1999年10月中旬の日常

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1999年10月11日(月)

 バイト先の社長から要請を受けたので、急遽浅草にて行われた「池波正太郎展」で本の売り子の手伝いをしてきた。波状に客足の訪れがあったんだが、それでも予想より遙かに低い売上とかで他の方が苦笑されてました。10時から2時までが私の受け持ちで、帰り際に『池波正太郎短篇コレクション(3) 暗黒時代小説集 だれも知らない』(立風書房)を購入する。そうしてバイト料はその場その場で磨り減っていくのであった。因みにこの本、1992年の刊行で既に絶版状態になっているのですが、今回の展覧会に合わせて取り次ぎか出版社の方で在庫をありったけ供出して下さったもののようです。従って一般ではあまり取り扱われていない可能性あり。こういうシリーズものは気に入ると揃えたくなるので、一冊だけ買うのもどうかとは思ったが……何となく造本が魅力的だったんだなー。そういう動機で手を出してしまう辺りが既に病気なのか。

 帰宅後、日記から外部へ繋げたリンクを、全て新規ウィンドウで表示するように設定し直しました。思ったより数がなかったので楽。そんな訳で珍しく真っ昼間(pm3:00)に暫定更新。

 夜、悪罵を覚悟で某掲示板にきつい言葉を書き込む。先日購入したあるソフトに関する制作者のコメントを目撃したからなのだが……プロの態度って一体何なんでしょうね。ああした発言を読むと、ゲーム業界というのはまだまだ未熟なんだな、と思う。風太郎忍法帖レビューが一段落したら、ちょっと本格的にゲーム評を増強してみます。それで何が変わるとも思いませんが、かなり黙っていられない心境。


1999年10月12日(火)

 休日明けは仕事が少なすぎます。くれ。

 一週間も経ってしまったので、ちょっとスパートかけてます、ツーリングレポート。暇にあかせて書き進めました。読み物になるようにと生真面目に取り組んでしまったのが遅延の原因らしいです。しかし気楽に書こうとしても出来ないのは性分かな――否、ただ筆が遅いだけだ。絵も入れるのでまだかかります。はあ。

 昨日の書き込みで特におかしな反応が返ってくることはありませんでしたが、出来ればクリエイターから建設的な反論は欲しかったな。当該メーカーの掲示板が針の筵という現状では、まああれこれ言えば言うほど泥沼になるのも解るんですけれど。何れにしても、どんな反論を受けたとしても、プロ意識の乏しいクリエイターに過ぎないという印象が私の中から拭われることはあり得ませんが。それにしても小説よりゲームに対したときの方が厳しく見えませんか私。

 帰途、例によって本屋に寄って高島俊男『お言葉ですが…』(文春文庫)を購入し、ついでに11月の文庫・コミック新刊予定表をお借りする。何故それを特筆するかというと、

来月の講談社文庫新刊予定に、
山田風太郎の名はありませんでした。

 しかしすぐに止めたりはしません。もともと開始時期が遅かったのでこの結果も予測のうちでした。地道に続けます。いつか花実の咲くときもあるでしょう。……ぐっすし。
 なお、代わりと言ってはなんですが、小学館文庫で『武蔵野水滸伝』が刊行されます。この際出来る限りレビューを続けていく所存なので、「風太郎忍法帖布教計画」目当てで来訪されている方、今後ともご愛顧、御協力宜しくお願いします。買って買わせて広めて下さい。

全 く話は変わりますが、TVドラマ「意地悪ばあさんリターンズ」、見てしまいました。いや、ここ最近で一番精彩に満ち溢れた青島幸男と、あの「月曜ドラマランド」を彷彿とする古い味わい、嫌いじゃないです。脱力しながら堪能しました。変なところで懲りすぎたドラマが多い昨今、もう少しこういうのがあってもいいと思います、私は。しかしこれを見ながら私は『伊園家の崩壊』をちらちらと読んでました。……綾辻さん……

 夕刻、三浦綾子さんが亡くなられました。ごく最近、いつか形にしようと思っている作品(……小説でも、漫画でもないのです……さて?)の資料にと『旧約聖書入門』『新約聖書入門』を購入したばかりでした。ご冥福をお祈りします。


1999年10月13日(水)

 ……また買いまくってしまった。島田荘司『龍臥亭事件(上)(下)』(光文社文庫)ダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン(上)(下)』『ビリー・ミリガンと23の棺(上)(下)』(早川書房・ダニエル・キイス文庫)麻田卵人『遺作 第参幕 苛虐の火炎』(ケイエスエスノベルス)鮎川哲也/山前譲・編『迷宮の旅行者』(青樹社文庫)。最初のはノベルス版を持っていながらまた買ってます。麻田卵人、というのはあれです、この辺のノベライズで、ちらちら読むと……まあ、そういう話です。しかし問題は最後のアンソロジーなのだが……ラインナップに一抹の不安を覚えつつ、取り敢えず購入。ネット内の若手の間でもじわじわと定点観測という習慣が根付きつつあるが、深川はそれどころではありません。新刊で買って保護しておく。当面はこれで手一杯です。

