韓国の伝統芸能
韓国にも有史以来数多くの舞踊や歌が生まれ、芸能として育ってきた。
大抵は時代背景を映したものが多く、美を追求するもの、音楽的要素を追求するもの、物語を追求するもの、あるいはそれらの要素を併せ持った性格のものなどさまざまである。
庶民や農民の間から、自然発生的に生まれてきたものは、祈りであったり、感謝であったり、場合によっては、宗教的色彩を帯びていると感じられるものさえある。
それゆえ、生まれた背景や時代によって、その内容や目的は多様である。
歴史的には三国時代から受け継がれてきたものから、20世紀に入って誕生したもので、ある種伝統的な要素を包含しているものも、伝統芸能としてとらえてみたい。

[韓国の伝統芸能]としてとらえるとき、いろいろな考え方、見方があるだろうと思うが、ここでは、大きく、伝統的な舞踊、歌、楽器演奏などをとりあげて、少し整理して見たい。
 
韓国の伝統芸能の分類
韓国に伝わる伝統芸能の多くは、伝統楽器の演奏に合わせて、踊ったり、詠ったりするものである。
踊りが主体の芸能もあるし、歌が主体の芸能もあるので、それぞれが生まれた背景や内容によって、分類するのが適当であろうと思う。
本サイトでは、これらの芸能を4種類に分類して、それぞれ簡単な説明をくわえることにしたい。
それらは、舞踊を中心とする[전통부용(伝統舞踊)]、太鼓に合わせて物語を演ずる[판소리(パンソリ)]、4種類の伝統楽器による合奏[사물놀이(サムルノリ)]、そして農民の生活から生まれた[농악(農楽)]の4種類である。

右のメニューをクリックしていただくと、それぞれの説明が下にダウンロードされるのでご覧いただきたい。
 

전통무용(伝統舞踊)
人類の生活の中で舞踊というのは欠かせないものであり、世界各国で有史以来受け継がれている伝統的な舞踊が存在している。
韓国でも例外ではなく、先史時代から始まった舞踊が、徐々に形式化して、今日に伝わっているものと考えられている。
特に朝鮮王朝の時代に入って(1392年)からというもの、[궁중무용(宮中舞踊)]と[민속무용(民族舞踊)]という2種類の系統の流れが確立し、今日に伝えられている。
それぞれについて簡単に解説したいと思う。
 
궁중무용(宮中舞踊)
 
궁중무용(宮中舞踊)は정재(呈才)とも呼ばれる舞踊で、王宮の尊厳や威厳を称賛する内容で芸術性が高いのが特徴である。美しく静かな中に力強い動きを秘めており、宮中で踊るため上品かつ優雅さを湛え、衣装や装飾品はまばゆいばかりのごく極彩色が多用されている。
さまざまな宮中舞踊があるが、今日に伝えられているもののうち、主なものを次に紹介する
 
처용무(処容舞)
 
처용무(処容舞)は、5人の男性が仮面をつけて踊る力強い舞踊である。
5人の踊り手は東西南北と中央を象徴する5色の服を纏って踊る。東は青色、西は白色、南は赤色、北は黒色、そして中央は黄色である。
この色に割り当てられた5つの方角は重要な意味をもっている。
踊りは陰陽五行説の精神を基礎にして悪を追う、という意味がこめられており、踊り手の5人は円形、四角形、五角形、直線などさまざまな隊形を組みながら踊る。
重要無形文化財第39号に指定されているほか、2009年にはユネスコの世界無形文化遺産に登録された。

 
학연화대무(鶴蓮花台舞)
 
학연화대무(鶴蓮花台舞)は、朝鮮王朝時代から受け継がれている伝統の舞踊で、宮中の邪気を払うための舞である。
鶴の仮面と衣装を身につけた二人の女性が、優雅な姿や振る舞いを演ずる학무(鶴舞)という舞踊が展開される。(写真 左左)
鶴が嘴で蓮の蕾をつつくと蓮の花がひらき中から女の子が現れ、鶴はびっくりして逃げていってしまう。そして、蓮の花から出てきた童女は연화대무(蓮花台舞)という舞を演ずる。(写真 左右)
こうして학연화대무(鶴蓮花台舞)は、학무(鶴舞)と연화대무(蓮花台舞)という二つの舞踊から成り立っており、人間と鶴という動物が触れ合う世界を表現した芸術性の高い貴重な舞踊である。
韓国の重要無形文化財第40号に指定されている。
 
