役員報酬の支払い方- 定期同額給与
定期同額給与とはどんなもの?
定期同額給与とは読んで字のごとく、
「定期に、同額、支払われる役員報酬」
のことです。
「定期」とは「1ヵ月以内の一定期間」であればどんな設定をしても可です。
そして、その「定期の始まり」「同額の始まりは」、決算終了後「3ヵ月以内」であることが必要です。
この支払い方なら、法人税の計算上、損金になります。
つまり、法人税税がかからなくてすむことになり、節税につながります。
という話だけだと、何も難しいことはないように思えます。
でも、中小企業・ベンチャー企業で実際に行われていることは・・・
中小企業の役員報酬支給の実際
「社長の給料は社長が決める中小企業」において、役員報酬の支給はどのように行われているでしょうか。
業績が良いとき。
社長の役員報酬を増やしたいと思うでしょう。
当然です。
業績が悪いとき。
このままでは赤字になりそう。
しょうがない役員報酬を減らすか。
そういうこともあるでしょう。
でも、役員報酬の改定は、(基本的には)スタートのときだけ。
そうです、「決算から3ヵ月以内」でないとダメなんです。
途中で改定すると「定期同額給与」にあてはまらなくなってしまいます。
スタート時点で、その期の業績を正確に予想できるでしょうか?
なかなか思い通りには・・・ですよね?
実際に経営してみないとわからないものです。
でも1年やった結果の、業績が分かった時点での役員報酬改定は、法人税がかかってしまうのです。
難しいものです。
業績の話とは別に、こんなケースがわりと多くあります。
決算が終わって、社長は自分の役員報酬を改定しようと思っていた。
けれど、実際に支給する際には、金額を変更するのを忘れていて、元のままの金額で役員報酬を払ってしまった、というケースです。
『そんなことか・・・』
これを見ただけではそう思ってしまうのはよく分かります。
でも実際にあるのです。
ほとんどの中小企業は、社長の報酬は社長が決めます。
そして、給与の計算や支払いの業務は、給与担当の社員が行ったり、社労士に業務委託したり。
こんな場合に、金額を変更することが、社長からきちんと伝われば問題ないのですが、忙しさもあってか、給与担当者・社労士事務所への金額変更の連絡が遅れて、支給額が元のままなんてことがよくあるのです。
「定期同額給与」が何かを知るのは簡単。
「定期同額給与」を実行するのは意外と難しい。
というお話しです。ご注意ください。
役員報酬の改定は、「決算から3ヵ月以内」が基本だけど・・・
役員報酬の改定は、(基本的には)決算から3ヵ月以内、という話の補足です。
例をあげましょう。
・3月決算の会社
・5月に定時株主総会
という場合です。
(下図の「□」は役員報酬の額を表します)
増額の例
5月の定時株主総会で、
6月支給から役員報酬を増額することを決定。
・決算から3ヵ月以内開始
・その改定前の金額は同額
・改定後の金額も以降同額
4月□□□
5月□□□
6月□□□□
7月□□□□
8月□□□□
9月□□□□
10月□□□□
11月□□□□
12月□□□□
1月□□□□
2月□□□□
3月□□□□
→ すべて損金に算入される。
(=法人税が余計にかからない)
減額の例
5月の定時株主総会で、
6月支給から減額することを決定。
・決算から3ヵ月以内開始
・その改定前の金額は同額
・改定後の金額も以降同額
4月□□□□
5月□□□□
6月□□□
7月□□□
8月□□□
9月□□□
10月□□□
11月□□□
12月□□□
1月□□□
2月□□□
3月□□□
→ すべて損金に算入される。
(=法人税が余計にかからない)
給与の支給日の後に、定時株主総会が開催される場合
例えば、給与支給が毎月20日、
定時株主総会を6/28に開催し、
役員報酬の増額改定を決定した場合
どうしても↓こうなってしまいます。
4月□□□
5月□□□
6月□□□
7月□□□□
8月□□□□
9月□□□□
10月□□□□
11月□□□□
12月□□□□
1月□□□□
2月□□□□
3月□□□□
決算から3ヵ月以内に改定されていない!
でも、大丈夫です。
決算から3ヵ月以内に開催された定時株主総会で、
「その翌月から改定すること」を決定し、
そのように支払われた役員報酬も、
4月~6月の額が同額、
7月から翌年3月の額も同額であれば、
→ 定期同額給与と認められ、すべて損金に算入されます。
(=法人税が余計にかからない)
定期同額給与に該当しなかった場合
では今度は、定期同額給与に該当しなかった場合を見てみましょう。
支給した役員報酬が、定期同額給与に該当しなかった場合、損金に算入されない額はいくらになるのでしょうか?