 今、親父があるモニターをやっていて、今日はその収入で鰻を食わせてやる、と言い出した。私はあまり乗り気ではなかったのだが、一緒に行かないと夕食抜きになりそうなので渋々付き合う。鰻は嫌いではない、というか好きな方である。だが……だけど……だからこそ、特上の鰻重なんか食いたくなかったのだ。口の中でとろけそうな肉にほくほくやわやわの白飯、肝吸いも心得た程々の味わいで鰻の旨さを引き立てているし、浅漬けもいい。梨は時期的にやや劣るとしても、旨いことに変わりはないのだ。何が厭って、庶民が一旦こんなものを食ってしまったらあとで真空パックの奴なんかなかなか食う気にならないだろうが!! ……あー美味しかった。

 外食を厭がったもう一つの理由は、部屋に積み重なった本の在庫を少し片付けておきたい、という希望があったからである。優先的に読みたい新刊などを残してあとは箱に詰め、屋根裏に収納しておこうと思っていたのだ。しかし食事から帰ったあとは何となくだらーんとして躰が動かず、掲示板を放浪してぽこぽこ書き込みしてその合間にTVを見て(『TEAM』なかなか面白いです。少年犯罪というテーマは昔から興味を持っていたので)、何だかんだしているうちに12時を過ぎる。流石に遅すぎるよなー、と思ったが、結局耐え難くなって本の山を崩してしまった。あまり騒々しくは出来ないので限度があるが、一旦手をつけてしまった以上ある程度片付けてしまわないと寝る場所が確保できない。という訳でやりかけの作業を全て放り出して選別・箱詰めの真っ最中なのであった。

 綾辻行人『どんどん橋、落ちた』(講談社)読了。色々と書きたいこともあるし、実際書評も書きかけたんだが上記の事情で停滞。次の更新でアップします。仕事の暇を見て書こう。

 書き漏らし。最近思ったのだが、結構小池田マヤのファンって多いようで。色々ときついことを言いながら私も買い続けてますからね、実際。試しに一番好きな作品はとかキャラクターはとかでアンケート取ったら紛糾するかも知れず。いつか余裕が出来たらやろうかしらん。


1999年10月14日(木)

 朝、至急の仕事を片付けて、買い物に出る。ゲーム売場で『悠久幻想曲 保存版 Perpetual Collection』(メディアワークス)を、OA用品売場で640MBのMO6枚セットを購入。前者は私が無条件で「好き」と言ってしまう数少ないゲームシリーズの総集編。好き、と言うからには当然全作持っている(誇張なし)のだが、それでもまた買ってしまう辺りもう。
 後者は純粋に仕事用である。私は余所から来たデータをパーティション二つに割ったハードディスクに保存しており、片方のパーティションが一杯になったらもう一方を空にして利用する、という形で作業していたのだが、昨日、三ヶ月も前のデータの再利用を要求されるという仕事が来たため、念のために過去のデータもバックアップを取っておこう、と思い立ったが故の買い物。写真データなどが多いため、パーティション当たり2GBでは二ヶ月ぐらいで埋まってしまうのだ。商品回転の速い業界なので、二ヶ月前のデータを再利用するような展開は滅多にないだろう、と思っていたのだが、実際に来られてしまうと俄に慎重になる。
 ファイル同士の組み合わせが結構複雑になっているので、適当にコピーしているとデータの連携が崩れてしまう。一々点検しながらの作業である。んで、そうしていて初めて気付いたのだが、
 ……やっぱり、ス○ーウ○ーズの仕事、多い。実に700MBもデータが残っていた。深川の職場ではモノクロの新聞広告の製版を主に取り扱っているのだが、これだけあると皆さん一度は目にしている筈ですぜ、と言い切れそうな。

 そうこうしているうちに夕刻、バイトの時間になってしまった。うーん、何かやりたいことは殆ど出来ないままだった……どんどん橋の感想も(感想で済むか?)結局書けなかった。木曜日はしんどいっす。しかし、今日も帰宅時間までに雨が止んでしまいました。なんなんだこの体質は。
 今日、他に購入したのは相村英輔『不確定性原理殺人事件』(トクマノベルス)とナツメ社の『HTMLタグリファレンス』。前者はあとがきの異様な志の高さに却って不安が募る。後者は……ぶっちゃけた話、もうPage Millでは物足りないので、エディタなどで直に打ってやろうかと考え始めてます。いきなりそこまでは出来なくとも、画像などを多用したページは端からソースモードで記述してみたり。ソースからの入力は既にやっていることではあるが、タグの勉強自体したことがないし、と。しかし冊子が分厚すぎて真ん中が早くも割れそうな……。まあ、騙し騙し勉強します。

