派遣会社の部門管理・与信管理
派遣法の講習会でもありません。
会計 と 派遣法 の両側面から
人材派遣業の経営のヒントをつかみましょう。
[8]人材派遣業の部門管理
もともとの本業がある会社が、派遣業に進出する場合、
- 既存会社で、派遣業を行うか、
- 別会社(新規設立)で、派遣業を行うか、
という選択があります。
ここでは、既存会社で派遣業を行うケースを取り上げます。
このケースで、会計上、やるべきことがあります。
それは、「部門管理」をすることです。
部門管理をすることにより、既存事業と派遣業の利益構造を区別して把握しましょう。
そうしなければ、派遣業が独立して採算がとれるのか分かりません。
会社によっては、本業よりも派遣業のほうが、業績が上回るケースもあります。
そのとき、経営資源の業種間シフトや、完全な派遣業への移行、といった経営判断の重要な資料として、部門別に会計処理した財務諸表が大いに役立つのです。
部門管理は、P/L項目(収益・費用)のみでも可能です。
そしてそれは、いくらかシンプルにできます。
一般的な、例えば、支店ごとの業績を把握するような場合の部門管理は、P/L項目のみを部門設定することも多々あります。
しかし、人材派遣業の場合、派遣許可の財産基準の目安も見ることができることから、B/S項目(資産・負債・純資産)も部門管理したほうがベターだと思います。
(参照「人材派遣業の許可基準」)
B/S項目も分けるとなると、会計処理の手間は少し増えることになります。
自社の処理能力やコストバランス等を考慮して判断してみてください。
[9]人材派遣業の与信管理
特に人材派遣業に限ったことではありませんが、与信管理、つまり、顧客の支払能力の把握は、経営の重要項目の1つです。
中小・ベンチャー規模の企業は、この与信管理がまったくなされていない会社が多いものです。
売るだけ売って、代金が回収できない。
派遣業なら、派遣社員が働くだけ働いて、派遣料金が回収できない、という状態です。
こんなときでも派遣社員をタダ働きさせるわけにはいきません。
給料は支払います。
すると、費用がけかかって売上がたたない。
このダメージは、「派遣社員の年次有給休暇取得」の比ではありません。
どんなに大きいか、ご説明しましょう。
例えば、派遣社員を1人派遣して、1日16,000円の派遣料金をもらえる取引があったとします。
1ヵ月 20日稼動とします。
すると1ヵ月の売上は、320,000円です。
この1ヵ月分の派遣料金が回収不能になりました、というケースです。
この回収不能分を穴埋めするには、別にどのくらい売上げが必要でしょうか?
320,000円・・・ではありません。
売上代金が回収できないことは、損失です。
会計的には「貸倒損失」といいます。
決算書(のうちP/L)上、その回収できなかった金額が、マイナスされます。
すると見かけでは、その回収不能金額だけが、損失に見えます。
ところが。
回収不能の売上は、さまざまな費用をかけた結果、売り上げたもの。
だから実態は、その売上のためにかけた費用も、まるまる損になったというのが本当のところです。
その分、本来あるべき利益がごっそり削られているのです。
だから、穴埋めのためには、かけた費用分も取り返さなければ、つじつまが合わないことになります。
利益率を5%としましょう。
その利益を上げるのに95%の費用がかかっているということです。
(売上100-費用95=利益5ということ)
この場合、本当の損失(=利益からマイナスされた分)は320,000円 ÷ 5% = 6,400,000円。
6,400,000円を売り上げなければ、損失すべてを取り返せないことになるのです。
利益率が高かったとして10%としても、3,200,000円です。
普通、貸倒れは、1ヵ月では表面化しません。
早くても2ヵ月はかかるでしょう。
大抵その間も、取り引きし続けるものです。
その場合は、640,000円(320,000円×2ヵ月)の回収不能。
穴埋めの売上は、12,800,000円(6,400,000円×2ヵ月)。
怖いですね。
もう1つ。
売上はたったが、代金が回収できない、となると、
↓
会計上は貸倒れ処理(費用処理)ができます。(=利益が少なくなる)
