CD気まま聴き・・・



その1

その2
その3
その4
その5

その6
その7
その8
その9
その10
その11
その12
 
BLUES IN THE NIGHT / BILL CHALAP NEW YORK TRIO
この「もったり感」が良い。アルバム冒頭のBLUES IN THE NIGHTである。何を今更こんなもの出してきたというかも知れないが、新譜ないしは新しく入手したものに拘泥せず自由になろうとしている。僕の扱ったものが、今更・・・と思う人もいれば、前々から気になっていたとか、買い渋っていたとか、或いは全く始めてという人も当然いるだろう。サイトに公表する以上読者を気にしない人はいない。だから僕にしても世間の耳目にひっかからないでもいい・・・などとうそぶいているわけでは当然ない。(そうでしょ!そうでしょ!)
 いや、ともかく一度コメントしたものは、再びということはない・・・という縛りを解いた。
 だから今回は久しぶりに聴き直してみてそう思ったのだ。
「もったり」としか云いようがない感触。他のトラックを聴いてもこの感じは得られない。ここだけにしかない「もったり」である。
 若しくは別の表現をすれば、薄氷を踏む用心深さで、音を発するそれがこのトリオそれぞれが意識して一呼吸一呼吸息を詰まらせつつ、やっと千載一遇の音となる、これは凄いと言わず何と言えようか。
 ピアノが入っているからピアノレスとは言えないが、ピアノレスに匹敵する呼吸の間がリズムセクションとの間にある。
 細かいことを云えば、かえって興ざめしてしまうのだが、チャーラップが弾くピアノから発する光沢のある音色と少しルーズな感じのフレーズ。ジェイ・レオンハートの一音一音に含んでいるふくよかな重さ。そしてビル・スチュアートのブラシのシュ・トンという感じの撫でさすり方。この三つが重なって始めてできあがる「もったり感」。
 おいしいのである。この感じは他のと聴き比べるといっそうおいしく感じられる。
 あまり、続けて何度も聴かないようにしよう。勿体ないから。

BILL CHARLAP:p JAY LEONHART:b BILL STEWART:ds
June 7,8 2001
Venus
1.BLUES IN THE NIGHT 2.I COULD HAVE DANCED ALL NIGHT 3.BLUE SKIES 4.YOU BETTER GO NOW 5.MY FUNNY VALENTINE 6.TENDERLY 7.EMBLACEABLE YOU 8.DON'T EXPLAIN