 ……機会が出来たら改めて考えよう、と思っていましたが、最近ちょくちょくと遊ぶにつけ、再び耐え難く躰の芯から沸き上がる欲求があります。
 ゲームが作りたい
 本当に理想とするゲームがやりたいのなら、人の作品にあれこれ言っているより、自分で作るのが結局一番手っ取り早いのです。現実に形にしたいアイディアも二、三抱え込んでおり、時としてそいつらが腹の中で胎動して治めるのに苦心する流事が少なくない。その為にはクリアしなければならないことが沢山あるのですが……というか、他にもやらなければいけないこと、どうしてもやっておきたいことは唸るほどあるんですが……自分の中で折り合いをつけながら、じわじわと動き始めてしまいそうな気配です。結局私なんぞ表現という行為のジャンキーに過ぎません。何かを描いていなければ腐って死ぬだけです。苦笑或いは憫笑しながらせいぜい見守ってやって下さい。
 ああ今日は一体何を書いているんだ。ともあれ、懸案のツーリングレポートとどんどん橋の感想は結局土曜日ぐらいになりそうです。明日は……日記を書けるかもよく解らん。浮き足だってそれどころではないかも知れないし。


1999年10月15日(金)

 ……ええと、初めまして。結局ここの管理人浮き足立ちすぎて大気圏離脱しちゃったらしくて、代理に引っ張り出されました、円城真奈美といいます……よろしくお願いします。一応管理人がイラストを描いているときのモードが私っていう触れ込みらしいんですが、あれと同一視されるの厭なんですが……いえ、まあ、それはそれとして。
 今日の管理人は日中仕事を片付けたあと、一旦自宅に帰還し、そこから電車で新宿に向かいました。普段電車になんか乗り慣れていないのでいちいち戸惑ってます。
 出口を間違えて駅の外を半周してから(東口から出ればいいって解ってないんだもん)、午後四時四十分ぐらいに紀伊国屋書店に到着しました。四階会場に向かう前に二階文芸書フロアを渉猟して、昼間近所で発見できなかったKADOKAWAミステリ創刊号と、サインしていただく為の本(当然『どんどん橋』です)、それに何故か発見しづらいとボヤいていた近藤史恵『アンハッピードッグズ』(中央公論新社)を購入してました。こういうところに来ると本題でなくても何か買ってしまうのって絶対に病気だと思います。
 そして漸く会場へ……って、もうかなり並んでるんです。階段のすぐ脇、ギャラリーの出入り口と反対側にサイン会場が設えてありました。でそこから階段添いに、もう六階の上まで人が並んでるんです。さすが。ところで管理人、わざわざ予め本を買ったんですが、綾辻さんのテーブルの手前で『どんどん橋』販売してます。当たり前といえば当たり前なんだけど凄い間抜けですこの男。
 五時からサイン会が始まって、じりじりと人の列が進んでいきます。管理人の順が廻ってきたのは五時半頃でした。前の人の様子を見ていると、『どんどん橋』ばかりじゃなくて、何冊か持ち寄った方も少なくありません。二人ぐらい前の人なんか文庫版『霧越邸殺人事件』の裏表紙にサインして貰ってました。管理人こっそりと悔しがってました。
 で、管理人の順が廻ってきました。人見知りの質だから別に何か言葉をお掛けした訳じゃないんですけどね。ただ、整理券の[著者へのメッセージ]という項目の書き込みについて、綾辻さんから謝られてました管理人。何と書いたかは内緒、だそうです。でも想像すれば大体当たると思います。もともと捻れない性格だし。
 そんな感じで恙なくサインしていただいたんですけど、管理人はそのまま会場をうろうろしてました。もしかしたら逢えるかも知れない、という人がいたからです。一応終いぐらいまでいて、駄目だったらそのまま帰ろうかと思った矢先に、近くで何やら挨拶し合っている人々がいて、会話の内容から探していた人だと解って声をお掛けしました。どなたかといいますと、津原泰水さんです。某掲示板で管理人が「綾辻さんのサイン会に行きますー」と浮ついた書き込みをしたら、津原さんも顔を出されるとかで「見付けたら声を掛けて下さい」と言って下さったんです。それで探していたんですが、なんとこの場で津原さんとお話しされていたのは河内実加さん南澤大介さんでした。そして管理人がそのあと何をしたかというと、津原さんを物陰に連れ出してサインして貰ってました。ろくでなしです。
 で、少しお話させていただいていたんですけど、津原さんは担当さんに発見されてサイン会が終わり次第拉致されてしまいました。編集さんとの会話を聴いて管理人は密かに笑ってました。人でなしです。
 結果として管理人は尊敬する作家さんお二人からサインを戴いた格好ですが、最大の収穫はまた別のものだった、と言い張っております。それは、

