LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - summer festival - |
「桐香ちゃん…」
手を添えて、導いた。
「あっ……や」
その涙目に花を手折る罪悪感がチクリと湧く。
つ…と濡れた先に指を滑らせた。
「…やぁっ…」
「だめ…」
パチン。
「あーあ〜〜、切っちゃったーー!」
「こうした方がいいの」
花の茎を眺めて恨めしそうに睨む桐香ちゃんに、すました顔で応える。
ただいま私たちは、お花のお稽古中。
アリーが見たいと言って部屋の端で見学していたが、 何故か もぞもぞと居心地が悪そうに正座した足を正している。
「しびれました?」
「や…、なーんか、いかがわしいな〜…と…」
なにが?
あの日、桐香ちゃんの家から帰る途中で私は ある提案をした。
『 伊集院に習い事をしに来るのはどうでしょう? 』
私には竜くんと一緒にいたいという桐香ちゃんの気持ちが痛いほどよく分かったし、 兄妹はそばにいるのが自然のように思えた。
竜くんは私の案にしばし黙ったが、いいかもしれないと頷いた。
引退した先生が特別に伊集院で開いている教室があるので、竜くんのお母さまと話して週一回お花の稽古に来ることに決まった。
そうして桐香ちゃんは週に一度、伊集院家でお稽古をして、夕食を一緒に食べる。
「桐香さん」
「ハイ、先生」
少々緊張した面持ちで桐香ちゃんは姿勢を正した。
これまで教わっていた先生の、さらに先生だと聞いて恐縮しているらしい。
筋がいい、と褒められて顔を赤くして恥らいつつ喜んでいる。
「りゅーう〜〜v」
帰ってきた竜くんに走っていってガバッと抱きつく。
「おーもーいー」
「いいなぁ…」
首に齧りついた桐香ちゃんを羨ましく眺めた。
「なに言ってん……」
「えいっ」
「おわっ」
桐香ちゃんを下ろした竜くんに私も抱きついた。
「おかえりなさい、ア・ナ・タv」
ふっと耳に息を吹きかける。
「のぁあぁああーー!」
とりはだ、鳥肌立った!!と腕をさすりながら後退った。
「うふふー」
「なっ、なんだよ」
「竜くんって、耳弱いんだ〜」
弱点見つけちゃった。
えへへー。
覚えておこっ!
「伊集院…」
「なあに?」
「そういうのはな……痴漢行為っていうんだ!」
ガーーン!
ショックを受けた私をよそに、純情な男心を弄ぶなーっと、竜くんは泣きながら走り去る。
………逃げられた。
ちぇっ。
(うそ泣きなんかしてもう!)
いいように あしらわれてるよね、私。
んー、ステップアップしたいな〜。
「りゅ、りゅう、ないてた…!?」
桐香ちゃんがオロオロしながら、
「りゅうを なかさないで!」
キッと睨んできて、私は可愛さのあまりぎゅうと抱き締めてしまった。