THAT'S TIME ENOUGH/LESLIE MACLEAN
 2度目の登場である。よっぽど良かったんだ・・・と思って欲しい。再掲するのはネタがなくなった?・・・ということもある。しかし気に入ったものを繰り返し聴くのは、良い傾向じゃないかとも思っているし、改めて気づいた実感があって、敢えて再登板するという意味もある。逆にじっくり何度も聴く間もなく次から次と餌を求めて一知半解に聴いている習慣は勿体なくもある。しかしそれも悪くはないが、物欲に任せてただ散財しているだけで、ホントの良さが解らず仕舞に放置されている状況でもある。これなどもそうだ。絵的にはとても頬ずりできるような代物じゃない。まずはこれで敬遠される。こわーい占い師のおばさんにも見えるし、レスリーじゃなくてレスラー? しかしこの体格さながら音の芯が打ち出された凄み、いやそれだけではない。これがなかなかのバッパー。(ババーじゃないよ)間の取り方、大胆さと稠密さのバランスが素晴らしく、そろりそろりと来て後は痛快にとばす冒頭NIGHT IN TUNISIA他のバップチューンはとてもこのジャケットからは想像できない凄さ。ジャケットから聞こえてくるのは、どちらかと言えばクラシカルな優雅さかも知れない。しかしそれもある。リリカルな2曲目等バラードCHILD IS BORNや5曲目SOME WHERE OVER THE RAINBOWのの優雅さと機知に富んだアレンジは夢心地にさせてくれ気品が漂いダイナミズムも含んだ名演である。
 9曲目POINCIANAはよくぞ取り入れてくれたという名曲。アーマッド・ジャマルの十八番でもある。アレンジが秀逸だ。
 更にサイドマンがいい。腹に応えるバスドラやブラシで鳴るスネアやタムタムが放散する音圧はかなりのものである。ベースは要所要所のつかみ所できめてくる適材適所がニクイ!
 総体的に言って昼ドラみてる有閑マダム風の風体(意味不明だが)の影も感じさせない。ジャケット見て買わず損(最近ある団体を「ごね得」と言って超特急で辞任した某大臣もいるが・・・関係ないネ!)とならないように・・・。
LESLIE MACLEAN -p BOB BOWMAN-b JERRY POLLOCK-ds
2004
KIPPIEJOSH JAZZ
1.A NIGHT IN TUNISIA 2.A CHILD IS BORN 3.BILLIE 'S BOUNCE 4.CHICHEN-ITZA 5.SOMEWHERE OVER THE RAINBOW 6.WE'RE OFF TO SEE THE WIZARD 7.IF I ONLY HAD A BRAIN 8.DING DONG,THE WITCH IS DEAD 9.POINCIANA 10.ROLL IN THE HAY 11.I LOVES YOU,POGY 12.THAT'S TIME ENOUGH
ERIC ALEXANDER/ ALEXANDER THE GREAT
 エリック・アレクサンダーはこの頃が好きだ。特にこれはハモンド・オルガンがベースとなって溌剌さと躍動感でバイブレーションをかけられているような心地よさがあって疲れ切って居るとき、大音量でCDをかけて、自分の為にだけ鳴ってくれと心の中で叫びながら聴きたいと思うことがある時にはまさにそれに相応しく、徐々に疲れも癒され元気になってくる。
 今になれば既知となったピーター・バーンスタインも参加しているし、ファンズワースのドラムもキレがよい。当時新進気鋭の陣営が腕を鳴らして挑む姿勢が音となっている。ハモンドオルガンをバックに使った珍しいアレクサンダーの盤で、同時期のCRISS CROSS盤も良いが、不思議と合間のアクセントにかけたくなる。オルガン・ジャズにテナーがアレクサンダーだという趣向が売りともなる。
アレクサンダーの持ち味は、安定したトーンと立て板に水の流麗さにあるのだろう。ところがこれがプラスに受け止められる時と、逆にアクのなさ、真面目すぎと感じることがある。このマイナス要因を如何に攻略出来るかというのが、彼を聴く度に思うことだ。
 紳士、ダンディ、好青年・・・これが鼻につくことがあると思うのと同様で、曲がったことが好きな僕は時々戸惑う。たまに崩れを感じさせることがあっても、微細な揺れで、とことんということがない。
 このアルバムのアレクサンダーもどちらかというと破綻もなく流麗でストレート。しかしこれがいけないという段階以前の水際だった覇気に押される。これがずっとそうだといい加減飽きも来る。
 良い加減にバイヴをかけ終わった頃、しみじみとアレクサンダーが吹くBORN TO BE BLUEが良い。マッチョな男性的なテナーを誇るアレクサンダーがしおらしく吹くのだ。やはり彼のバラードは違う。とはいえ最近では足踏みならし、ドクドクドクと心臓が高鳴るトラックが断然良い。だから 最後のCARROT CAKEの律動ですっかり元気となって自らリズムをとるという按配である。
ERIC ALEXANDER-ts JAMES ROTONDI-tp CHARLES EARLAND-hm org PETER BERNSTAIN-g JOE FARNSWORTH-ds
May 8 1997
HIGHNOTE
1.BURNER'S WALTZ 2.LET'S STAY TOGETHER 3.GOD BLESS THE CHILD 4.EXPLOSIN 5.THROUGH THE FIRE 6.SOFT WINDS 7.BORN TO BE BLUE 8.CARROT CAKE
IDEAL CIRCUS /EDOUARD BINEAU
 できるだけ無音に近い環境で聴きたい。響くに任せて最初のアタックから更に残響さえも愛おしく空間に染みこんでいくからである。
 先日たまたま入院中の方が、病院を抜け出して2日続けて通ってくれたとき、これをかけた。何の病気で入院されていたのかは聞かなかったが、無言で聴き入ってくれた。彼の巷と疎遠であった控えめな欲求を隠し持った様子と、このエドゥアール・ビノーのこれはマッチした。他に客がいなかったのも幸いした。彼の無言の心の振幅が聴き取れるようでもあった。猥雑にならず孤独な心脈と共振する音楽である。
 2,3曲目のFREDERIQUEと4曲目WAYFARING STRANGERがいい。2曲目始めソロで次ぎにトリオで奏でる。響くに任せてというのは、実はこの演奏のことを思ったからだ。ソロでのピアノの残響音。4曲目のベースソロからトリオに入る各楽器の鳴りが気持ちよい。暫くこういうのに疎遠だったかも知れない。
 殆どオリジナルで占めているなかに、続くANGEL EYESとかBESAME MUCHO等を挟み込んでブラシの芯が見えてくるようだ。そのブラッシュ・ワークに支えられてピアノの微妙なタッチを活かしてくすぐってくるなぞはニクイ!BESAME MUSHOの針の穴を通すような神妙なピアノ・タッチは頗る心憎いに尽きる。スローテンポに確かな哀愁の響きありというところだ。
 11曲目DOC GRROVY & MR RIDEでこのアルバム再度のピークを迎え最終曲SAD LISAを迎える。
 