この手ですこの手(ちょっと手抜きな絵で申し訳ない)
※ちなみに後ろでまねっこしてるのは管理人です

 ↑の仕草をする女の子が本当にいたことだそうです。何を考えてるんでしょう管理人。

 と、管理人に対してちょっと辛辣に書いてみました。ここのところまともな更新をしてませんから、このぐらい当然ですね。
 円城は後日ツーリングレポートに登場させていただく予定です。管理人がちゃんとテキストを仕上げることを祈っていて下さい。では、今日はこのへんで失礼します。


1999年10月16日(土)

 寝る前に通常モードでちょっと追加。何だか津原さん、その後本当に拉致(カンヅメ)されているような。ちと心配。

 で翌日。疲れが溜まったのか0時を目前に急激に眠気に襲われているので以下適当。詳しくは日曜日、書き直すか17日の項に今日の分も纏めて書くことにします。

 起床。ちょっと風邪の兆候があったので風邪薬を飲んでやや休養。11時頃に勃然と買い物に出掛ける。といってもいつもの本屋=バイト先に買い物がてらサイン本を自慢しに行っただけ。今日も随分と購入しました。丹羽啓介『キャットルーキー(16)』(サンデーコミックス)で遂に七方二三矢編が完結しましたとか、触れたいことは幾つかありますが略。そのまま大回りしていきつけの蕎麦屋へ。ここの名物である天ぷらそば(うどん)を久々に食う。やっぱり旨いっす。
 午後、ツーリングレポートの続きを書く。随分進んだつもりなのだがまだ初日が終わらない。どうも書きたいことが思っていたより多かった、ということなんだな。二日目は殆ど高速を走っているだけだったので書くべき内容も乏しいし、それを思えばもうじき完結するはずなのだけど。
 兎に角委細は明日持ち越し。大した話はありませんけどね。『どんどん橋』の感想も出来るのなら挙げましょう、明日。

おやすみ。


1999年10月17日(日)

 今日、初めてパラフレーズ(負)というものの真髄を見たような気がする。なるほどねー、と一人深く首肯する私。それにしても意思の伝達って難しいのね。……あ、無理に理解しようとする必要はないですよこの一文。深川の彷徨いている場所が解っている人だけ検証してみて下さい、暇だったら。処でネット上においてパラフレーズの語義って殆ど(負)の方のみ利用されているような。(正)は一体どういう状況で使用できるんでしょ。……あ、ますます理解する必要はありませんよ、ただの独り言ですから。更に言うとうちの辞書ではパラフレーズに本来負の意味は(以下略)

 昼間、二時間ほど買い物に出掛ける。上野から秋葉原辺りをさくっと散策する程度だが。親に頼まれたワープロの感熱式ラベル用紙を二種二組ずつ買い、次いで明正堂へ。倉知淳や貫井徳郎とか欲しい新刊も見付けてしまったんだが、最大の目当ては何処かにひっそり残っているんじゃないかと勘ぐっている『妖都』である。……ありませんでした。
 そこからやや離れて秋葉原のヤマギワソフトへ。貯まっていたポイントをちょっと浪費してこようという腹である。最初は『バースデイ・コンサート』(誰のかはもはや言うまでもあるまい)を買おうかと思っていたが、あとの楽しみに残すことにする。ぶらぶら見回って、結局Jacoも噛んでいるAl DiMeola『Land of the Midnight Sun/白夜の大地』(Sony Records)に決めたのだが……ない。いっくら探しても、ない。ディメオラはJazzではなくFusion(この二つの境界って何処にあるんだ?)に分類されていることは解っていたので、念入りに探してみる……ない。諦めて別のものにしようとロックの棚にまで視野を拡げて周遊するが、特にめぼしいものは見付からない。終いには帰宅するつもりだった時刻を過ぎてしまい、仕方なく注文する覚悟でレジのあんちゃんにディメオラのアルバムの有無を訊ねてみた。あんちゃん、暫し検索装置を弄っていたかと思うと徐にJazzの棚に向かい、持ってきてくれた……『白夜の大地』しかも紙ジャケット
 ――説明しよう! Sony RecordsのJazz/Fusion系アルバムは数年前から定期的にCDに移植されているのだが、その多くは初回版のみ紙ジャケット仕様で発売されているのである! 往年のLP世代を強く意識したこの企画であるが、ジャケットの天地が通常のブラケースよりやや大振りなため、並べると不揃いになったり、下手な棚だと上下のサイズが足りず収納不可能になってしまうという些か厄介な代物なのである! その為か、ここヤマギワソフトでは紙ジャケットのものを一箇所に纏めて置いており、しかもその場所はJazzの棚の「A」より前に当たるのである! しかも、Fusionに分類されているアーティストも、紙ジャケットで発売されたものは一緒くたになっているのだ!! ……いや、そこに紙ジャケットがあるのは解っていたんですけどね。何せCD一枚分の厚みしかない背に書かれたラベルを手懸かりに探さなければいけないもんだから、見落とした……いえ、はい、適当に探してました……御免なさい。

