くるくると頭の中の整理が出来ずに、様々な思いだけが回っている。
優しくなった竜くんに近づけない自分。
高岡先輩の想い。
「ありがとうございました」
頭を下げて、竜くんは終わりの挨拶をした。
コキと首を鳴らす。
すらりと伸びた背中。
こういうときの竜くんの静かな空気は、どことなく近寄りがたい。
全身に纏っていた集中力は消え、自然体で、しかし余韻は残るのか隙は無い。
「伊集院?」
私に気がつくと、竜くんはどうした?と言って笑った。
「ぼーっとしてんなぁ」
ポンと私の頭に手を乗せて、そのまま横を通りシャワー室に入っていった。
「あ、一緒に入る?」
顔だけ出して訊く。
カーッと急激に顔が熱くなるのを自覚しながら、慌ててブンブンと頭を振った。
「そ?」
にやっと笑う竜くんは、
私が断るのを判っていて訊いたのだ。
「う〜〜…」
熱い頬を押さえながら唸ってしまう。
…どうして?
前はこんなことなかったのに。
ただ竜くんに近付きたくて、
それが全てだったのに。
「あ、やべ」
中で竜くんの声がして、ドアが開いた。
「…っ」
「替えのTシャツ持ってくるの忘れてた」
ジーンズだけを履いて、竜くんは大雑把に拭いた髪から水を滴らせて出てきた。
「なんだ伊集院、まだボーっとしてたの?」
少し首を傾けて問われた。
「疲れてるのか?」
熱はないよな?と額に手を当てる。
ふわりと石鹸の匂いがした。
鼻先に竜くんの肌がある。
腕を上げた拍子に目の前の筋肉が動き、合わせて鎖骨がピクリと上がった。
シャワーの熱が、届く。
動けない。
後ろに壁、前に竜くん。
逃げることも出来ない。
「……?」
竜くんは何かを見透かすようにジッと私を見下ろした。
逸らすことを許さない目だ。
「…ああ、なに、」
目を細め、笑みを漏らす。
「こわいの?」
こ、わい?
…え?
「…なに…を?」
「俺が知るかよ」
いつものように、竜くんの感覚なんだろう。
感覚的に判って納得したのか、竜くんは興味を失った様子で欠伸をした。
「ハラ減った」
そう言って道場を出て行き、
私は力が抜けたようにその場に へたり込んだ。
『 怖いの? 』
………怖い? 何を?
竜くん 、 を?
|