「はぁはぁ」
ふぅ。
ここまで来れば大丈夫だろう。
………………………………て、ここドコ?
伊集院家 広すぎ。
鬱蒼と茂った樹木に首を回す。
ツルが巻きついた煉瓦造りの建物が目に入った。
旧館だ。
それで大体 位置が掴めた。
「竜ちゃん?」
あ。
「朝季さん」
「どうしたの? こんなところで」
「いやー…あなたの亭主に追い回されて。」
「あはは、大丈夫だった?」
笑いごっちゃないですよ。
ああいう人を野放しにしないで下さいヨ。
「キスしたんじゃないの?」
「されたんですよ、無理矢理」
傷付いたのは俺よ?
俺の繊細な男心はズタボロよ。
「あはは、なるほどね〜。竜ちゃん スキ多いもんねぇ 」
そんなハッキリ…。
「ごめんね〜。あの二人は ときどき周りが見えなくなるから」
困った人達よねぇ、といいながら、楽しげなのは気のせいだろうか。
「だからといって、あれは」
思わず溜息。
「んー、でも桐香ちゃんには真琴も負い目があるみたいね。落ち込んでるでしょ?」
「はぁ、まぁ…」
「自分は一緒にいられるわけだけど、桐香ちゃんは違うじゃない。
気持ちが判るだけに同情もしちゃうんでしょうね」
「そんなもんなんですかねー」
よく判らん。
「だからといって、好きな人が他の人とキスして冷静でいられるわけもなく」
「はあ」
そーなんですか。
「 いちみや〜 」
「…あ」
「あ…」
「 いちみやりゅうや〜! 」
ち、近付いて来てる…
「じゃぁ、俺は これで…」
そそくさと逃げようとすると、朝季さんに腕を掴まれた。
「まあまあ。大丈夫だって」
いや、大丈夫じゃないッス。
テキは刃物を もっているんデス。
「まぁ、落ち着きなさいって」
ふわ、と身体が浮く。
回転して、視界は一気に星空になった。
木々の間から月が見える。
「…あ、れ?」
土の上に寝転んで、マヌケな声が出た。
「ふふ」
朝季さんが立ったまま首を傾げて見下ろしている。
「い〜ち〜み〜や〜」
大丈夫 大丈夫、と朝季さんは声のする方に向き直った。
「あなた」
「むっ? 一宮を見なかったか?」
「あ、それなら…」
と、話しながら何気なく刀を奪い、建物に立て掛けた。
「ほら、あそこ」
「!! 一宮竜也!」
ぐゎ!と殺気立って向かってくる。
「これはね、こうやって…」
朝季さんは歌うように言って大成さんをくるりと回した。
「こう v 」
ダン!と大成さんの身体が地面に落ちる。
「ね?」
にっこりと笑う。
…なるほどー。
すげぇ。
大成さんも まさか自分の奥さんに投げられるとは思ってなかっただろう。
驚いた顔で停止している。
「ごめんねー、よく言い聞かせておくからね」
「あ…ありがとうございます」
ジジイとは違う意味で朝季さんって最強だよな…
「うーん…」
悪意にしか反応しない、ねぇ。
そんなことはないけどなー。
でも伊集院とか朝季さんは戦おうって気もあるわけじゃないし。
確かに戦意さえないと判り辛いかもしれないなぁ。
ぷらぷらと道場に戻りながらそんなことを考える。
ぼんやりと明かりの漏れる木の下に伊集院が立っていた。
「竜くん」
「なに」
少しは落ち着いたか?
「私、考えたんですけれど…」
なんだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・@☆×!!?
「口直し、です」
ぺろ、と舌を出して伊集院は言う。
く、く、唇 舐めやがった…!!!
「スキ有り、ですよ、竜くん?」
ふふ、と笑う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぜっっってーーー 負かしてやる。
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