 帰宅後、両親と共に近所のラーメン屋へ食事に出掛ける。最近、何かの雑誌に紹介されたという店である。なんか最近自分の小説に登場させた覚えのある油染みた店だったが、味は成る程評判も宜なるかなという感じ。だが、深川一家と同じ理由で訪れた客が多かったのか、結構混み合っておりなかなか囂しい。特に子供。店は狭くカウンター席が7、8つとテーブル席がひとつ、あとはカウンター向かいの壁際にある座敷に座卓が二脚あり、我らが一家はその出入口に近い方に腰を下ろした。問題の子供は、もう一方の座卓に陣取った家族の一員であるらしい。声のみで判断する限り二人兄弟(一方は男女の別を確かめてない)で、どちらかが「たくや」という名前らしく頻りに「たくちゃん」「たくちゃん」と呼ばれている。返事してやろうかと思った。
 何故頻りに名前を連呼しているかというと、その子のやんちゃが過ぎるからである。早々と食べ終わって手持ち無沙汰なのか席を立って外から中を覗き込んでみたり嬌声を挙げてみたり。店全体が喧噪に包まれているから私達家族も他の客もさして気にしている様子はないのだが、親にしてみれば堪ったものではないだろう。幾度となく注意するが「たくちゃん」は全く聞く耳を持たない。たまたま舞い戻った隙をとっ捕まえた親御さんは、店の方に対して斯く宣った。
「すいません、ここにスープの素(ダシのことな)があるんですけど、使っていただけます?」
 店の方、一瞬の躊躇のあと、「……はい」
 場の空気を察した「たくちゃん」、火が点いたように泣き出す始末。カウンター奥の物陰に隠れて、親御さんが「戻っていらっしゃい」と言うのに「厭だー!」と柱にしがみついている。些かお灸が効きすぎた、という一幕でした。いや、ラーメンも旨かったが、こっちの方がインパクトがあったのね。

 午後から夕方に掛けて、だらだらしながら綾辻行人『どんどん橋、落ちた』(講談社)の書評を書き上げる。なんか、言わずもがなのことしか書けなかったが、まあ本格ファン――というより綾辻作品のファンとして、本書は紛う方なき一里塚的作品であるよ、というのを自分に再確認させたかっただけなので、これで良しとする。

 ……えー、まあ、そういう訳で……作品が世に出てしまいます。実は光文社文庫「本格推理」シリーズ既刊にも一本掲載されているのですが……そっちはまあ、若気の至りなので(18歳の頃の作だし)適当に流していただくとして。読んだら是非とも感想をお聞かせ下さい、といった訳で。……既に幾分怯えている深川です。いぢめないでね。


1999年10月18日(月)

 朝、バイクに跨り出勤途中に短編のネタが降ってくる。ホラー。今優先したいのは長篇、それも本格ミステリなんだがそういうときに限って無関係なアイディアが湧いて来るんだよ。尤も、長篇のネタは骨組み自体は概ね出来ているので、欲しいのは細部なんだが……どっちにしても出てこないのに変わりない。取り敢えず降ってきた着想を書き留めよう、と思ったら朝に今日一日の仕事が纏めて襲いかかってきた。まあ夕方になった現在も脳の片隅で息づいているので、もう無理に書き留める必要はないんですが。そろそろHPにも書き下ろしの小説をアップしたいよなー。でも今日思いついたものを掲載するかは謎。