 最後までかけず別のものをかけたが、これを聴き終わって入院加療中の彼は、「ありがとう御座います」と丁寧に言って辞した。その言葉の多くを語らない余韻とこのアルバムの印象がだぶる。
 
EDQUARD BINEAU-p GILDAS BOCLE-b ARUNAUD LECHANTRE-ds
July 17-19 2004
NIGHT BIRD
1.INTERFACE 2.FREDERIQUE 3.FREDERIQUE 4.WAYFARING STRANGER 5.ANGEL EYES 6.SAD INSIDE 7.BESAME MUCHO 8.SHURMA 9.IDEAL CIRCUS 10.VERTIGO 11.DOC GROOVY & MR RIDE 12.SAD LISA
BILL EVANS & JEREMY STEIG/WHAT'S NEW
 本来ならアナログで聴きたいところだ。始めてこれを聴いたのは学生の頃で友人の下宿にむさ苦しい朋友が汗と体臭を籠もらせ、これに聴き入った記憶がある。その時は間違いなくCDなどはまだこの世になく、貧弱な装置ながらもレコード盤を通した熱気に茹だっていた。聴いているとき下宿の主が、「聴きながら何を思って聴く?」という問いかけをしてのに、僕はそっけなく「ただアドリブ旋律を追っているだけだ」と答えた覚えがある。詩的な或いは精神論で忖度する気が更々なく音楽的興味の網にかかったいちアルバムという捉え方に今日も変わりはない。
 加えて今聴き直すと、ジェレミー・スタイグのフルートから発せられる「音」の生々しさは学生時代の単なる熱気にかてて加えて、オーディオ的満足感を満喫させてくれることに気づいた。
 エンジニア、レイ・ホールを意識したのは、最近聴き直してからだが、スタイグが放つ音の底光りを拾い上げ、息づかいの一つ一つを音楽的な素材に持ち上げている。
 エヴァンスやエディ・ゴメスとの対比で聴けば、エヴァンスの「冷淡」ゴメスの「剛」スタイグ「焦燥」という絡み合いに聞こえる。エヴァンスの冷淡はマイナス・イメージではない。過剰な熱を冷却する装置のように、演奏に送風されるクーラーでありながら、しっかりある熱の脈を感じさせている。
 