춘앵무(春鶯舞)
 
朝鮮王朝第23代순조(純祖)王(在位:1800年-1834年)の子である효명세자(孝明世子)が創作した宮中舞踊である。
華やかな衣装と족두리(花冠)を頭につけた女性が、床に敷かれた大きさ6尺x8尺の화문석(花紋席)と呼ばれる花ござの中だけで舞う舞踊である。
狭い空間の中で、自分の世界を表現する独特の舞である。

 
무고(舞鼓)
 
무고(舞鼓)は고려(高麗)第25代王충렬왕(忠烈王)(1236年-1308年)の時代に시중(侍中) である이곤(李混)によって創作された舞踊と伝えられている。
大きな무고(太鼓)を中心において、数人の踊り手がいろいろな形を作りながら太鼓を叩いては踊る、というものである。
時代によって舞の振り、踊り手の人数、太鼓の数が変化してきて、朝鮮王朝中期以降になって、太鼓が1個、踊り手が4~8人の構成に定着した。
太鼓の叩き方やリズムは多様で、あたかも蝶が舞うような優雅な舞である。
 
민속무용(民俗舞踊)
 
민속무용(民俗舞踊)は、庶民の中から自然発生的に生まれたものが多く、時代や地域により、その種類は200種類とも300種類とも言われ、実に多様である。
一般に、祈りや、生活の喜怒哀楽の感情を表現したり、庶民の素直な感覚を扱ったものが多い。
しかし、娯楽的側面が強く、思わず一緒に踊りたくなるような躍動的なリズムが特徴でもある。
誰が作ったものでもない庶民の自然な意識の中から編まれた創作舞踊であると言える。
今日なお伝えられ守られている、あまたある민속무용(民俗舞踊)の中から、代表的な舞踊を若干まとめてみた。
 
강강수월래(強羌水越来)(カンガンスウォルレ)
 
강강수월래(強羌水越来)(カンガンスウォルレ)はカンガンスルレとも発音し、陰暦8月15日추석(秋夕)に、きれいに着飾った女性たちが集まり、お互いに手をとって丸く輪をつくり、歌を歌いながらくるくる回って踊る舞である。
朝鮮王朝時代から전라도(全羅道)に伝わる舞踊で、秋の空高く上った月と対話しながら、日ごろの苦労を癒す、いわば発散の場であった。

1966年2月、韓国の重要無形文化財第8号と指定された。
 
승무(僧舞)
 
승무(僧舞)は仏教的色彩の強い舞踊である。
藍色のスカートと장삼(長袖の僧衣)を纏い、頭に白い고깔(三角帽子)を被って踊る。
もともと寺刹の宗教的舞踊が原点だという説もあり、修行僧の煩悩や葛藤・解脱を描いているといわれ、人間本然の悲喜を克服し、それを昇華させる求道的な舞である。 人生の苦悩や哀歓を表現した韓国の民俗舞踊の精髄として広く知られている。あらゆる伝統舞踊の技巧を集大成した舞といもいわれ、流麗な장삼(長衫)の線と、静・中・動をふまえた呼吸と足運びが特徴である。

韓国の重要無形文化財第27号に指定されている。
 
태평무(太平舞)
 
태평무(太平舞)は誕生が新しい舞踊で、20世紀に入ってから、舞踊家한성준(韓成俊)によって、作られたとされている。
경기도(京畿道)の무속(巫俗)の影響を強く受けており、リズムは굿(クッ:무당(ムーダン)が行う祭祀)の巫俗拍子が基準となっている。
国家の平安を祈念する舞で、伝統舞踊の中では足の動作が技巧的で、腕の動きも多様な難しい舞である。動作が繊細で優雅な舞である。

韓国重要無形文化財第92号に指定されている。
 
살풀이춤(煞プリ舞)
 
살풀이춤(煞プリ舞)(サルプリチュム)とは、煞(悪運)に見舞われるのを防ぐため무속의식(巫俗儀式)によって厄を解く舞、という意味である。
踊り手は白い치마저고리(チマ・チョゴリ)を纏い、柔らかな白い수건(手布)を手に持って、静かに幻想的な舞を舞う。
한(恨)を解く、という意味であるので、人間の内面からあふれ出るものを表現する独特の舞である。

韓国重要無形文化財第97号に指定されている。
 
탈춤(タルチュム)
 