 職場の休憩所代わりに使っている元住居に、昼前、奇妙な訪問者があった。水道局から末端の水質調査を委託されている民間企業の職員とかで、何でもこの近所の企業で水質に異常が見られたため、同じ水道の支流から供給を受けている一般家庭に調査協力を求めているらしい。各戸の水道からコップ一杯分の水を採取し、それをその場で機械にかけて調べるだけだと言う。まあそのくらいなら、と思い、後ほど正式に係員が訪ねてくる、というのを取り敢えず了承した。
 午後三時頃、宣言通り彼等が再来した――この時深川は二階にて午睡と戯れていたので以下母からの伝聞である。やや正確さに欠くかも知れないが細部は想像で補っていただきたい。
 ともあれ水道からコップ一杯分の水を採取すると、彼等は持ち込んだ機器でもって水質検査を行った。母の話によると、ビーカー様のプラスティック容器に水を注ぎ、その中にU字型の、水に浸かる部分に数点の穴が穿たれた棒を差し入れ、突き出た二つの末端に電極を付ける。そうして電極に繋がっている電源を入れると、程なくビーカーの底に緑色の、如何にも「変なものです」然とした沈殿物が生じたのだという。そこで徐に彼等は「お宅にある浄水器では合わないので、こちらを購入いたしませんか?」と来たのだそうだ。しかし先述の通り、この家屋は現在日中しか利用しておらず、その間の飲料も沸騰させた水で煎れたお茶や麦茶、或いは市販のミネラルウォーターなどが主であり、浄水器についても一定期間毎にカートリッジを換装している。必要ありません、と言うとそそくさと退散したそうな。この時、上に私が存在しているとアピールしたのも奏功したらしい。起床後話を聞いた私は「水質調査の結果は、置いて行ったのか」と母に訊ねた。当然、置いていっていない。現れた男たちは見場も人当たりも悪くなかったそうだ。
 後ほど母は水道局に連絡、担当者は間違いなく詐欺だと断言した。実害もなかったもので、一興にと柴田よしきさんの掲示板に書き込んだ処、柴田さんの旦那さんが地質・水質調査の技術者だそうで、水道水の末端調査を突然行うことはない、と仰言っていたという。他の皆さんの反応を見ても、結構あちこちで発生している詐欺と思しい。皆様、御注意下さい。二人以上家にいる状況でこういう輩が訪れたら、一人が話に乗る振りをしてもう一人が警察に通報する、というのも手です(但し居直られるといけないので、警察にはひっそりと裏口から来て貰う、ぐらいの提案を予めしておきましょうね)。

 某ソフトメーカーの掲示板が閉鎖されました。先日私が、最新作の劣悪な出来に憤って書き込みをした掲示板です。額面上『工事中です』となっていますが……何となく察しはつきます。発端は作品の不出来にあるのですが……まあ、あまり多くは語りますまい。取り敢えず、当然の成り行きだろうな、とだけ。

 今日の買い物は漫画中心の緩め。特筆すべきは『悠久幻想曲 Perpetual Collection Official Fan Box』(メディアワークス)ですか。本当に無条件に好きなんですってば。CDを揃えてないだけでもまだましなんです。問題の中身はシリーズ番外編『悠久幻想曲ensemble1・2』の攻略ガイドに年末発売予定の最新作の設定資料、それに明らかにマニアを対象にしたグッズが数点と、CD Extra仕様のCD。Extra部分にはスクリーンセーバーに壁紙と、お定まりのものが収録されてます。音楽部分は、『〜ensemble』のオープニング及びエンディングテーマ四曲を収めてあります。処でこのシリーズ、テーマ曲の大半を「畑 亜貴」という女性(だと思うんだが)アーティストが作詞・作曲・歌を手掛けているのですが……あのね、歌がね……ちょっと、ね。曲想は谷山浩子さんに似た世界観で味があるんですが、……歌は、ね。他の方が唄えばまだましなのに、と思ったが、シリーズ別作品で声優とか新人タレントとかが唄ったときも……ね。まともだったのはタケカワユキヒデぐらいのものだったがキャリアが違いすぎて参考にならない。……はい誰もついてきてませんね。

 作務和一『恐怖の都市伝説 子どもが消える!』(廣済堂文庫)読了。以前からインターネット上で都市伝説の収集をしていたという著者が、洋の東西を問わず伝播する噂話を解説したもの。同じ様なテーマを扱った平山夢明『東京伝説』(ハルキ文庫)について当ページの書評の項で触れているが、娯楽目的とすればあちらの方が出来は上だろう。本文の中にエピソードを取り込むという手法を選びながら、読み物であることを目指してしまったために各説話の上っ面しかなぞれず、結果全体が平板になってしまった。いっそ『東京伝説』同様、エピソードを切り出して紹介した方がましだったのでは……って、ここの話はバリエーション化されてしまっているのでそれも拙いのか。とすると、問題は構成技術だな。語ることがあまりないので書評も書きません。しかし、ネットで情報収集していると言うならちゃんと何処かにアドレス明記しといてくれって。

 ところでこの日記、重くないですか。何やらどんどんと一日の記述が長くなっているような。


1999年10月19日(火)