JEREMY STEIG-fl BILL EVANS-p EDDIE GOMEZ-b MARTY MORRELL-ds
Jan 30,Feb3-5 Mar 11.1969
VERVE
1.STRAIGHT NO CHASER 2.LOVER MAN 3.WHT'S NEW 4.AUTUMN LEAVES 5.TIME OUT FOR CHIRIS 6.SPARUTACAS LOVE THEME 7.SO WHAT
MASSIMO FARAO/ROMANTIC MELODY
 ある時突然右手の橈骨神経麻痺を起こして、約2ヶ月になる。未だに右手は不如意な動きしかしない。普段の行いが悪かった罰があたったと思うしかない。しかしおかげで長年遠ざかっていたピアノの前に座るようになった。リハビリのつもりである。親指側の神経が麻痺して力むと手首があがってまるで幽霊のような感じだった。オクターブが捉えられず難儀していた。それが続けている内に少しずつ少しずつ指が広がり思い通りとはいかないが、使える範囲でピアノを愉しむことが出来るようになってきた。
 マッシモ・ファラオは現代のウィントン・ケリーだ。適度な音数で良くスウィングし良く歌う。僕ぐらいの年頃では、最終的にピアノ・トリオといえばケリーに納まる。彼はジミー・コブのトリオでケリーのトリビュートを出したくらいだから、彼をおいて今にケリー節を奏でられる人材はそういないのではなかろうか。
 親しみやすい楽曲に、愛情の籠もった歌心のある軽妙なタッチ。気持ちも鍵盤をつかむ手も直ぐに入っていける。ピアノ・リハビリが選ぶベスト・チョイス。勿論聴いて和める曲のオンパレード。これで愉しめないとしたら、よっぽどのひねくれ者。ジャズ感性のリハビリにも良さそうだ。
MASSIMO FARAO-p BOBBY DORHAM-b LORENZO CONTE-ds
2003
AZZURA MUSIC
1.L'AMOUR EST BLEU(LOVE IS BLUE) 2.LA REINE DE DABA 3.ADORO 4.MORE 5.COINS IN THE FOUNTAIN 6.A SUMMER PLACE 7.WHEN YOU WISH UPON A STAR 8.FASCINATION 9.MONN RIVER 10.SOME ENCHANTED EVENING 11.TILL 12.STARDUST
RETURN VISIT ! /TUBBY HAYES
 FONTANAがやたらとタビー・ヘイズを掘り起こしているが、さほど興味のあるミュージシャンではない。にもかかわらずこれには、ローランド・カークが参画している点で触手が動いたからである。もうひとりのゲストはジミー・グルーミーの変名で参加したジェイムズ・ムーディーだった。彼等はヘイズが渡米する際、いったい誰とセッションするのかは、一切明かされていなかったらしい。そんな彼等に加えるに、ウォルター・ビショップ JRにサム・ジョーンズ、ルイス・ヘイズという強力なメンバーだった。
 都合3人のテナー奏者(カークはマンゼロやフルートの場合もあるが)が順番にソロを取るとなれば、大抵うんざり来るところが、意外と音色や吹き方の差異が面白く興味が最後まで持続する。やはりカークの存在が採光を放って全体の演奏に色づけをしていく面白さが群を抜いているが、ヘイズもムーディもそれぞれの個性が強く一癖あるところを聴かせる。それぞれのソロの面白さに加えユニゾンで奏でる色調も厚みと色合いが独特である。かてて加えてヘイズのヴァイブ、カークのフルートとなると益して多芸さを活かした一様ではないアンサンブルとなる。これが下手物に脱せず音楽的に微妙なズレと和合を持っているところが聴き手を満足させる。
 最近の若手がハードバップをやってもいっこうに面白くなく、聴こうというモチベーションを削がれてしまうのだが、偏に個性が足りなく、平均化し扁平なものを感じるせいなのだろうか。ピアノ・トリオも同じような感触を受けることも多い。
 興味のわかないものを敢えて我慢して聴いている必要はないのだが、誰を聴いても差別化できないというのは悲しいことである。
 ここに出てくるカークのような存在となると格段だが、そうでなくてもこの時代のミュージシャンは、ブラインドで聴いても誰だか大抵はわかるものだ。(でも、この場合でも聴いているうちに誰だか自信なくなるけど)
 通り一遍でない個性を埋め込んで刻まれている音源の価値を再確認した一枚だ。
 
