔を拭った。

「『竜くん風邪引かないかなぁ?』」
「え!?」
私がビックリして振り向くと、烏山先輩が笑っていた。
「…って、思ったでしょう?」
「う…」
「あは、可愛い可愛い♪」
ヨシヨシ、と頭を撫でられた。
「大丈夫、こんな暑い中 風邪引く馬鹿もいないよ」
あ、でも、夏風邪はバカが引くとも言うねえ、と微笑む。
「ね、美貴?」
振り返って高岡先輩に話し掛ける。
「え?」
高岡先輩は急に夢から覚めたかのように、目を大きく開けて訊き返した。
「あ…、ごめん、何?」
「一宮が風邪引くわけないって話」
「あ、ああ、それは もう当然でしょ」
風邪なんて有り得ない、と高岡先輩は いつもの少し意地の悪い茶目っ気のある笑いで言った。

「濡れたシャツで拭いても意味ないって。ねえ?」

やわらかく笑った。

あ、と思う。
その瞬間、 私は気付いてしまった。

高岡先輩は竜くんを見ていた。

……きっと もう、 ずっと前から。

私の横の机に屈み込み、資料を机から取り出して竜くんに渡す。
竜くんが受け取って、一言二言 話して、竜くんがまた目を逸らす。
今度は一年の男の子をからかって笑っている。

その姿を見る高岡先輩の、目。 表情。

竜くんは気付かない。 変わらず笑っている。

高岡先輩が顔を背けて、こっちを見た。
私の身体はギクリ、と強張った。

高岡先輩は そんな私を見て、また柔らかく微笑んだ。
秘密ね、というように人差し指を唇に当てる。
さらさら と髪が揺れた。

そして竜くんが座っている机をガンッと蹴飛ばした。

「おゎっ、何すんだよ!」
竜くんが言う。
「行儀 悪い」
キパッと高岡先輩は言い捨てた。

「真琴ちゃん」
ぎゅう、と高岡先輩は私を抱き締め、身長の低い私は 高岡先輩の胸に顔を埋める羽目になってしまった。
「大丈夫、私 真琴ちゃんの方が好きだから」
見上げると、高岡先輩は にっこり笑った。  とても綺麗だった。







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