本格的な商業・サービス業向け補助金を作る  

世の中、サービス経済化が進んでいます。その反面、製造業の空洞化が問題視されています。
そこから、「商業・サービス業の生産性向上」と「ものづくり振興の強化」が求められるようになっています。

なぜ、商業・サービス業の支援なのか〜2つの道

アベノミクス以来、国の補助金制度が大幅に拡大されました。東京都の助成金もその厚みを増してきています。
私は過去5年間、補助金がらみの仕事に係ってきており、その難しさや危うさも間近に見ることが何度かありました。その中で、ずっと構想してきたのは、「商業・サービス業向けの本格的な補助金制度の実現」でした。
「本格的な」の定義ですが、「商業・サービス業を営む全ての中小企業がエントリーできる制度」と、こことでは定義しておきます。
実際のところ、商業・サービス業よりも、製造業向けの補助金の方が制度設計は楽です。モノを買えばいいのです。
1個あたりの単価も高いので、検査する書類も少なくてすみます。
そんなこともあって、これまでの補助金は製造業向けのものばかりでした。



なぜ、こんな資料を作ったか→


なかなか、そうは作れませんでしたが。



しかし、行政も商業・サービス業の生産性向上の重要性を認識しており、拡充の方向に動き出してはいます。
ですが、実現への道は険しく、簡単に進められるものでないことも確かです。

また、行政が製造業ばかりを相手にしてきたことも影響したのか、商業・サービス業分野の企業は補助金事務に慣れていません。
そこで、本稿では、いかにしたら「商業・サービス業の経営向上を図る補助金を作れるか」をテーマに、解説をしてみたいと考えています。

なお、本文中の引用データは平成28年度のものです。
予告なく変わっている場合もあります。個人では、とてもフォローしきれませんので、ご容赦願います。

まずは、専門家に相談しよう→

さて、東京都の事業所のほとんどは、商業・サービス業です。
東京都の場合、平成26年の事業所統計(平成26、2014年)によると、総事業所数は66万。
うち、製造業は5万にすぎないのですが、これに対し、卸・小売業は16万、もろもろのサービス業(教育・医療福祉を含む)は30万にも及びます。
かつては製造業にとって受難の時代がありました。公害問題が非難の的となり、そのうえ土地価格が高騰したこともあって、高度成長期にどんどん他県に出ていくことが望まれたのです。
さらに最近では低賃金に惹かれて、気が付けば、海外に生産現場を移すことが当たり前になってしまっています。
都内に残った製造業も、本社部門と営業部門が残っているだけ・・・。そんな姿になりました。
ようやく近年になって、「ものづくり」が重要視されるようになっていますが、相続税やら何やらで、都内の町工場で安心して後継者を育てられるところは少ないと思います。


「ものづくり」も大事なんです。
が、都民の多くが商業・サービス業に勤務し、法人税の多くもそういう分野の企業が多く納めているという事実がある以上、商業・サービス業振興に政策もシフトさせなければなりません。
しかし、補助金行政を見る限り、その対象は依然「製造業寄り」です。

なかなか、商業・サービス業向けの支援策が生まれないのには、それなりの理由があります。
国は、それまでガチガチの製造業支援だった「ものづくり補助金」を、商業・サービス業分野まで拡大しました。
東京都は、地域中小企業応援ファンド事業で商業・サービス業を視野に入れた支援を行ってきました。そして、それが終了するタイミングで商業・サービス業向けの「革新的サービスの事業化支援事業」を新たに立ち上げています。
商業・サービス業への経営支援が必要であることは、行政も承知しているのです。

製造業と違って、商業・サービス業分野は企業規模が小さくなります。
当然、経営者が直接実務に対応することも多くなります。
補助金も同様なんですが、経営者はとにかく多忙です。とても、募集要項の端から端まで重箱の隅をつつくように読み込んではいられません。
書類不備も多いかと思います。「現物は目の前にある、どう見ても購入費用は支払っている。それなのに、銀行の振込依頼書の控えがないだけで、ど〜して補助金が出ないのだ。カードで払っちゃいけないなんて聞いてないぞ」と、お怒りになるかもしれません。でも、そういうことになっているから、仕方がないのですね。
そういうもめごとに巻き込まれると、新しい補助金制度を作ろうという意欲も萎えてしまうのです。



よくある補助金の勘違い→

補助金は何にでも使えるものではない→

さて、制度を作るにあたっては、まずは何のために補助金を交付するのかしっかりした考え方を構築しておく必要があります。そうでないと、ただのバラマキになります。
最初に、何のための補助金交付か哲学が必要なのかという哲学が必要です。

民間の支援企業やクラウドファンディングなら、単に「気に入ったから」でいいのですが、公費を投入する以上、社会的意義が認められなければ納税者の納得は得られません。
補助金?・助成金?・交付金?→
補助金の対象になるかどうかを、最初に確認する→


補助金活用を考えている経営者の方に、まず知っていただきたいこと→


「公費を投入しても許される」という言葉を分かりやすく言い換えると、「そんな会社に資金援助するなんて納得できない」という批判をどうかわすか、ということになります。
労働分野では、雇用促進のための補助金がいくつもありますが、「雇用の安定のため」と言われてしまうと、誰もが納得します。
しかし、会社運営は利潤追求のために行われるもの。それに税金を投入することについては、万民の同意を得ることは困難です。
そこで、それなりの理由が求められてきます。 行政の立場から見て、「公費を投入しても許される」という評価基準は、大きく2種類に分かれます。


行政情報は早めに入手しておく→

(1)社会貢献度を評価して補助金を交付する

その事業の成長を促進することが、直接に住民の生活向上に繋がる場合です。

例えば、私たちの応援ファンド事業では、認定NPO法人フローレンスの「病児保育事業」を採択しましたが、それはこの事業が小さな子供を持つお母さんたちの支援に直結すると評価されたからです。
こういう切り口は大切で、平成28年度から始まった都公社の「革新的サービスの事業化支援事業」も「事業を限定しない」と言ってはいますが、よくよく事業モデルの“例”を見ると、こういう要素を重視していることがわかります。

(2)経営力向上効果を評価して補助金を交付する

もう一つは、純粋に企業の経営体質の向上をめざす場合です。
「うんと儲けて、納税額の増加や雇用の拡大に繋げていただければ、公費も投入のし甲斐がある」、という理屈になります。
こちらの方向に進むには、企業がどうやってそれを実現しようとしているか厳しく「判定」されることが大前提となります。
口先だけでなく、本当に実現することが求められます。
商業・サービス業の経営向上についてのうんちくはこちら→

企業そのものを一番よく知っているのは経営者自身です。
それを、第三者である審査委員が限られた情報、限られた時間の中で点数づけするのですから、事業の仕組みがかなり精緻に作られていなければなりません。
なかなか難しいことです。
いずれにせよ、この2種類の考え方の違いは、申請書の内容、審査の手順、評価の基準などに大きく影響します。
(詳しくは後述)


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