「何人だ?」
「ん〜…。2、3…4人ですね」
駐輪場までの道で、俺と伊集院は話す。
夏期講習が終わって帰るところだ。
「俺も4人と見た」
塩谷は、え、何が?と俺たちを交互に見やった。
「……」
まぁ、明らかに素人だな。
殺気はない。
誘拐か?
「…竜くん」
「なんだ」
「顔がニヤけてます」
おっと。
ペシペシ、と片手で頬を叩く。
戻ったか?
「目がニヤけてます」
「……」
目?
パチパチと瞬きをする。
直ったかな。
……ん?
「伊集院だって笑ってるじゃん」
「違いますよ、もう…」
クスクスと笑う。
笑ってんじゃねーかよ。
「うりゃ〜 ! 」
バ ッ と、茂みから飛び出してきた。
うりゃ〜って ・・・
あ、わりと強いかも。
蹴りを避け、出した拳はギリギリで かわされた。
まぁいいや。
誘拐ってんだから手加減は いらねえだろ。
サッと脚を払って倒す。
そのまま膝を入れた。
伊集院を見ると、関節を決めたのか、腕を押さえて男はうめいていた。
「え? 真琴ちゃんって、え??」
塩谷は呆気にとられて、きょろきょろと目を動かす。
問い掛けるように俺を見た。
なんだよ。
言っただろ。
伊集院は強いんだって。
← 言ってません。
塩谷もワリと出来る方なのか、殴られながらも、対等に闘っていた。
コイツら相手にこれだけ出来れば上等だな。
俺は相手を引っ掴んで、投げ落とし、地面に叩きつけた。
……で、これで3人だろ。
「そこか ! 」
ヒッソリと様子を窺う相手を引きずり出した。
「ぎゃー !!! 竜也様 !!! 」
「あ?」
殴る手を止めて、相手の顔を見る。
「 私です ! 私 !! 」
「………」
この顔は。
「……野島さん〜??」
「そうです!」
…ってことは……
桐香ァぁ!!!
「どうだったの、野……」
「 『どうだった』じゃねー、この馬鹿娘 !!!!! 」
校門横の怪しい黒ベンツに駈けて行った俺は、乱暴にドアを開けた。
「りゅー!! 会いたかった!!!」
「会いたかった、じゃなーーい!!」
抱きついてきた桐香のこめかみにグリグリと拳を入れる。
「いたい! いたいってば!! りゅう!!!」
バシバシと俺を叩く。
ったく、どーしてくれんだ!
お前のボディガードに遠慮なく 膝蹴りしちまったじゃねーかよ!!
「ほんとーーーにスミマセン」
ぐいぐいと桐香の頭を上から押さえつけながら謝った。
「ほら桐香!」
「…むー…」
「き・り・か・?」
「…ごめんなさい」
不貞腐れ、そっぽを向いてだったが、まぁコイツにしたら上出来だろう。
その証拠に、三人の男はあんぐりと口を開けて驚いている。
例外だった野島さんは、苦笑ぎみ。
いつも苦労かけてるからなー。
「あんまコイツの言うこと素直に聞かなくてもいいですよ。大津には言っときますから」
大津が娘にベタ甘だから桐香の命令は絶対みたいなトコがあるんだろう。
「ったく。反省しろよ」
未だムクれている桐香のオデコを叩く。
「だってぇ…りゅうが会いにきてくれないんだもん」
うるっと目に涙を浮かべて桐香は言う。
「忙しいんだから仕方ねーだろ」
「そんなこと桐香しらないもん!!」
あーもー。
頭いたくなってきた。
「一宮、その子 誰?」
後ろで聞いてた塩谷が訊く。
「あ…悪かったな」
巻き添えで殴られたんだもんなぁ。
「コイツは桐香っつって…」
「りゅう の こいびとv」
「ちがーーう!」
「へー、一宮そういう趣味…」
「妹だ!いもうと!!!」
なにを勝手に納得してんだ、塩谷!
「コイツが恋人なわけねーだろ」
ったく。
「竜くん、そういう言い方は…」
桐香を気にして伊集院が俺の服を引っ張った。
んなコト言われてもなー。
「あ、竜くん」
「え?」
「葉っぱが髪に」
伊集院が ちょっと背伸びをして髪に触れる。
俺も身体を屈めた。
「取れた?」
「取れました」
「さんきゅ」
俺が言うと伊集院は嬉しそうに、はい、と笑った。
「…りゅう」
ん?
桐香?
「なんだ?」
うつむく桐香を覗き込む。
ちゅう。
「……っ!」
「…… !!!!! 」
な゛っ…☆@×!!!
い、 い、 い も 、 妹っ
妹にキスされるとは……っ!!!
もしかして 俺 スキ多い? そうなの??
「なに考えてんだ桐香ーー!!!!!」
ゴシゴシと口を拭きながら叫ぶ。
「りゅう と けっこん するんだもん。やくそく」
「だから兄妹じゃ出来ねぇって!!!」
このバカ妹!!!
ぶぁきッッ
「へ?」
い、伊集院?
…って
ひとのメット壊すなぁあァあーー!!!
「 あ、ごめんなさい 」
にっこり。
「 ちょっと 力が入りすぎちゃった 」
握りつぶすか 普通ーー!!?
「あー…」
どーしてくれんだよ。
帰れないじゃん。
俺は溜息をついてヒビ割れたメットを見下ろした。
「りゅう、りゅう」
「あ?」
「野島が送ってくれるから、いっしょに家 行こ?」
「はぁ?」
「だってヘルメットこわれちゃって帰れないでしょ?」
「まあなぁ…」
別に行ってもいいかぁ…。
っと、そうじゃなくて!
「桐香〜、お前は反省の色が見えねぇぞ!」
伊集院に気が取られて忘れるトコだった。
「いいか? ああいうことはしちゃいけません!」
「いいんだよぉ? ママは すきな人にしていいって」
だー!
あの母親はっ!
「りゅうとは けっこんするんだし!」
「出来んっつーの!」
「だいじょうぶ! さいこん の ときは できるって聞いたもん♪」
…って、それ…
血が繋がってない場合…
「あのなー…」
何から言ったら いいんだ。
「別にいいじゃん」
塩谷が言う。
「一宮って変なトコで潔癖だよな〜」
俺ならラッキーって感じだけど?と呑気だ。
「お前は他人事だから言えんだよ」
「キスくらい減るもんじゃ…」
「 減ります。 」
「 竜 く ん の は 、 駄目です。 」
なんで伊集院が断言するんだよ…。
「あはは、ホント真琴ちゃんって一宮にベタ惚れって感じ」
おい塩谷、伊集院が好きなんじゃなかったのかよ?
「うん、そーゆーとこがイイ」
へ 、変なヤツ…
マゾ?
「真琴ちゃんが さっき使った技って、空手とか合気道とか?」
「いえ、一応 小さい頃から護身術を」
「はぁ〜なるほどね!」
護身術とかそんな可愛いモンかよ…
伊集院家は暗殺集団デス。
「強い女の子っていいよね」
にっこりと伊集院に言う。
やっぱりマゾか。
「ねぇねぇりゅう!!」
「あーハイハイ、家ね」
別に母親も大津も会いたくないしなー。(ま、会ってもいいんだけど)
どーすっかな。
「でも竜くん、ヘルメットがないと困るでしょう?」
伊集院が言う。
「買いに行きましょうよ」
にっこり。
バチッ!
「そんなの、家にあるよ、りゅう」
に こっ。
バチバチッ!
「弁償しますから 一緒に行きましょう?」
バチバチバチッ!
な、なんだ?
火花?
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