탈춤(タルチュム)というのは、탈(仮面)の舞、という意味である。
起源はかなり古いもので、三国時代からはじまって、現在まで受け継がれている。
踊り手は、人、動物、場合によっては超自然的な存在の仮面をつけ、弦楽器、打楽器のリズムに乗って劇的な舞を演ずる。
内容的には、時代や地域によって、変化を遂げながら今日に至っているものの、その中で共通している精神は、社会の悪や日常の問題を痛烈に風刺し批判するコミカルな芝居である、という点である。
そして、見物している人たちの笑いを誘い、共に한(恨)を晴らすという演劇と言った方がよいであろう。
 
오고무(五鼓舞)
 
오고무(五鼓舞)という舞は、その文字が示す通り枠に吊るされた5面の太鼓を叩きながら舞を舞う伝統舞踊である。
起源は高麗時代に遡ると言われているが、その後変遷を経て、現在の姿に至っている。
5人の踊り手の女性の一人一人の左右に2面ずつ計4面の太鼓、そして背面に1個の太鼓があって、踊り手はそれら5面の太鼓を叩きながら舞う。
太鼓のテンポは最初ゆっくりで、だんだん上がっていく。5人の呼吸がぴったりあって、ダイナミックなリズムに乗った舞を展開する見事な舞踊である。
 
검무(剣舞)
 
검무(剣舞)は、剣をもった舞で、新羅時代にその起源がある、と言われている。
朝鮮王朝時代に入って、いろいろな宴会などで公演を重ねながら現在の姿が確立してきた。
剣舞の大きな特徴は、연풍대(筵風擡[ヨンプンデ])の動作にある。
筵風擡というのは、腰を前に屈めたり後ろに伸ばしながらぐるぐる回る動作のことを言う。
舞うときに鳴る金属的な音も特徴の一つである。

 
부채춤(扇の舞)
 
부채춤(扇の舞)は多数の女性たちが扇をもって舞う現代韓国の代表的な舞踊である。
起源は新しく1950年代初期に作られた創作舞踊である。
華麗な宮廷衣装と、花の絵が描かれた羽のついた扇を利用して、花や波打つ様子などが群舞で表現する現代韓国の代表的な舞である。
優雅でありながらも躍動感、生命感のあふれる見事な舞踊である。


 
장고춤(杖鼓舞)
 
장고춤(杖鼓舞)は踊り手が장고(杖鼓:チャンゴ)を肩にかけて舞う伝統舞踊である。
起源は新しく1950年代に生まれたものである。
杖鼓舞の舞踊の編成は、一人で舞う独舞もあるし、多人数で舞う群舞もあり、多様である。
女性の踊り手たちが杖鼓舞の裳を腰に巻きつけて、杖鼓舞独特の動作を取り入れた杖鼓舞は、韓国の伝統文化を受け継いだ民族舞踊と言える。
ある種、농악(農楽)の설장고(ソルチャンゴ)を想起させる舞である。


판소리(パンソリ)
판소리(パンソリ)は、一人の소리꾼(歌い手)が一人の고수(鼓手:太鼓を打つ人)の太鼓のリズムに合わせて綴るオペラに似た伝統芸能である。
歌い手は一つの物語を口演するのだが、このとき3つの要素が大切な役割を演ずる。
3つの要素とは、창(歌)、아니리(台詞)、そして너름새(身振り、舞)のことである。

판소리(パンソリ)の판(パン)は多くの人が集まる場所を意味し、소리(ソリ)は音を意味する。したがって、판소리(パンソリ)というのは、歌い手と大勢の観衆が一体となって演ずる、という独特の伝統文芸であると言える。
しかし、その起源は必ずしも明確ではなく、17世紀以前にその由来となるものが存在した大衆芸能であると見られている。
판소리(パンソリ)の台詞や歌、リズムは紙に書かれたものはなく、完全に口承文芸である。

판소리(パンソリ)を演ずるとき衣装は한복(韓服)を身につける。そして歌い手は物語を歌で綴り、아니리(台詞)で状況を説明していく。
そして、単に歌と台詞だげてはなく、발림(身振り、너름새のこと)が重要な役割を果たすのが大きな特徴である。
この발림(身振り)とは、片手に持った扇子で、歌い手の心情を強調したり場面が変わったことを聴衆に知らせたり、また手足の動きや顔の表情などの身振りで状況を一層リアルなものする効果がある。

