派遣会社の派遣業会計
派遣法の講習会でもありません。
会計 と 派遣法 の両側面から
人材派遣業の経営のヒントをつかみましょう。
[3]人材派遣業の売上原価
会計上、派遣社員は、派遣会社にとって「商品」です。
ということは、派遣社員に対する費用=給与など、は「仕入」(=「原価」)。
なのに『給与だから、人件費』ということで、一般管理費に含めて経理処理されているものを見かけることがあります。
しかも最悪なことに一般社員と分けることなく、同じ勘定科目で。
間違いということはないとも思います。
ですが、これではP/L(損益計算書)上、粗利益がわかりません。
これでは粗利益や原価の管理にも手間がかかります。
原価管理をしなければ、売上単価(=派遣料金)や派遣社員の給与額を決定・再考する際の、貴重な資料がないことになります。
売上単価(=派遣料金)も派遣社員給与も、『だいたい相場でこのくらいだろう』と、エイヤッで決めるつもりじゃないですよね。
また、粗利益が把握できていなければ、販売費や管理費の配分や予算組みも、無策。
『かかった費用を積み上げでいいやっ』っていうつもりでもないですよね。
出たとこ勝負の経営にならないよう、原価管理・粗利益管理は必要です。
さて、この原価の中身。
給与だけではありません。
派遣社員に対する人件費すべて、です。
そう。労働保険・社会保険も含みます。
あまりないとは思いますが、派遣社員に対する賞与や退職金があるならば、それらの引当金も含めたほうがいと思います。
有税引当(=法人税計算上、損金にならない)になってしまいますが、それでもです。
売上原価としての、派遣社員の給与や労働保険料・社会保険料については
「派遣社員の給与と社会保険料」をご参照ください。
売上原価が、売上に占める割合を「原価率」といいます。
派遣業では7~8割が一般的なようです。
つまり、儲けである粗利益は3~2割ということ。(=「利益率」)
もちろんこれらは、守らなければならない決まりではありません。
粗利益を3~4割、または、それ以上としてもいいわけです。
逆に、多くの粗利益を生み出せるような努力をしなければならないのです。
大きい粗利益は、それだけ経営をラクにしてくれます。
小さい粗利益は、経営をキビシくします。
原価には、労働保険料・社会保険料が含まれます。
労働保険料・社会保険料は、給与を元にして計算されます。
つまり、給与額が決まれば、労働・社会保険料も決まり、全体の原価も決まってきます。
原価(給与)決定、または、派遣料金を検討する際には、この労働保険料・社会保険料も含めて検討することを忘れないようにしましょう。
検討する労働保険料・社会保険料は、以下です。
- 労災保険 ・雇用保険
- 健康保険 ・介護保険 ・厚生年金保険
- 児童手当拠出金
[4]人材派遣業の派遣売上と利益
では、売上=派遣料金のほうは、いくらくらいなのでしょうか。
厚生労働省が調査・公表してくれているものがあります。
これは26号業務の平均ではありますが、参考にはなるでしょう。
年によって変動はあります。
ここでは派遣料金のおおよその数値として、
- 1日 約16,000円(8時間勤務)
- 1時間あたり2,000円
としておきます。
これに原価率75%として計算すると、原価(派遣社員に支払う給与)は、
- 1日 12,000円
- 1時間あたり1,500円
ということになります。
つまり、派遣社員が1人働くと、派遣会社の儲け(粗利益)は、
- 1日 4,000円(16,000円-12,000円)
- 1時間 500円(2,000円-1,500円)
となります。
働く派遣社員の人数と時間を増やせば、その分、この500円が増える。
利益が増える。
ということです。
派遣業の儲けについて、最小単位を見ました。
これをもとに、イメージをふくらませてみましょう。
月の儲けを出すためには、どれくらい派遣すればいいのか。
- 営業やコーディネーター、事務員の給与など一般社員の人件費
- 募集費、広告費などの販売費
- オフィス賃料をはじめ、水道光熱費、通信費や旅費交通費などの一般経費
これらの費用の合計(=固定費)が、月300万円かかったとします。
原価率75%とします。
300 万円÷(1-0.75)= 1,200万円
1,200万円売上げれば、利益はトントン。ゼロ。
これは、
- 売上のうち75%が、派遣社員の人件費
- 残りの25%が、粗利益
という意味です。
この粗利益で、固定費をまかなう。
その残りがでれば、それが営業利益。
では、1,200万円売り上げるための派遣とは。
- 1日16,000円の派遣料金ならば、
- 稼動延べ人数は750人
- 月の稼働日数を20日とすると37.5人
という派遣です。
つまり、
- 1ヵ月、16,000円の派遣料金で37.5人派遣すると、1,200万円売上げがたち、
- 派遣社員の人件費900万円と会社固定費300万円との総費用とトントン(利益ゼロ)になる、
ということです。
ここから、
・派遣人数を、増やすか
・派遣料金を、上げるか
・固定費を、下げるか
すると、営業利益が出始めることになります。
固定費を3パターン試したものが下の表です。
月間 固定費 | 300万円の場合 | 500万円の場合 | 1000万円の場合 |
(仮定)原価率75% | |||
月間目標売上 | 1200万円 | 2000万円 | 4000万円 |
(仮定)派遣料金16,000円 | |||
稼働延べ人数 | 750人 | 1,250.人 | 2,500人 |
(仮定)20日稼働 | |||
スタッフ人数 | 37.5人 | 62.5人 | 125.0人 |
↓ | ↓ | ↓ | ↓ |
年間目標売上 | 1億4400万円 | 2億4000万円 | 4億8000万円 |
派遣会社の経営のヒントをシリーズでまとめてみました。
あわせてご参照ください。
- 派遣法から派遣会社経営のヒントを得る
- [1]人材派遣業の経営
- [2]派遣法と派遣業経営
- 派遣業会計から派遣会社経営のヒントを得る
- [3]人材派遣業の売上原価
- [4]人材派遣業の派遣売上と利益
- 派遣業の経費から派遣会社経営のヒントを得る
- [5]人材派遣業の2つの広告費
- [6]人材派遣業の2つの教育研修費
- [7]人材派遣業のオフィス関係費用
- 派遣業の管理から派遣会社経営のヒントを得る
- [8]人材派遣業の部門管理
- [9]人材派遣業の与信管理
- ● 派遣会社の経営