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LOVELY、LOVELY、HAPPY !

 体育祭編






ダン、 ダ、 ダン!!

ダン、 ダダン!!

低い重低音と共に、黒装束の少年たちが舞台の上で足を踏み鳴らす。


ダ、 ダン!!

木造の舞台は、校庭に響く音で鳴る。




ダ ン !!




ブワッと真っ赤な炎が噴き出した。 舞台が中央で割れ、いくつもの赤が校庭中に広がっていく。 赤い衣装の少女が舞台中央から飛び出し、色鮮やかな赤紐を手に校庭に散らばった。 朱、紅、赤、橙、と紐は幾筋も引かれ、赤い河が舞台から流れる。
山の噴火。

スタンドから わぁと感嘆の声が上がった。
今年のレッドの応援は、BBと同じ噴火と不死鳥。
別にテーマを合わせる必要はないのだけれど、今年は演出を揃えようと 三年生は決めたらしい。

割れた舞台は、姿を変え、極彩色の不死鳥へ。

また歓声が上がる。

私は赤いヒラヒラとした衣装を靡かせながら決められた位置に移動した。
放課後 三年生の教室で作っていたのは、身に付けた衣装や小道具だ。
竜くんは舞台装置を動かす裏方をしている。
最大の見せ場である変化が上手くいって、今ごろ大道具の鎌田先輩と喜んでいることだろう。


応援が終わって、BBの後ろへ戻る。
「お疲れ様〜!!」
「おつかれーー!!」
みんな興奮した様子で口々に言い合った。
次のカラーの演出が始まっていたが、一生懸命 準備してきた応援の成功で それどころではない。
「みんな、お疲れ様でした〜〜!」
川原先輩が言った。
応援パートのリーダーである川原先輩の声には安堵と充実の音が混じっていた。
その川原先輩に拍手が起こる。
「お疲れ様ですー!」
「午後も頑張って行きましょー!!」
わー!パチパチパチ!!
そんな挨拶を終えて、衣装を着替えに校庭横の体育館へ向かった。
女子が第一体育館、男子が第二体育館。もっとも、男子は ほとんど BB 裏で着替えてしまうのであまり必要ない。
「あ」
「なに?」
ハチマキをどこかに落としてしまったらしい。
昼食の段階では持っていたから、たぶん竜くんを呼びに旧校舎へ行ったときだ。
「一緒に探そうか?」
「大丈夫」
無かったら無かったで、三年生の教室まで行けば予備がある。
「ちょっと行ってくるね」
そう一言 置いて、体育館脇のクラブ棟へ向かった。

「…だろ!」
「…、……!!」
馬鹿やろう!
怒気を含んだ大きな声がして、私は立ち竦んだ。
その気配に気がついて、怒鳴った男が振り返る。
鈴木先輩。…と、坂井先輩。
温厚な鈴木先輩が声を荒げていたのかと驚いた。
「真琴ちゃん…」
座り込んでいた坂井先輩が呟く。
覆い被さるように長身を屈み込ませていた鈴木先輩が立ち上がった。
「あー、ちょっと取り込み中だから……って、そういえば」
思い出したように鈴木先輩が言う。
「真琴ちゃん、リレーの補欠だったよね」
「え? ええ、はい」
「コイツと替わってくんない?」
「キョウ!」
「んじゃ、後で事情は説明するから」
ひょい、と鈴木先輩は軽々と坂井先輩の身体を担ぎ上げた。 長身とはいえ西田先輩と違いヒョロリとした印象の強い鈴木先輩が、簡単に 女の子一人を持ち上げたことに、私はまた驚いた。
「ちょっと、降ろしてよ! 喬!!」
「じゃーヨロシク」
肩の上でわめく坂井先輩を無視して、鈴木先輩はズンズンと歩いて行った。

な、なんだったんだろう…。

「なに、真琴、ぼんやりして」
「え、えーと…」
鈴木先輩と坂井先輩って…?
「伊集院」
「わ!」
急に後ろから竜くんから声を掛けられてビックリしてしまった。
「? ハチマキ忘れてっただろ、ほれ」
私の手に赤いハチマキを落とす。
忘れていた…。
「あの、竜くん、坂井先輩とリレー替わってほしいって言われたんですけど…」
「へ? 坂井?」
「…鈴木先輩が…」
そう言い掛けて止める。
坂井先輩は同意していないから、どうなんだろう。
先ほどの様子を思い出しながら考える。
抱え上げたのって……坂井先輩が立ち上がれなかったから?

「ふーん、じゃ、鈴木に訊きゃ判るだろ」
事情を聞いた竜くんはそう呟いた。
しばらくすると鈴木先輩が戻ってきて、保健室に坂井先輩を寝かせてきたと言った。
「あいつ、熱あった」
それを聞いた高岡先輩も烏山先輩も驚いた顔をする。
私も、全く気がつかなかった。
午前中の女子リレーで坂井先輩はいつものような力強い走りを見せていた。
「仕方ないよ、あいつ隠すからさ」
困ったように言う。少し怒った顔だ。
「真琴ちゃん、頼むね」
そう言った鈴木先輩はいつもの穏やかな表情だったけれど。
私の疑問一杯の顔に笑った。
「ん、そう。俺と坂井奈緒、コイビト同士」
知らなかった…。
私も里佳も眞乃も お互いに目で問い合う。
『知ってた?』『知らない』『私も…』
「別に隠してるわけじゃないんだけどな〜。あんまり知られてないみたい」
だって、話してるのさえ見たことなかったし…。
竜くんが あまりに「鈴木は天文オタク!天文オタク!」(鈴木先輩は天文部部長) と言うものだから、どうもそのイメージしかなかった。
色白でヒョロリの鈴木先輩と、元気一杯の坂井先輩…。
「意外…」
里佳がぼんやりと言い、眞乃が頷いた。

「伊集院、あとで練習すんぞ」
竜くんが言う。
体育祭の種目を決めるとき、私は転校してきたばかりで 大まかな100m のタイムしか判らなかったが、 二年一組は足の速い子が一人しか いなくて、私はリレーの補欠を頼まれてしまったのだ。
「まぁ、リレーの経験はあるだろ?」
「はい」
そういえば…。
「小山から受け取って、俺にバトン、だからな」
竜くんに渡すことになるんだ…。









つづく




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