 
TUBBY HAYES-ts,vib JIMMY GLOOMY=JAMES NOODY-tsROLAND KIRK-ts,fl,mannzello,etc WALTER BISHOP JR..-p SAM JONES-b LOUS HAYES-ds
1962.6.23
FONTANA
1.AFTERNOON IN PARIS 2.I SEE WITH MY THIRD "T" 3.LADY "E" 4.STIT'S TUNE 5.MEDLEY (IF I HAD YOU,ALONE TOGETER,FOR HEAVEN'S SAKE)
BLACK AND TAN FANTASY/STEFANO BOLLANI
 ベイシスト、アレス・タヴォラッジとはMANBO ITALIANOというデュオ(録音年月日不詳)以来の仲というのが僕の記憶だが、彼等を持って始めて「相性がいい」と言えるだろう。どんな曲調を持ってきても、彼等の手のひらの上で転がらない玉はない・・・とさえ言える。とはいえラテン色調、地中海風ともなれば体中の血が騒ぐのだろう。眠ってても指は動く・・・のかも知れない。
ボラーニを知って約7年。一旦は飽きた。というかヴィーナスが彼を紹介始めた時には僕のなかでは炭の熾きは消えかけていた。自分が始めて見つけた逸材のような気がしていたので、天の邪鬼が起きた。
 次々連打されるアルバムを後目に無視し続けた。が、たまたま聴いたエリントンのタイトル曲に静かな胸騒ぎを覚えてまた聞き始めた。
 BLACK AND TAN FANRASY=黒と褐色の幻想
 連続して出されたVOLAREとは趣を違えるが、一連の録音でヴィーナズによるボラーニ日本上陸作戦だった。
 今となっては静観できるが、僕のなかではかなり複雑なとらえ方をせざるを得なかったヴィーナス戦略だった。
STEFANO BOLLANI-p ARES TAVOLAZZI-b WALTER PAOLI-ds
July 7,8 2002
1.JUST ONE OF THOSE THINGS 2.BLACK AND TAN FANTASY 3.DAY DREAM 4.I'M THRU WITH LOVE 5.IT'S ALWAYS YOU 6.IT'S YOU OR NO ONE 7.LA ULTIMA NOCHE 8.FLOWER IS LOVESOME THING 9.THE SOPHISTCATED LADY
I'M OLD FASHIONED / MARGARETA BENGTSON
 あまりの出来の良さに笑ってしまった。これを聴いてあのビル・エヴァンスと同郷のモニカ・ゼッタルンドを思い起こさない人があろうか。足りなくば、アン・バートンを足せばよい。ただし声質は全く違う。谷間に木霊する透き通った精霊の声と言っておかしくない。雫となって落ちる水滴だ。しかしニュアンスはモニカの生き移しに近いところがある。ONCE UPON A SUMMERTIMEをお聴きあれ。バックのエヴァンス・トリオとは比べようもないが、滴るような瑞々しさは彼女がいくら装っても、モニカを意識しなっかったなんて信じられない。いや、これは僕の思いこみだとしても、それはそれで良いのだが。
 桜の満開の下に涼やかな声が染み渡る。
MARGARETA BENGTSON-vo PETER ASPLUND-tp PETER FREEDMAN-as JOAKIM MILDER-ts DICKEN HENDRENIUS-tb OVE LUNDIN-p MARTIN SJOSTEDT-b CALLE RASMUSSON-ds
2006?
1.I'M OLD FASHONED 2.THIS IS NEW 3.CARCOVERD 4.ONCE UPON A SUMMERTIME 5.TWISTED 6.IT NEVER ENTERD MY MIND 7.LIKE SOMEONE IN LOVE 8.DINDI 9.SOMEONE TO WATCH OVER ME 10.SOME OTHER TIME
TEMPTATION/STEVE KUHN
