爽やかで優しさに満ちた楽曲を作る、永遠のロック青年

　ワシントン州の小さな町で生まれ、プレスリ−やビートルズを聴いて育ったケニー・ロギンス。内気な性格のため一時はペンで身を立てることも考えましたが、音楽への情熱やみがたく、21歳の時にまずソングライターとして週給100ドルで音楽出版社と契約。当時カントリー・ロックで人気のニッティ・グリッティ・ダート・バンドに「ダニーの歌」「プー横丁の家」などのヒット曲を提供します。次第に歌の実力も認められ、ソロ・デビューが決まりますが、プロデューサーとして招いたジム・メッシーナと意気投合してロギンス＆メッシーナを結成。「ママはダンスを踊れない」などの大ヒットで“70年代最高のデュオ”といわれました。しかし76年に惜しまれながら解散、ケニーはいよいよソロ活動をはじめます。

　70年代のケニーのソロ・アルバムはいずれも高く評価されましたが、彼自身がビッグ・ネームと呼ばれるには少し華やかさが欠けていました。話題になる楽曲は、いつも誰かとの共作なのです。初の全米ナンバーワンを獲得した「二人の誓い」は、当時人気全盛だったロックバンド、フリードウッド・マックの妖精＝スティーヴィー・ニックスとのデュオでしたし、グラミー賞の最優秀楽曲賞に輝いた「ある愚か者の場合」は、ドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルドとの共作でした。さらに80年代のヒット曲が、「フットルース」（映画『フットルース』主題歌）、「デンジャー・ゾーン」（映画『トップガン』主題歌）とサントラばかりだったことも、“曲はいいけど、表舞台で目立つことはしない”というケニーのイメージを作る結果になったのかも知れません。きっと彼の本質は、あくまで純朴な田舎のロック青年なのでしょう。しかしそんな彼の人の良さがにじみ出るような、爽やかで、優しさに満ちた楽曲だからこそ、多くの人に愛されたこともまた事実なのです。

　90年代に入るとケニーは派手な舞台から身を引くように、慈善事業や環境保護活動に力を入れながら、２〜３年に１枚のペースで『リープ・オブ・フェイス』『アンイマジナブル・ライフ』などのアルバムを発表し続けています。決してセンセーショナルな話題に上ることはありませんが、50歳を越えてなお、気心の知れた仲間たちと誠実な作品を作り続ける現在の彼は、とても楽しそうに見えるのです。