판소리(パンソリ)は300年以上の歴史の中で多くの物語が演じられたものと推測される。
しかし、現在完全な形で伝えられてきているのは、5作品だけである。
以下に、その5作品を簡単に説明しておく。
 
作品名 内容
춘향가(春香歌) 부사(府使)の息子である이몽룡(李夢龍)は、妓生월매(ウォルメ)の娘성춘향(成春香)と恋に落ちる。しかし、身分の異なる二人には様々な障害が待ち受けている・・・
심청가(沈清歌) 主人公は심청(沈清)という娘で、母親は심청(沈清)が生まれたときに亡くなってしまう。一方父심학규(沈鶴圭)は盲目で、심청(沈清)は苦労して父親を養っているが、父親の目を治す治療費を捻出するため船頭に売られることになってしまう。航海の安全を祈るために海の神様の生贄になった沈清。そんな沈清を哀れに想った海の天帝は…。悲しい物語だが最後はハッピーエンドである。
흥보가(興甫歌) 欲深い兄놀보(ノルボ)と心優しい弟흥보(フンボ)の物語。ノルボは親の遺産を独り占めし、フンボの家族を家から追い出してしまう。フンボは貧しい生活をしながら一生懸命に働く。ある日、フンボは、巣から落ちて脚を骨折した子燕を直してあげる。
翌年恩返しにきた子燕は、フンボに瓢箪の種を一つ置いていく。フンボがその種を蒔くと・・・。
수궁가(水宮歌) 용왕(竜王)の病気を治すため토끼(兎)の肝が必要だということで、별주부(すっぽん)がその役を負うことになった。별주부(すっぽん)は、地上で運よく兎に出会うことができたが、賢い兎に騙されながらも懸命に交渉する。しかし、結局、兎に逃げられてしまい肝を手に入れることはできなかったが、肝の代わりに兎の糞を용왕(竜王)に献上する。すると、それを食べた용왕(竜王)は・・・・。
적벽가(赤壁歌) 적벽가(赤壁歌)は、中国の小説삼국지연의(三國志演義)が題材の物語である。
적벽대전(赤壁の戦)で 조조(曹操)が大敗を喫し捕まってしまう。しかし・・・。
内容は、中国の小説とは大分改変されており、韓国の状勢に合致するように、作り替えられたものと推定される。
판소리(パンソリ)としてほとんど上演される機会のない演目である。

판소리(パンソリ)では、고수(鼓手)は単に太鼓を叩くだけではなく、重要な役割を演ずる。
一つは、추임새(チュイムセ)という方法で合いの手の掛け声ををかけることである。これは踊り手にとっても重要で、고수(鼓手)の추임새(チュイムセ)によって歌い手の興を煽ることができるからである。興が乗ると観衆からの추임새(チュイムセ)もあって、演者は聴衆と一体となって高揚していく。
もう一つは太鼓の伴奏の方法である。판소리(パンソリ)には独特の拍子があって、強弱、高低、緩急などを使い分ける。これは장단(長短)と呼ばれるものである。
장단(長短)にはいろいろな種類があり、진양조(陳揚調)、중모리(中莫利)、자진모리(自振莫利)、휘모리(揮莫利)などが有名である。
更に曲調というものがあって、계면조(界面調),우조(羽調),평조(平調)などが重要である。

なお、판소리(パンソリ)は2008年ユネスコの無形文化遺産に登録された。

사물놀이(サムルノリ)
사물놀이(サムルノリ)は、韓国に古くから伝えられている농악(農楽)を基に、これをリズム毎に整理して舞台芸術としたものである。
사물(サムル)というのは、[四物]、놀이(ノリ)は、[遊び]の意味で、4つの楽器で遊ぶ、ということを表している。
4つの楽器は、꽹과리(ケンガリ)、징(チン)、장구(チャンゴ)、북(プク)であり、これらのリズムアンサンブルによってなりたっている。
4つの楽器の、꽹과리(ケンガリ)は雷、징(チン)は風、장구(チャンゴ)は雨、북(プク)は雲をそれぞれ表現し、更に金属製の楽器は[天]を表し、木製・皮製の楽器は[地]を表すとされており、4つの楽器が奏でる音楽は、天地・宇宙を表現するものとされている。
 
꽹과리(ケンガリ) 징(チン) 장구(チャンゴ) 북(プク)
 
