派遣会社の経費

会計の勉強会ではありません
派遣法の講習会でもありません。
会計 と 派遣法 の両側面から
人材派遣業の経営のヒントをつかみましょう。

[5]人材派遣業の2つの広告費

派遣会社の経費の特徴の1つ。
それは、広告が2種類ある、ということです。

1つは、売上を伸ばすための広告
もう1つは、登録者数・派遣社員を増やすための広告

片や、派遣先となる会社の担当者に見てもらうための広告。
片や、派遣で働こうとする一般の人に見てもらうための広告。

目的をハッキリ分けること。
最も効果がでるような場所に広告を出すこと。
これらを実行しなければなりません。
まず、これが大前提。
当たり前の事と思われるかもしれませんが、できていない派遣会社が、世の中には、意外と多いものです。

ここまでは、まだいいでしょう。
しかし、会計処理上、この2つの広告に対する費用計上を分けている会社がどれくらいあるか。

それぞれ別に管理がされていなければ、売上に対して、また、登録応募に関して、

  • どれくらいの費用が投下されているのか
  • その投下された資金は、どのくらい成果に結び付いているのか

これらが、サッパリ分からないままです。

広告の大事なとろは、費用対効果です。
いくらお金をかけて、いくら売上に貢献したのか、計測できるものでなくてはなりません。

売上をアップさせるための方法は、広告だけではありませんが、1つの仮説は立てられます。
登録者数についても、しかりです。

この費用対効果を、検証していくか・まったく無視するのか。
それは、お金が、生きたお金になるのか・死に金になるのか、の分かれ道。
派遣会社は、この2つの広告費を、別々に管理しなければなりません。

管理の方法として、

  • 「広告費」「募集費」などと別の勘定科目にするか
  • どちらも「広告宣伝費」と同じ勘定科目にして、補助科目で分類するか

このどちらにするかは、あなたの会社の会計処理方針によって、どちらでも結構です。
いずれにしても、別々の数値管理は、派遣会社の必須条件です。

募集費

募集費の指標として、「売上の5%」という1つの目安があります。
これを大きく超えると、少しバランスを崩すかもしれません。
もちろん売上規模にもよります。
また、会社の成長段階にもよります。

状況によりいくらでも変動する数値です。
あくまで、目安としてください。
死守すべきもの、というほどではありません。

募集費を下げる

派遣社員のネットワークは、今はインターネットを通じて、完全に形成されています。
このコミュニティをあなどってはいけません。
絶大な口コミ効果があるのです。

だから、1人の派遣社員に不満を与えれば、それは口コミによって、しかもネットの力で加速して、一気に派遣労働市場に流れ出ます。

一度入ったマイナス情報は、いつまでも人の記憶にとどまります。
『あの○○派遣会社は、・・・』と。

そして、プラスに修正されることは、かなり難しいと思ってください。
人間は、自分を危険にさらすことのないよう、防衛本能が強力に働く動物だからです。

でも逆に、良い情報も、当然ながら伝播します。
しかも「他人の経験」というのを、人は特に信用する心理があります。

このプラスとマイナスは、派遣会社に大きな影響を与えます。

派遣社員満足が上がると、募集費は下がるのです。
逆に言えば、募集費を莫大にかけなくても、登録者は集まるのです。

途方もない金額をかけて、せっかく集めた登録者が、派遣社員に与えた不満が原因となって、一瞬にして去っていくのとは、天と地との差です。

派遣社員のフォローというのは、派遣会社にとって本当に大切だということが分かってもらえると思います。
では、そのフォローは、どうやってすればいいのでしょう。

それは、営業担当と、派遣社員のコミュニケーション機会を多くすることに尽きます。

派遣社員からの意見を待っているだけではダメ。

  • 『何か困ったことはないか』派遣初日、1週間後、3週間後、キッチリこのサイクルを守って接する。
  • また、派遣社員から相談されたことがあれば、できる限り早く返答してあげる。
  • 自分で返答できない場合で、時間が経ってしまうときは、途中経過を報告してあげる。

かなり基本的なビジネスマナーですが、派遣会社の「命綱」と言えるほど大切な行動です。

これを実行すると派遣社員は、こう思ってくれます。
『私は、大切にされている』と。

その土台があってはじめて派遣社員の満足が生まれてくるのです。

[6]人材派遣業の2つの教育研修費

会計上、派遣社員は、派遣会社にとって「商品」です。
商品は「良い商品」でなければ売れません。
その「良い」部分は、「商品価値」と呼ばれます。
では、商品である派遣社員の商品価値を上げるには。

そう。教育や研修に時間とお金をかけるのです。

研修制度がしっかりしていることは、顧客企業(派遣先)に喜ばれるだけでなく、派遣社員満足を上げることにもつながります。
派遣会社の競争力を生むところ、やはりおろそかにはできません。