 多分もう誰もが忘れ去ってしまったであろうこのアルバム。只のワン・フレーズさえ思い出すことは難しいかもしれない。スティーブ・キューンの数多あるVENUS盤からこれを選んだのが気まぐれでしかない。しかし気まぐれにひとつの理由を見いだすとすれば、70年代のキューンの片鱗が覗いて見えるかも知れないという一点だろうか。しかしそんなことはありえないのだ。かねがね70年代のキューンの危険な策謀、或いはシュールな音像を愛している自分には、年を追うごとに常民の域に身を脱してしまったかに聴けるのを残念と思うしかなく思っていた。
 だからこのアルバムにしても、忘れ去られることは必定の憂き目を負っていた筈だった。凪の連続というしかない穏やかな演奏からは、なかなか嘗ての才気が覗かれないのを苛立って聴き続けた。しかしそんな稚拙な欲求を宥め賺したのは、DJANGOの美麗端麗な演奏である。与えられたコード進行が許す限りにおいてDJANGOの演奏でこれほど胸を打ち、僕のカラカラになった頭を潤い浸すフレーズはなかなかないと言っていいのではないか。
 この時点でこれまでの文を書き直さなければならない義務を負っているのを感じた。全ては的はずれである。
 つまり嘗ての危険な策謀が影を潜めたからと言って、過去は現在でないからといって嘆くような馬鹿馬鹿しい言い方に過ぎない。嘗ての策謀が稚拙な哲学を思わせるかというとそうではない。安逸に腰掛けた椅子をひったくるような危険なアナーキストよろしく、或いは幻想的情景が横溢する悪魔的な絵画に似た刺激を覚えるのだ。
 それからしてみれば、今聴いているキューンはそこから「転向」してしまった感がする。「転向」もりっぱな生き方の方法論ではあるが。
 最早貶しているのでもなく褒め称えているのでもない。あるがままの受容ということでしかない。その受容がキューンの「転向」とともに、聴き手をも引きずり込んで聴き手の「転向」を起こすとすれば、これはりっぱな芸術的成功と言えるだろう。しかしそれはない。それはそれ、両性具有の若しくは単なる八方美人のディレッタントである僕の受容はそんな変革を起こしえない。しかしそういうアンビヴァレンツな感性を否定したくはないことも確かだ。
 ジャズという世界で音楽的メタモルフォーシス(変身)は、80年代までで終わっていると思っている。後は円環的にそれまでのスタイルを拝借するに過ぎない。こうなると何を求めて聴くことになるのか。マンネリ化した受信感覚に過去の遺産をノスタルジックを掛け合わせて、散逸したデータに太平楽に浸り、中流的生活スタイルの愉楽的置物のごとく雰囲気を愉しむというデガダンスでしかない。ダダイストはダダイストとして我が身を認識するだけだ。我々が変化を欲求していないのではない。音楽発信者が、変革的方法論を見失ったに過ぎない。享受者の立場で無から何を欲求すべきだろうか。
 それは刹那的な感覚の麻酔を愉しむということであろうか。いや、違う。
 スタイルの革命的変化に没頭している最中に、その渦中から外れてジャズの原風景とその深層心理をつく脇役的存在のあったことを忘れてはならない。それらを一概に古いスタイルの継承者とは言えまい。彼らはジャズの骨法を行くもの達だ。伊達役者であり、洒落者だ。どの範囲をそれだというのは難しいが、少なくとも変革的方法論の埒外にあって、職人的熟練をもって表現しようとする者達と言っていいだろう。
 宇宙の大きさの違い、天上と市井の差異と簡単に断じてしまえばそうなる。
 キューンは天上の高みから市井に降ったのだろうか。
また的はずれが始まったようだ。言葉遊びが過ぎたようだ。
STEVE KUHN-p BUSTER WILLIAMS-b BILLY DRUMMOND-ds
Jun 13,14 2001
VENUS
1.TEMPTATION2.DARK EYES 3.YOU BETTER GO NOW 4.THE SUMMER KNOWS 5.LOVE IS HERE TO STAY 6.DJANGO 7.A LIKELY STORY 8.I CAN'T GET STARTED

2001-2004 (C)Cafe JAMALi, All right reserved.