 銀行へ行ったあと、某ファッションビル(笑)の書店をチェックする。購入したのは日下三蔵・編『乱歩の幻影』(ちくま文庫)山田風太郎『忍法関ヶ原』(講談社文庫)。期せずして日下さん絡み二冊。ちくま文庫はもともと入手しづらいのだが、先月までバイト先の書店でも翌朝には店売分が入荷できていた山風の方が、とうとう廻ってこなくなったのでやむなく余所で買うことにした次第。ここでも、平積みになってはいるが実質四冊しか置いてないし。ホントに、ブーム再燃をうたうんなら短編集出してみろと言うのに。そして『忍法相伝'73』も。あと中田雅喜の文庫本も買おうかと思ったが、さんざ探し回った挙句、店員に「売り切れです」と言われた。すごすごと退散……あ、『IN・POCKET』の最新号買うの忘れた。山風の作品リストが載っていると聞いて買うつもりだったのに。
 次いでバイト先へ。毎週の雑誌と野間美由紀『アダマントの砦』(花とゆめコミックス)を買い、中田雅喜の文庫本も取り寄せて貰うことにした。そして来月発売するはずのあれの入荷数について話す。今回は折悪しく、母が丁度発売後ぐらいに同窓会に参加するとかで、そこで売りつけてくるなどとぬかしているため、やはり10冊は要るだろうか。それより、果たしてあれは一般客に何冊売れるんでしょう。シリーズ自体の売上は明らかに下降気味なんですがどんなもんなんでしょう。

 実は今日、深川の仕事はなかった。受け身の業種はこれだから辛い。

 帰り道にまたバイト先の本屋に寄る。中田雅喜『純情ももいろ日記』(廣済堂アテール文庫)倉知淳『幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート』(創元クライムクラブ)と花ゆめ(臆面もなく書く)。……週末にプレMYSCONがあるんで、これでも控えてる、つもり、なん、ですが……

Al DiMeola『Land of the Midnight Sun/白夜の大地』(Sony Records):買ってから間が空いたが一応レビュー。スーパーギタートリオの一人としても知られる、ジャズギター界屈指の巨人。Chick Coreaのプロジェクト"Return To Forever"第二期の中途から参加したことで俄然注目を浴び、その後初めて制作したリーダーアルバムが本作である。第二期RTFのメンバーが全員参加した(バラバラにだが)上にデビュー間もないJaco Pastriusも『組曲「黄金の夜明け」』のみだが参加している。デビュー作とは信じがたい豪華なセッションである。
 全体のカラーはRTF『第七銀河の讃歌』あたりに近いが、よりラテン的情熱に満ち溢れて、聴いているうちに何やら妙なエナジーが注ぎ込まれているような気分になる(……電波か?)。バークリー音楽院に入学しながら「もう学ぶべきことはない」と豪語したというだけあって、速弾きを含めたテクニックは圧倒的。ただ、その技術の前に表現力が埋没してしまっているのが難と云えば難。フレーズに滲む「熱さ」が、眩暈を感じさせるようなピッキングの前にどうも霞んでしまっているのだ。……というのは所詮屁理屈なんだが。Chick Coreaにも相通ずるスパニッシュカラーを帯びた情熱的な音色が、暫しの酔いと共に新たな活力をチャージしてくれます。個人的には劈頭『The Wizard』、ラストにおけるChickとの華麗なる競演『Short Tales of the Black Forest』がツボ。……あ、両方ともディメオラの作曲じゃない(笑)

 唐突ですが、どなたか鮎川哲也の『白の恐怖』ってお持ちじゃないですか。最近たまに、立風書房で全集を刊行した頃に北村薫さんと知り合えたら良かったのになー、と思う。すりゃこんな苦労しなくて済んだによ。もう待ちきれないです、『白樺荘事件』。

 久々に「音匣」更新しました。といっても、日記に書き込んだ感想を二つ切り出しただけですが。Jim Hall & Pat Methenyに関しては、結局あれ以上書き足すことがなさそうなのでそのまんま。DiMeola『Land of the Midnight Sun』も上の記述をほぼそのまま転写しました。はいそうですズルです。他のものはちょっと推敲を加えてから載せます……そうそう、一部の方御期待のあれも、そろそろ新たに書き起こします。


1999年10月20日(水)