教育研修の内容の主なものは、何の職種で、どんな業界向けの派遣なのかで変わってくるものだとは思います。

まず、一般的なビジネスマナーや、社会人としてのマナーを一通り。
それから派遣社員に必要な、社会保険や税金知識を教えている派遣会社もあるようです。
この辺が、一般常識的なところでしょうか。

そして、専門知識スキルや、派遣先の業界勉強などにステップアップすればよいでしょう。

一番の理想はこうです。
派遣会社独自のノウハウを派遣社員に身につけさせて、オンリーワンの派遣形態を確立する。

この「ノウハウの派遣」が、これからの派遣会社の― 特に中小・ベンチャー企業規模の派遣会社の ― 目指さなければならないところだと思います。

派遣業の経費から派遣会社経営のヒントを得る

派遣会社の、派遣社員に対する教育研修の話しは、派遣許可を与える厚生労働省や労働局が、口やかましく言うところ。

そして自社の直接の競争力にもなるところ。
派遣会社自身も、派遣業界全体も力を入れています。

そこで、案外見落としがちになるのが、営業担当やコーディナーターに対する教育です。
派遣元責任者講習だけで済ませてはいけません。

これが、派遣会社のもう1つの教育です。

営業の、『ただ売り上げればいい』
コーディネーターの、『ただマッチングさせればいい』
という意識は、必ず派遣社員の印象を悪くさせます。
必ず、です。
派遣社員の不満が、どういう結果を招くかは、すでにお話ししたとおり。

営業・コーディネーターの、

  • 派遣社員を大事にする意識づけ
  • コミュニケーション能力アップと、具体的方法の習得

そういう社員教育もしっかり行わなければなりません。

これは、言ってみれば、城の城壁のようなもの。
ここがモロイと、ガタガタと下から崩れ落ちます。
派遣会社という城が。

「派遣社員に対する教育」「営業・コーディネーターに対する教育」、この2つをお忘れなく。

[7]人材派遣業のオフィス関係費用

派遣会社の特徴的なものの1つに、オフィス関係があげられます。
派遣で働こうとする人の、登録に関わることです。

最近ではWebを利用した登録もありますが、
『詳しい話を聞きたい』
『登録しようとする会社がどんな会社か見たい』
ということでオフィスに訪れることも多々あります。

派遣会社にしても、登録しようとしている人がどんな人物なのか、直に会って、知る必要があります。
スキルチェックも行うでしょう。
そんな時は、会社に訪問していただくことになります。

一般派遣の場合は、登録してもらわなくては始まりません。
だから、登録してもらいやすい環境を整えることが、重要になってきます。

すると派遣会社は、利便性を重視し、最寄り駅が比較的大きい駅であること、そして、駅からも近い所であること、という立地条件を選びたくなります。

また、訪問していただいて、信頼感・安心感・清潔感・居心地の良さなどを感じてもらうためにキレイなオフィスお洒落なオフィスを構えたくなります。

これらを満たそうとなると、賃貸料の高い物件を選んだり、内装工事や装飾備品の費用をかけたりすることになります。

この高いオフィス関係費用が、派遣会社の特徴の1つです。

月々の賃貸料が高いということは、入居のときの保証金も高くなります。
将来返還される保証金は、いくら多額の支出であっても費用にはなりません
それは資産です。

また、内装工事費用も、金額によりますが、原則として支出時には費用にならず、資産として計上することになります。
そして、減価償却を通じて、数年かけて費用化されることになります。

この部分だけを見れば、派遣業は、「初期には、支出が多いが、(費用が少ないので)利益が出やすい」業種と言えます。

会社を立ち上げて、新規で派遣業をスタートする場合は、特にキャッシュフロー(現金の出入り)に気をつける必要があるでしょう。

もともとの本業があって、派遣業に進出する会社の場合、新規立ち上げほどのオフィスコストはかからないと思います。

が、兼業の場合、オフィスには派遣業のための専用スペース20平方メートル以上が必要になります。
(参照「人材派遣業の許可基準」)

派遣登録者の面接等のため、最低でもパーテーションなどの仕切りを、理想としては、独立した個室を、整えることになります。
この費用がかかることにご注意ください。

派遣会社の経営のヒントをシリーズでまとめてみました。
あわせてご参照ください。

派遣法から派遣会社経営のヒントを得る
[1]人材派遣業の経営
[2]派遣法と派遣業経営
派遣業会計から派遣会社経営のヒントを得る
[3]人材派遣業の売上原価
[4]人材派遣業の派遣売上と利益
派遣業の経費から派遣会社経営のヒントを得る
[5]人材派遣業の2つの広告費
[6]人材派遣業の2つの教育研修費
[7]人材派遣業のオフィス関係費用
派遣業の管理から派遣会社経営のヒントを得る
[8]人材派遣業の部門管理
[9]人材派遣業の与信管理
 ● 派遣会社の経営
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