派遣法からの派遣会社経営のヒント
派遣法の講習会でもありません。
会計 と 派遣法 の両側面から
人材派遣業の経営のヒントをつかみましょう。
[1]人材派遣業の経営
経営で一番重要なこと。
何を売るのか。
キャッシュポイントはどこなのか。
当たり前のことですが、改めて確認してみましょう。
派遣社員が、派遣先で働くことによって、売上がたち、お金がもらえる。
これが人材派遣業。
ということは、派遣社員は、派遣会社にとって「商品」である、と言えます。
特殊な「商品」。
それは「人」である、ということ。
「人」である、ということは、「感情」がある、ということ。
大切にされたい。
「感情」のある「人」は、そう思うものです。
だから、大切にされないと、機嫌をそこねる。
機嫌をそこねた派遣社員は、派遣会社の「商品」としての価値を失う。
「商品」に「キズ」がつくからです。
そういうことになります。
「商品」としての価値を失えば、派遣先で働けない。
売上がたたない。
お金がもらえない。
それは、つまり、売るものがない。
キャッシュポイントもない。
人材派遣業の経営は、成り立たない。
ということです。
人材派遣業の経営を成り立たせるための、一番重要な話しです。
派遣社員を大切にする必要性が、ここにあるのです。
その取り扱い方として最低限のことを定めたルールがあります。
それは「労働基準法」や「労働者派遣法」など。
「派遣法」のスタンスはこうです。
『派遣社員は、あくまで派遣会社(=あなたの会社)の社員である』
『派遣社員が、派遣会社(=あなたの会社)の社員である』ということを認識していれば、派遣会社(=あなたの会社)と派遣社員の関係には、当然に労働基準法の適用がある、ということが、すんなり理解できるでしょう。
その他、一見ややこしい人材派遣業にまつわるルールや、派遣社員に対する義務も理解できるはず。
派遣会社にとって、派遣社員は、
- 会計上は「商品」
- 労務管理上は「自社の社員」
派遣会社の経営者は、この考えを、場面場面において、頭の中で瞬時に切り替える、いや、同時に感覚として分かる、そのバランスが絶対条件です。
『会計をイチから勉強しよう』ということではありません。
『派遣法をマスターしよう』ということでもありません。
そんなことは専門家に任せてください。
細かいことは、専門家をブレーンに持てば済むことです。
経営者は、
- その考え方(会計や法律の意図)を身に付けること
- そしてそれを行動につなげること
それが重要なのです。
「会計」と「派遣法」の両側面から派遣業というものを眺めてみる。
すると、派遣会社の経営というものの形がハッキリしてきます。
何をすべきか、何が重要なのか。
そういう視点で、ここからの話しを聞いてください。
[2]派遣法と派遣業経営
派遣社員は、派遣会社にとって、労務管理上は、自社の社員です。
派遣先が決まれば、派遣社員は、派遣会社であるあなたの会社と雇用契約を結ぶことになります。
派遣法や労働基準法の適用は、人材派遣業という形態においては、ややこしい印象を持つことでしょう。
でも、これから挙げる項目のそれぞれについて、「自社の社員」という視点で見てみてください。
そうすることによって、おおざっぱなルールの形が理解できると思います。
それでは次の項目をそれぞれ見ていきましょう。
- 1.派遣社員の年次有給休暇
- 2.派遣前の面接
- 3.派遣社員の退職、解雇、懲戒
- 4.派遣社員の健康診断
- 5.派遣会社が整備する書類など
1.派遣社員の年次有給休暇
派遣社員にも年次有給休暇は当然にあります。
年次有給休暇を与えるのは、派遣社員を雇用している派遣会社です。
派遣先企業ではありません。
派遣社員が年次有給休暇をとれないということが、派遣業界でもよく問題になっています。
派遣社員が年次有給休暇を取ると、その日は売上はたちません。
(派遣契約によっては、代わりの派遣社員を派遣することになります。)
(参照「派遣会社の派遣契約」)
でも、休んだ派遣社員の給与は発生します。
「有給」の休暇ですから。
つまり、費用だけかかって売上がたたない状態。
これでは、年次有給休暇を与えたくないと思う派遣会社の気持ちもわからなくはありません。
しかし、年次有給休暇を与えないことは、違法行為。
そして、派遣社員も不満をもちます。
派遣社員は、モノや機械ではありません。
心身のリフレッシュが必要です。
この違法と不満という2つのリスクは派遣会社の存亡に影響します。
そこで、こう考えてはどうでしょう。
製造業であれば、どんなに頑張っても、製品不良が発生します。
努力でその発生率を下げることはできても、ゼロにはなりません。
