「さーあ、夏の風物詩、陵湘の体育祭がやってまいりました!!」
パーン、パーン、とクラッカーやピストルの合図で、色とりどりの風船が空へ放される。
「ご近所のみなさま、本日一日 騒がしいかとは思いますが、お付き合い下さい!」
「進行役を務めさせて頂くのはワタクシ、大沢あつき と…… 」
「ワタクシ、……」
抜けるような晴天。
「炎の色はー!? 」
赤い髪の西田先輩が叫ぶ。
「 RED !! 」
合わせて、レッドのメンバーが大声で応えた。
「太陽!」
「 RED !!! 」
「情熱はァー!!? 」
「 RED !!!!! 」
「 王者はどこだぁーぁあーー! 」
「 REEEEEEEEEEED!!!!! 」
わぁああー!!という歓声と共に、一組であるREDが入場する。
「レッドです! 炎のレッドを名乗る!!」
「先頭のつんつん赤頭、この人こそレッド団長、西田! 彼はゴツい、ゴリラか!
いやいや、ラグビーの名選手、陵湘が誇るラガーマン!
西田団長は 必ずやレッドを勝利に導くと宣言しています!」
放送部の大沢先輩が止まることの知らない勢いで話し、
紹介された西田先輩は手を上げて、スタンドへ勝利パフォーマンスをした。
スタンドには演奏をしている吹奏楽部、先生方、OB、
名物体育祭を見学に来た父母、近所の方々。
旧制中学の頃から、この近隣のお祭りのようなものらしい。
「続くはホワイト! 全てを漂白してみせます!」
「団長は寡黙な剣士、大里! 現代に残る武士!! 見て下さい、あのドレッド頭〜!」
始めから、すごいハイテンション。
「あ、真琴は今年 初めてだもんね〜」
「去年もこんなだったよ」
うわ〜。
どの組もほとんど仮装大会 状態。
これなら名物って言われるのも判るかも…。 派手…。
〜〜〜 入場 30分前 〜〜〜
「真琴♪」
「里佳…髪、染めたの?」
同級生の里佳は昨日までの茶髪ではなく、赤い髪になっていた。
「違う、違う、これ」
里佳は笑って、手に持ったスプレーの缶を振った。
「今日一日だけ」
「真琴もするでしょ?」
同じく友人の眞乃が言う。彼女の髪も赤い。
「やってやって♪」
面白〜い♪
「真琴は髪が長いから、メッシュにするね」
そう言って、眞乃は右から、里佳は左からスプレーで色を入れてくれた。
「ふっふっふ、君たち、爪もどうだい?」
坂井先輩が赤いマニキュアを見せる。
「します〜!」
「では、あげよう♪」
ポン、と一つ投げて寄越す。他の子にも配っている。
見渡すと、ほとんどが赤い髪になっていた。
もちろんTシャツも赤。
「俺はいいって!!!」
「やめろ〜〜!!」
竜くんの叫び声が聞こえた。まだ髪は黒いままだ。
「 取り押さえろ 」
「ヘイ! 兄貴!!」
パチンと西田先輩が指を鳴らして、川原先輩やその他 男の先輩たちが竜くんに群がった。
「どゎ! むさくるしいぃぃ〜〜!」
「観念しろ」
「来んなー!! ぎゃーーー!! 痴漢〜〜!!!」
どっと皆に取り押さえられる。
「証拠はあがっているんだ!」
「吐け!」
「 何をだ!!! 」
シュー!!と髪にスプレーをされる。
皆に寄って集ってされたので、竜くんの髪は本当に真っ赤になってしまった。
「うへぇ〜…」
「ほら、オマケ」
頬にもペイントで赤く線を入れられる。
竜くんは むぅ〜という顔をしていたが、ホワイト(二組)の方を見て爆笑し始めた。
「なんだ!?」
「あ!」
「うぉ! 田中ぁ〜〜!」
「山本もだ!」
「お前ら何だよソレ!!」
竜くんや川原先輩がホワイトの先輩たちを呼んで何やら話している。
「高岡、見ろ見ろ」
西田先輩が大笑いしながら、ホワイトの五人の先輩たちを横に並べた。
「はい、後ろ向いて!」
バッ、と後ろを向くと、彼らの後頭部に「 W 」「 H 」「 I 」「 T 」「 E 」…
その英字の部分だけ髪を残して、以外は五分刈りにしている。
「昨日 残ってると思ったら、そんなのしてたの!?」
「おうよ!」
「お互いに剃り合ったんだ」
「どうせ色 入れてるから、体育祭 終わったら剃るしな」
「丸刈りか…」
「ナイス! 最高!」
竜くんは相変わらず爆笑している。
「あー、なんか俄然やる気が出てきた」
首に掛けていたハチマキを頭に結んで言った。
頬に二本目の赤線を引く。
色々言っているけど、実は竜くん自身こういうお祭り騒ぎは嫌いじゃないと思う。
ワクワクしているのが見て取れる。
勝負事に燃える人だし。
「お、伊集院も色入れたのか」
「ハイ!」
「いいじゃん」
笑って竜くんが言う。
里佳や眞乃にも一言二言 声を掛けた。
以前に比べると、私の友人である彼女たちにも竜くんの態度は軟化した。
赤い髪が日の光に当たってキラキラと輝く。
青空によく映えた。
「竜くん………赤 似合う…」
普段 竜くんは赤を着ない。
思わず見惚れてしまった。
『 I CAN FLY !! 』 とロゴの入った赤いTシャツを着た竜くんは、
一瞬きょとん、としたが、すぐに笑って、私の頬を触った。
「伊集院もな」
ニヤッとすると、そのままペイントのついた親指で私の右頬に線を引いた。
|