「法人税がかかってしまう部分」の話です。
同じ場合を例に
・3月決算の会社、
・5月に定時株主総会、
(下図の「□」や「■」は役員報酬の額を表します)
(「□」は、損金に算入される部分)
(「■」は、損金に算入されない部分)
定期同額給与に該当する部分がない場合
4月■■■
5月■■■■
6月■■■■■
7月■■■
8月■■
9月■■■
10月■■■■
11月■
12月■■■■■
1月■■
2月■■■
3月■■■■
→ このように支給額がどの月もバラバラだと、役員報酬として支給した額の全額が損金不算入になります。
これでは、法人税の計算上、役員報酬の全額がなかった場合と同じ計算・同じ税金になってしまいます。
役員報酬の増額改定を、「決算から3ヵ月以内」と、「事業年度途中」の2回行った場合
4月□□□
5月□□□
6月□□□□
7月□□□□
8月□□□□
9月□□□□
10月□□□□
11月□□□□
12月□□□□■
1月□□□□■
2月□□□□■
3月□□□□■
→ 事業年度途中の増額改定の後も同額で支払われている場合は、その前の定期同額給与に上乗せされていると考えて、上乗せ部分(■×4)が損金不算入になります。
定時株主総会では役員報酬額を据え置きし、「事業年度途中」に減額改定した場合
4月□□□□
5月□□□□
6月□□□■
7月□□□■
8月□□□■
9月□□□■
10月□□□■
11月□□□
12月□□□
1月□□□
2月□□□
3月□□□
→ 事業年度途中の減額改定の後も同額で支払われている場合は、定時株主総会後の支給金額は、途中改定した金額後の定期同額給与に上乗せされていると考えて、上乗せ部分(■×5)が損金不算入になります。
事業年度途中の役員報酬改定が認められる場合
これまで、役員報酬の改定は、(基本的には)決算から3ヵ月以内、という話が続きました。
実は、この「3カ月以内」ではない、事業年度途中の改定が認められる場合もあるのです。
増額や減額の途中改定が認められる例を見ていきましょう。
やむを得ない事情で、取締役の身分が変わった場合
会社の役員である「取締役」には、身分の違いがあります。
会社法上は、「代表取締役」と、それ以外の「取締役」
「取締役」の中にも、法律の決まりではありませんが、世間一般で使われている区分として「専務取締役」と「常務取締役」があります。
会社経営においては、これらの役職上の身分の違いで、役員報酬の金額に違いがあるのが一般的です。
さて例えば、こんな場合。
代表取締役が急逝し、経営陣の中のナンバー2である専務取締役が、代表取締役に昇格。
その結果、元専務取締役に支払われていた役員報酬を増額改定した、というケース。
こんな時は、決算から3ヵ月以内でなく、事業年度の途中改定でも、その昇格した役員に支給した役員報酬の全額が損金に算入されます。
「代表取締役の急逝」は「やむを得ない事情」に該当する、というわけです。
病気のため職務が執行できない場合
さっきと似たような話の、逆の減額のパターンもあります。
役員が病気で入院したことなどにより、担当している職務の一部を執行できなくなった場合に、役員報酬の額を減額する臨時改定も、「決算から3ヵ月」にかかわらず定期同額給与として認められます。
ちなみに、病気が治って、元の通りに働けるようになったときに、下げた役員報酬を、増額して元に戻す改定も同じく定期同額給与として認められます。
罰則的な処分として役員報酬を減額する場合
企業秩序を乱した役員に対する処分として、一定期間、役員報酬を一部減額するようなケースも、その処分が一般的に妥当であることを前提に、臨時改定が認められます。
一度支払いを受けた役員報酬を、一部返還するような場合も同様です。
業績の悪化により、臨時改定で役員報酬を減額した場合
課税当局の立場としては、
業績悪化理由による臨時改定を簡単に認めてしまうと、
↓
役員報酬を頻繁に変えることが可能となってしまい
↓
利益操作が簡単にできることになる
↓
簡単に認めないよ
というものです。
「単なる業績悪化ではダメ」
「著しい業績悪化でないとね」
ということです。
ではどんな場合が「著しい業績悪化」に該当するのか
- 財務諸表の数値が相当程度悪化したこと
- 倒産の危機に瀕したこと
- 株主がうるさく言う場合
- 銀行がうるさく言う場合
- 資金繰り難を理由に取引先から取引ストップされないようにする場合
などです。
この「業績悪化による減額改定」は、どんな内容で、どこまで許されるのか、実務上は線引きが難しかったのです。
ですが、リーマンショック後、大多数の会社の経営悪化が社会的な問題になったことを受けてか、国税庁は、平成20年12月、線引きをより明確化するようなQ&Aを発表したという経緯があります。
要は、役員報酬の減額を実行しやすくしたのです。
いずれにしても役員報酬の臨時改定の際には、臨時株主総会の議事録をきちんと作成・保管することが、税務上は重要です。