が、税務上は、そうはいきません。
とある税務裁判以降は、それまでほど厳しくはなくなりましたが、税務上、貸倒れ処理はクセモノなんです。
実務では難しい。
(=税金計算上の利益は少なくならない=納める税金が多くなる)
そうなると、売上(=収益)だけたって、現金(=収入)はナシ。
対する費用の支払いはアリ。
そして税金はかかる。
というトリプルパンチです。
キャッシュフローは、とたんに悪化です。
こんな事態を防ぐ方法
- 相手先の財務規模や社歴など、経営情報の収集
- 危険予兆の察知
- 契約のしかたの工夫
- 毎月の売掛金管理の徹底
・ 相手先の財務規模や社歴など、経営情報の収集
取引する会社の直近3年くらいの決算書など見られたらいいですね。
まずないでしょう、見せてくれる会社は。
ならば、相手先と接する営業担当が、商談のなかで、それとなく聞き出すしかありません。
支払能力に関わることを。
いつでも、情報収集を心がけるのです。
営業が相手先の支払いに対して、関心を持たなければいけません。
敏感でなければなりません。
危険予兆の察知
営業だけに限ったことではありません。
人材派遣業は、派遣社員が取引相手先にいます。
重大な内情を知った場合、派遣社員から派遣会社に伝えてもらうことも手段の1つです。
これは秘密漏洩のリスクもあります。
当然ながら第三者には口外しないように。
でも、自社への情報提供は、損失を最小限にとどめ、適正な取引を続けるための正当な行為として許されるのではないでしょうか。
(参照「派遣会社の派遣契約」)
契約のしかたの工夫
初めて取り引きする相手先の場合には、最初からいきなり大口にしないことです。
短期契約、少人数派遣を鉄則とするのです。
また、支払いサイトを極力短くしてもらいます。
特に、数日間のイベントや短期間の催事に派遣をする場合などは、前金や内金の交渉もしたほうがいいでしょう。
それらを渋る相手先とは契約しない勇気をもつことです。
売上に目がくらんで、冷静な判断を失ってはいけません。
売上は、それだけでは何の意味もない数字。
お金をもらって、はじめて経営です。
毎月の売掛金管理の徹底
少しずつでも実績ができた顧客に対しては、徹底した売掛金管理をすることです。
売掛金は相手の会社ごとに管理します。
このように個々に管理する項目を「人名勘定」といいます。
売掛金を人名勘定ごとに、毎月管理していくのです。
- 約定どおりに支払いが行われているか
- 未回収のまま放置されているものはないか
このチェックは、経理の重要な仕事の1つです。
ぜひ社長直結の業務としてください。
そして滞留情報は、最低でも、経営陣、経理部、営業部、コーディネーター部の共有情報にします。
危険なニオイのする相手先は、取引減少や、取引中止の判断を下すのです。
これは、新規顧客を獲得するのに比べたら、ずっとラク、かつ、コストをあまりかけないで済む、利益確保の手段です。
● 派遣会社の経営
ここまで、長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございます。
派遣法と派遣業会計を、部分的ではありますが、見てきました。
派遣会社の経営として、やらなければならないことのイメージだけでも持っていただけたら幸いです。
人材派遣業は、人に働く場を提供する、素晴らしい仕事だと思っています。
そんな業種に、これから仲間入りするあなたとあなたの会社を、心から歓迎します。
これから生まれ変わろうとしているあなたの派遣会社を、心から応援します。
派遣会社の経営のヒントをシリーズでまとめてみました。
あわせてご参照ください。
- 派遣法から派遣会社経営のヒントを得る
- [1]人材派遣業の経営
- [2]派遣法と派遣業経営
- 派遣業会計から派遣会社経営のヒントを得る
- [3]人材派遣業の売上原価
- [4]人材派遣業の派遣売上と利益
- 派遣業の経費から派遣会社経営のヒントを得る
- [5]人材派遣業の2つの広告費
- [6]人材派遣業の2つの教育研修費
- [7]人材派遣業のオフィス関係費用
- 派遣業の管理から派遣会社経営のヒントを得る
- [8]人材派遣業の部門管理
- [9]人材派遣業の与信管理
- ● 派遣会社の経営