また、卸売・小売業であれば、在庫している商品が劣化したり、破損したりは、つきものです。
これもゼロにはなりません。
どうせ避けられない派遣社員の年次有給休暇。
この会計上のロスを、製品や商品の不良在庫と同じと考えてはいかがでしょう。
製造・卸・小売業には、製造途中の仕掛品や、売れ残りの在庫は、お金がかかっていても、すぐには費用化できません。
見えない在庫コストがかかります。
派遣業では、在庫リスクすらないのです。
これを考えれば、派遣社員の年次有給休暇取得は、タカが知れています。
1人年間240日稼動として、年次有給休暇を使って10日休んだとしも、4%。
実際は、もっと低いでしょう。
経営者が、この考え方を持っていれば、派遣社員に気持ちよく休んでもらうことができます。
年次有給休暇について、派遣社員の不満をつのらせると、後で手痛いしっぺ返しをくうことにもなりかねません。
派遣期間終了前、つまり退職直前に、最大限の連続した年次有給休暇をとる事態です。
この行為自体、違法でも何でもありません。
そして、会社には対策手段もありません。
だから、日頃から少しずつ休んでもらったほうが、結局は、会社にとってもメリットあり、というものです。
考え方の説明のために例としてあげましたが、年次有給休暇をとる派遣社員が「不良品」というわけではありません。
これは、絶対間違わないでください。
なお、「年次有給休暇」については、「派遣社員の就業規則」もご参照ください。
2.派遣前の面接
もう1つ。
派遣業で問題になる代表的なもの、「派遣先企業の事前面接」。
「派遣社員が、派遣会社の社員である」ということは、「派遣社員は、派遣先の社員ではない」ということです。
「派遣先の社員ではない」ということは、「派遣先は、派遣社員を雇用していない」ということです。
「雇用していない」ということは、「採用もしていない」ということです。
当たり前のことを並べました。
派遣先としては、どんな人が派遣されるのか、知りたいものです。
でも、派遣の前に、派遣先が派遣社員と会う「事前面接」や「履歴書を要求すること」は、派遣される人を特定する行為、つまり、採用行為である、として派遣法では原則禁止されています。
『派遣先は、採用しないのだから』
『派遣は、能力の派遣であるから』
『マッチングが、派遣会社の仕事』
それが、派遣法の理屈です。
ちょっと無理がありますよね。
派遣を受け入れる側としては、自分たちの職場にどんな人が来るのか、知っておきたいものです。
じゃないと不安です。
でも、派遣法は、「雇用主でない派遣先の採用行為だから禁止」というタテマエと、「ただでさえ不安定な派遣社員の保護強化」という本音を理由に原則禁止しています。
ルールは守りましょう。
ただし、例外もあります。
- 雇用契約を結んだ後、派遣前の事前打ち合わせはOK
- 派遣社員が希望した場合もOK
- 紹介予定派遣の場合はOK
(参照「人材派遣会社が、紹介予定派遣を行う場合」)
3.派遣社員の退職、解雇、懲戒
入社があれば退社もあります。
派遣社員の退職や解雇は、一般社員と同じです。
懲戒規定を適用するのも、あなたの会社(派遣会社)です。
派遣先企業ではありません。
4.派遣社員の健康診断
派遣会社には、一般社員と同じく、派遣社員に対しても健康診断の実施義務があります。
ただし、だれでもかれでも全員すべて、ではありません。
(参照「派遣社員の就業規則」)
5.派遣会社が整備する書類など
雇用主であるあなたの会社は、派遣社員に労働条件を示さなければなりません。
(参照「派遣社員雇用契約・通知」)
残業などをしてもらうためには、36協定(サブロク協定)の締結と届出も必要。
そして派遣社員用の就業規則も整えておいたほうが、何かと便利。
(参照「派遣社員の就業規則」)
派遣社員の労働者名簿や賃金台帳も、一般社員と同じく3年間会社に保存。
これらは、派遣社員があなたの会社の社員であるがゆえの決まり事です。
ここまで、「派遣社員は派遣会社の社員である」ということにまつわるお話でした。
派遣会社の経営のヒントをシリーズでまとめてみました。
あわせてご参照ください。
- 派遣法から派遣会社経営のヒントを得る
- [1]人材派遣業の経営
- [2]派遣法と派遣業経営
- 派遣業会計から派遣会社経営のヒントを得る
- [3]人材派遣業の売上原価
- [4]人材派遣業の派遣売上と利益
- 派遣業の経費から派遣会社経営のヒントを得る
- [5]人材派遣業の2つの広告費
- [6]人材派遣業の2つの教育研修費
- [7]人材派遣業のオフィス関係費用
- 派遣業の管理から派遣会社経営のヒントを得る
- [8]人材派遣業の部門管理
- [9]人材派遣業の与信管理
- ● 派遣会社の経営