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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − fight ! −





「両者、礼」
ジジイの声に、俺と伊集院は礼をする。
伊集院の顔は至って真剣だ。

あ、俺?
いや、なんか、そういう感じじゃねぇな。

開け放した窓から風が入る。
さわさわと木々を揺らす風だ。

気持ちがいい。
光は射し込んで、 緑は深い。
空は青く、高く、 湧きあがる雲が見えた。

ああ、あんな感じ。


「はじめ!」



   身 体 が 軽 い 。



「は!」
「!」
速い。 スピード重視で最短距離の蹴り。
「!?」
間隔をあけず続けて上段蹴りが掠めた。
…コイツ…………足癖 わりぃ!
距離を取る。
いつも投げ技ばっか見てたから知らなかったぜ。

でも、そうくるなら…
「!」
連続技の合間に攻撃を入れる。
伊集院はギリギリで避け、避けた体勢から関節を狙って俺の腕に手を伸ばす。
身体を回転させて かわした。

うーん、すげぇ攻撃的。
意外っちゃあ、意外だけど、そうか、性格を考えればそうだよな。
攻撃的だよな。
        ↑ 積極的 って言ってやれよ


う、 わ、 すげ、 楽しくなってきた。


蹴りが上がる。
「……!」
…裏拳打ち! っっぶねーーー!!!
伊集院の拳が頬を掠る。
蹴ってそのまま回転して裏、だ。
「 ッ!!?」
さらに回転、裏蹴り(ソバット)が飛んできた。
すげえ。 流れる連続技、動作。
俺の腕も脚も さらと受け流す。

思わず、見惚れた。
綺麗だ。 結んだ髪が揺れて 上気した頬は赤く染まる。
真剣だった目は楽しそうに輝き、俺を見た。

うん、俺も。
俺も、すげえ楽しい。


こんな感じ。  そうだ、こんな感じだったよ。

あのころ俺は、ただ楽しくて、 楽しくて。

身体を動かすことも、思いっきり闘うことも。
家も、道場も。 じいちゃんも。 当たり前に そこにあって。


『 狂気染みてる 』
そうだ、きっと餓えてた。
自分では気がついてなかったけど。

きっと、餓えて餓えて、仕方がなかったんだ。


でも、 そう、 思い出したよ。
あのとき、俺は、こんなふうに。


ただ楽しかっただけなんだ。


伊集院が息もつけないスピードで次々に攻撃を出してくる。
その一つ一つが、空気の動きで感じられる。
どこに何が来るのか判る。
昨夜も こうだった。
澄んで、透き通って、どこまでも見渡せる感じ。
雲が広がるように、風がどこまでも流れるように。

感覚が広がって。


   身体を捉えていた 枷が、 外 れ た 。


「!」
距離を縮めた伊集院の、勢いをそのまま流す。
タイミングを合わせて手首を返し、 重心を移動させて、バランスを崩させる。
伊集院の軽い身体は、

ふわ、と舞った。


「そこまで!」


「………」
「………」

荒くなった息をつきながら、肩口で汗を拭った。
伊集院も息を荒くして俺を見上げる。

「……俺の、勝ち、だな」

ニヤリ、と言った。


「へっへっへ、びっくりしたろ?」
伊集院を起きるのに手を出す。
俺は打撃系が得意で、投げは苦手なんだよね。
それは伊集院も知っていたはず。
結構 無防備だったからな。
今回は朝季さんが大成さんに使った技を応用してみました。
便利だな〜と思ってさ。
うはは、しかし こんなに上手く決まるとは。
昨日シズカで練習したお陰だな。

俺の手を掴んで伊集院が立ち上がる。
まぁ、投げて落ちる瞬間、衝撃を減らしたからダメージはないはずだ。
「……! うぉ!」
そのまま手を引かれて首に抱き付かれた。
「こら、放せ!」
俺の声に、益々ぎゅうと力が入る。
おーい、放せ〜?

「……竜くん、すごく楽しそうだった」

「ねぇ、楽しかった?」

……?

……泣いてんのか?

肩口に顔を埋める頭を ぽんぽん、と叩くと、 伊集院は身体を離した。
顔は上げず俯いたままで、 手は俺の指を握った。
「…私ね」
きゅ、と指に力が入る。
「竜くんに近付きたかったの」
顔は俯いて、見えない。
「もっともっと近付きたかった。 でも方法が判らなくて。 …だから、 竜くんの好きなことって思って、それで…」
「勝負を吹っかけたわけ?」
そりゃ、また…。
俺は呆れて天井を見上げる。

なんつーか…。

「飽きないヤツ…」

苦笑いの声に、伊集院が顔を上げる。
「だって、他に思いつかなかったの!」
その拗ねた表情に思わず噴き出した。
「そっか、…そう、…まあ そうだよな」
俺だって、どうやって抜け出したらいいのか、全然。

ジジイと会って、血が沸騰した。けど。 でも、違った。
俺が感じてたのは そんな、切実なものじゃなくて。
ただ空気のように当たり前で自然で、ただ楽しくて。

『楽しかった?』

「…ん、楽しかった」

俺が言うと、伊集院がほころぶように ほほえんだ。

「うん…楽しそうで……前みたいって、思った…」

そうだ。 喧嘩だから、勝負するんじゃなくて。
耳を澄ませば、風の音。射し込む光。
一緒に感じた人は居なくなってしまっても、 世界はそこにあって。

伊集院の肩に額を乗せる。

隔てられたと思った世界は、
封印して閉じ込められ沈んだ、感触は、ずっと。
「…楽しかった…」
ここに、あったんだ。


「竜くん?」
柔らかい身体を抱き締める。




思い出したよ。


会わなければ、きっと忘れたままだった。




「…竜くん…?」




人に ふれる と


あたたかい


そんな、当たり前のこと。






つづく













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