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LOVELY、LOVELY、HAPPY !

 体育祭編






赤、白、黄、緑、橙、青、紫。

それぞれの旗が団長によって壇上で掲げられる。

「正々堂々と闘うことを誓います」
「レッド代表、西田尚善」
「ホワイト代表、大里信之介」
「イエロー…」

各団長の明朗な声がグラウンドに響き、退場する団長に続いて陣地へ散らばった。

「真琴〜!」
はい、これ、と赤いボンボンを眞乃に渡された。 当の本人は、赤くスプレーをしたペットボトルを持っている。
いわゆる応援グッズ。
「竜先輩の応援、するでしょ」
「うん!」 ← ある意味 今日のメイン
竜くんは、男子リレー、男女混合リレー、 400m走、と、一人が出場できる種目数をフルに出ることになっている。 全て得点の高い種目だ。
「おわっ、竜、もう おやつタイムかよ!」
「腹が減っては戦は出来ぬ。つか、あちぃ〜」
棒アイスを齧っている竜くんが、応援のウチワを扇ぎながら応えている。
陵湘の体育祭では、学食のおばさま達が有志を募って お店を出してくれていて、 アイスやジュースの他にも綿菓子やフランクフルトなど、本当にちょっとした お祭りの ようになっている。
「よこせ」
鈴木先輩が上から齧ろうとするのを、竜くんはサッと避けて食べ尽くした。
「さて準備体操でもするかな」
先ほど全校生徒でした程度では足りないのだろう、竜くんは身体を動かし始めた。
バイクバイクバイク…
ぶつぶつと繰り返す。
…そういえば、勝てばバイクを安くして貰えるんだっけ…。
竜くんの真剣な両目には「バイク」と書いてある。
「お前、そんなんで精神統一するなよ…」
呆れたように、長身の鈴木先輩は上から竜くんを見下ろした。
「ばっか、イメージトレーニングは重要なんだぞ?」
「イメージトレーニングって…バイクを思い浮かべてるだけじゃん
確かに。

「あ、障害物 始まるみたいだよ」
みんながBB(バックボード)の前に移動し始めた。
BBはそれぞれのカラーの陣の後ろにある巨大な絵で、縦3m 横10m ほどもあり、 これが校庭に七つもずらりと立ち並ぶのだから、それだけで壮観である。
もちろんBBも採点対象となり、配点は30点と高い。
レッドは噴火する火山の上を不死鳥である火の鳥が飛翔する様子を描いたもので、 BBパートが夜遅くまで残って仕上げたものだ。
ホワイトは時事ネタであるアメリカ大統領、ホワイトハウス、そして日本首相の風刺画。
イエローは向日葵畑と麦わらの少女。

「いよっ!」
「川原ぁー!」
ガンガンガン!というペットボトルの音に、入場してくる川原先輩は両手を上げて応える。
「だんちょーー!」
「に・し・だ〜ぁ〜!」
列の中にいても確実に頭一つ身長の高い西田先輩は、赤いバンドをした右手を軽く上げて ニヤリとした。
「やっぱり色物はあの二人よね」
隣にいる坂井先輩がうんうんと頷きながら言った。
二年生や一年生にも歓声が飛ぶ。
「あ、始めサッカーボール!」
「ラッキー!」
競技になんの障害を使うかは知らされていない。 始めの障害はサッカーボールを蹴って進むことのようだ。 川原先輩はサッカー部なので都合がいい。
「よぉい…」

「スタート!」
パァン!と鳴って、七人が走り出す。
川原先輩は余裕の顔だ。速い。
一番に辿り着いて、ボールを入れる籠を狙って軽く蹴り上げる。 ボールはカーブを描いてカランと収まった。
「かぁっちょいぃー!」
「サッカー部ぅ!」
本当は次の地点へ辿り着いたら手で運んで入れればいいのだが、その手間が省けてダントツ一位。 その後の跳び箱も軽く越えていく。
「速い速い!」
最後の借り物へ進む。
白い紙切れを拾った川原先輩は一瞬呆然としてから、すぐに放送席へ向かいマイクを貰う。 そして横の職員席へ走った。
「ゆ、ゆりあ先生!」
マイクで叫ぶ。
百合亜先生は古典の若い綺麗な先生だ。 男子生徒はもちろん、女子にも人気がある。
川原先輩に付いて来ていた大沢先輩が、百合亜先生にマイクを向ける。
先生は優雅な様子で立ち上がった。

川原先輩はガバッと勢いよく頭を下げた。

好きです! 付き合って下さいっ!

ごめんなさい

ぺこり。


「あ、じゃ、じゃあ…」


涙を拭く 木綿のハンカチーフ 下さい。


「はい」

「ありがとうございますっ」
川原先輩は もう一度バッと頭を下げてゴールへ走った。
百合亜先生の声には笑いが混じっていて、 きっと既に競技の内容を聞かされていたのだろう。

課題は…

・ 男子は石井百合亜 先生、女子は北斗健志郎 先生へ告白。
・ 思い出に何か貰いましょう。
       注: マイクを使って下さい。

…だった。

「馬鹿、マイク返せーー!」
大沢先輩が追い掛ける。
荒い息をついた川原先輩は、マイクを当てて実行委員席へ指差した。
「由希ぃ! アホな課題 混ぜんなぁ〜!!」
課題は実行委員が考えているから、必ず由希先輩の目は通っている。

「オレの心は痛く傷付いたよ…。百合亜センセー!!」
おーい、おい、とハンカチを使って川原先輩は泣きマネをした。

障害物競走は、やはり色物らしい。










つづく




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