사물놀이(サムルノリ)は、実は1970年代に入って舞台芸術として確立されたパーカッション・アンサンブルである。
普通4人の奏者により室内で演奏される激しいビートのリズムである。
 
사물놀이(サムルノリ)はおよそ60分程度の演奏であるが、その後半部分で実は4人の奏者がセリフを語る場面がある。
このセリフは自然を意識したもので、いかにも농악(農楽)から生まれた芸術に相応しい内容である。
そのセリフは次のとおりである。
 
(韓国語)
하늘보고 별을보고 땅을보고 농사짓고
올해도 대풍이요 내년에도 풍년일세
달아달아 밝은달아 대낮같이 밝은달아
어둠속의 별빛이 우리네를 비춰주네
 
(日本語訳)
空を見て 星を見上げて、地を見て 農作業をする。
今年も大豊だ。来年も豊年だろう。
月よ、月よ 明るい月よ 真昼のように 明るい月よ。
暗闇の中に 明かり灯し、私たちを照らしてくれるね。
 
このセリフは聴衆も一体となって口にすることもあり、演奏は最高潮に達する。
また、聴衆からは추임새(チュイムセ)が発せられることもあり、この掛け合いは、奏者と聴衆の一体感を感じさせる最高の魅力の一つでもある。

농악(農楽)
농악(農楽)は農民を中心とする人々の生活の中から生まれ発展してきた伝統民族芸能である。豊作を祈り、収穫を喜び、仕事の疲れを癒すなどのたびに、みんなが集まって歌い踊る農民の音楽である。
사물농이(サムルノリ)はこうした農楽の中から生まれた芸能の一つである。
発祥には諸説あり定かではないが풍물(風物)とも呼ばれ、朝鮮王朝時代に広く普及した。現在でも農村部に受け継がれており、都市部においてもイベントに欠かせないものとして演じられている。

농악(農楽)は打楽器や吹奏楽器を演奏しながら、踊り、あるいは練り歩く大衆芸能である。したがって、通常、屋外で演じる全員参加の音楽でもある。
使用される楽器は、꽹과리(小鉦)、징(銅鑼)、장구(杖鼓)、북(太鼓)、소고(小鼓)、태평소(太平簫)などが主体である。
野外に集まって、数人から数10人の規模で、これらの楽器を演奏し、特別な명절(名節)には、朝から深夜まで歌い踊り続けることもある。

꽹과리(小鉦) 징(銅鑼) 장구(杖鼓) 북(太鼓) 소고(小鼓) 태평소(太平簫)

服装は농악복(農楽服)と呼ばれるもので、바지저거리(パジ・チョゴリ)、더거리(トゴリ:法被)、조끼(チョッキ)、삼색띠(襷)、행전(行纏:脚絆)を身につける。
それぞれは黒、赤、青、白、黄色の5つの色が用いられており、黒は北、赤は南、青は東、白は西、そして黄色は中央を表している。
更に、頭には帽子を被るのだが、この帽子には白くて長い紐がついている。これを상모(象帽)と呼ぶ。(写真 右右)
また、これより長い紐のついた、열두발(12歩幅)あるいは긴상모(長い象帽)と呼ばれる帽子も着用される。この帽子の紐の長さは腕幅の12倍もある長いものだという意味で、この名前がついたという。(写真 右左)

また、激しいリズムに合わせて버나(ボナ)という芸が行われる。これは、いわば皿回しである。
長さ30~40cmくらいの先の尖った棒を持ち、その先で、円盤形の쳇바퀴(回し車)、대접(平鉢)、대야(洗面器)などをぐるぐると回す技術である。(写真 左)

また、農楽隊の後ろの方には、잡색(雑色)と呼ばれる人たちが繋がっている。正式な農楽の構成員ではないが、興を盛り上げるために、参加する人々である。
楽器は何ももたずに、いろいろな人物に扮装してその役を演じる。たとえば、朝鮮王朝時代の特権階層である양반(兩班)を演じたり、テポス(砲手)と呼ばれる猟師を演じたりする。

このように農楽は、楽器を演ずる人だけではなく、버나(ボナ)とか잡색(雑色)など、更には一般観客まで加わって、みんなで楽しむ伝統的な芸能なのである。

 
 
 
韓国のことわざ
 
 
発行 : 韓国文化研究所
(発行:2013-10-01)
(改訂:2013-10-13)