「ばか、ソコちげーよ!!」
「おーい!その板くれー!!」
「釘どこだよ!?」
「だーー! 時間ねーー!!!」
体育祭の準備も大詰め。
特に時間がないのが、応援に使う大道具だ。
竜くんは競技パートで準備がほとんど必要ないので、
自分のパートの下の学年も駆り出して手伝いに行っている。
大きな板や重い物を扱うので男の子ばかりで、競技パートの女の子たちは小道具パートに
手伝いに来た。
「真琴センパイって、竜センパイの彼女なんですよね?」
手は忙しく動いているものの、口は暇を持て余しているので、小道具を作る机は
女子生徒の井戸端会議場のようになる。
「え、と、違うけど」
一年生に訊かれて戸惑い気味に答えた。
大抵の子が、竜くんの前では一宮先輩、居ないところでは竜センパイと呼んでいた。
「ええ!?」
「ウソだぁ~!」
「一宮が認めないんだよ~。ハタから見れば明らかなのにねぇ」
一年生が騒ぐと、烏山先輩がおっとりと言った。
「ですよね!私も近くで見てて、二人のラブっぷり、かなり恥ずかしいですもん」
里佳が言った。
…ラブっぷり? ……………どこが?
竜くんは ただ友達のように接しているだけで、私が勝手に赤くなっている。
「一宮も馬鹿だよね~、さっさと認めろってーの!」
坂井先輩が言った。
こんな可愛い子の何が不満なんだか、と呆れたように続ける。
「ホント真琴センパイ可愛いですよね~~v」
一年生も口を揃えて そう言った。
でも…竜くんの好みとは違うし、それなら意味がない、と、どうしても思ってしまう。
私が何とも言えない複雑な顔をしているのが判ったのだろう、烏山先輩はクスリと笑った。
「別に、外見だけを言ってるワケじゃないんだけどね?」
それに同意するように坂井先輩が頷いた。
竜くんが可愛い子が好きだと思ったから、可愛くなろうとした。
再会して、たぶん今 思うと、あのとき竜くんは無意識に偽りの不自然な空気を感じ取り
苛立ったのだろう。
そのままの自分で勝負しろ、と、いつも竜くんは言う。
人を、その人自身を見る、真っ直ぐな眼。
「西田いる?」
由希先輩が教室に顔を出して言った。
「校庭じゃない? 大道具の助っ人に行ってると思うけど」
「ってか、由希、お前 焼けてないなぁ」
川原先輩が由希先輩と並んで言った。
応援のパートリーダーの川原先輩は、あちこちのパートと調整を取らなくてはいけないので
走り回っている。大道具で指示を出したりもするので、もともとサッカーで焼けていた肌は
更に小麦色になっていた。
「ああ、俺も外に出たいんだけどな」
体育祭実行委員の副委員長をしている由希先輩は、次々に飛び込んでくる各カラーの交渉や
プログラムなどの問題のために実行委員室から離れられないのだ。
「各カラーの応援とかが無茶ばっかり言うからさぁ。
特にレッドとかレッド、何て いうかレッド 」
なぁ川原?と由希先輩がにっこりと笑う。
川原先輩は ああ忙しいなぁ~!と逃げてしまった。
『 副委員長の藤崎くん、至急… 』
「またか」
はぁ、と由希先輩は溜息をつき、
「ごめん、これ西田に渡しておいて」
と資料を烏山先輩に渡して忙しく教室を後にした。
裏の実行委員長は由希先輩、というのは周知の事実だ。
「真琴ちゃん、これ西田に渡してきて」
由希先輩が持ってきた資料を烏山先輩は私に渡した。
坂井先輩もそうして、と笑っている。
校庭に竜くんが居るのを知っていて、私に行かせようとしているらしい。
どうしてかは判らないけど、レッド全体が竜くんと私の動向を見守っているようだった。
( これは後になって、 『 体育祭終了までに恋人同士になるか どうか 』
という賭け(由希先輩主催)が発覚して、竜くんが激怒することになるんだけれど )
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