 疲労で傘の骨が折れた。布地には「クリフハンガー」のロゴ。……そりゃ折れるよな。そして新しい傘は「レリック」だったりする。

 本格ミステリにおける必読書とは何か? ――肩書きにマニアの三文字を添えるような人種に訊ねて廻ると、却って紛糾しそうな設問である。エラリー・クイーンを絶対的な手本に据える私などはレーン四部作(これに関しては「バーナビー・ロス」を何らかの形で冠さないと憤る向きもある)なり国名シリーズなりを真っ先に挙げるだろう。ミステリを大衆文学たらしめたことに敬意を表して「シャーロック・ホームズ」の諸作も採り上げねばなるまい。また、トリックの蒐集・分類を手段として作中に取り込み、トリックの体系化を押し進めるに一役買ったカーの『三つの棺』或いは『ユダの窓』なども加えるべきだろうか? 国内では高木彬光の初期作品に横溝正史の諸作、ややひねくれた向きならば所謂「黒い水脈」の作品群――『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』、或いは『はこの中の失楽』も閑却視し難いであろう――なども挙げるかも知れない。また、古典崇拝に傾くを危ぶみ、泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズに連城三紀彦の花葬シリーズ、島田荘司の『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』といった「新本格」直前の傑作群に言及する者もあるだろう。そうして最終的に羅列する作品の数は恐らく膨大な数に上る。
 これから本格ミステリという名の大海に飛び込もうとする初心者に対して、それらの全てを薦めても埒は開くまい。その人のペースによっては古典や必読書を辿っているだけで大変な時間を費やしてしまう場合もあるだろうし、何より人にはそれぞれ嗜好というものがある。本格原理主義者(……何遍見ても危ない表現だ)でもクイーンばりの論理に重きを置く者とカーの如き外連味溢れるトリックを崇める両派に分かれるように(本来ならこんな大雑把な分類で済む筈がないんだが本論じゃないから避ける)、単純に「本格ミステリが好き」と言っても薦めて無難な作品が系統立って存在している訳ではない。安易に己の趣味や主義思想のみで薦めてしまっても、相手の要求に馴染まなければ意味がない――可惜、本格というジャンルに新たな息吹を注いでくれるかも知れなかった人材を無為に喪うという事態にも繋がりかねないのだ。薦められる側が薦める側に傾注している、唯々諾々とその嗜好を甘受できるという関係が双方に結ばれているなら問題は生じないけれど、ことはそう単純に済まされまい。
 畢竟、本気でそのジャンルについて学びたいと考えるならば、自分で道を造るしかない――自分で造って貰うしかないのだ。他人に拠らず自らの望む方向へ通じるであろう道を己が腕で切り開く。この際、道を指し示す側がしなければならないのは往くべき道筋を明示することではなく、その者が往こうとしている方位を指し示すこと――羅針盤の役割なのだろう。これから道を切り開かんとしている彼等の脇につかず離れず寄り添って、やがて迷うだろう彼等の指標となること。
 けれど現実には誰もにそうした羅針盤が――あらまほしき先達があるではなく、結局は己で道を探し求めなければならない。そんなとき彼等に出来るのは、風の噂を頼るか、取り敢えず己の聞き及び僅かなりとも知識のある方位を目指すことぐらいであろう。
 要するに、新人の混迷ぶりを憂う先達に対して私が求めたいのは、そうした指標の絶え間ない供給なのである。大凡の入口はここにあり、次ぐ分岐には斯様な謎掛けがあって、そしてその向こうに今どんな世界が開けているのか――あとに続く者たちに対して、常にそうした指標が与えられるような状況を用意しておくこと、それだけがジャンルを保守する唯一有効な手段なのではないか、と思う。書き手が決してコアではない人々をも吸引するような作品をものすることでもって愛すべきジャンルを崩壊の危機から守るように、評論家諸氏には常に一切知識を持ち合わせない人々を対象にした論述を常に怠らないで戴きたい、と願うのだ――内側の議論に終始して、閉鎖状況の中でジャンルを腐らせてしまう前に。

 ――以上が枕で、んで結局何が言いたかったのかと言いますと、ちょっと幻想文学について真面目に取り組みたくなったから、取り敢えず分かり易いところでラヴクラフト全集一巻(創元推理文庫)を買ってきましたよ、ということなのであった。……呆れた?

 ……と莫迦をやりながら山田風太郎『魔界転生(上)(下)』(講談社文庫)読了。いやーもう、有無を言わさぬ大傑作。書き飛ばしたくないので書評は後日、気を入れて取り組みます。

 夕方から臨時のバイト。朝方の雨はその頃には上がり、帰宅する頃には月が冴え冴えと空に漂っていた。この数日で急激に冷え込んで、重ね着にも拘わらず風が肌を刺すようで痛い。町中から季節感というものが薄れて久しいけれど、幾つかの変化が冬の到来を如実に感じさせてくれる。風の他には……猫。あの狼藉からこっち、ずっと段ボール箱で丸まって寝るのを習慣にしていた飼い猫が、一昨日から私の蒲団の上でのうのうと眠るようになった。つられるように私も今日、寝間着を厚手のものに換えた。今年は一足飛びに冬が来るようで。


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