−8月−

−変化1−
夏休みに入って個人懇談がありました。今回印象的だったのは,子どもが変わったという反応でした。「小学校に入って,今までの期間より,この1学期の間の変化の方が大きい。」「今年になって,はじけてしまった。学校ではしゃぎすぎて迷惑をかけていないか。」「こんな子どもではなかった。」「浮かれすぎて怪我が多くなって心配している。」「今までと違う一面が見られて家族で喜んでいる。」「授業で,頑張ろうという意欲が増しているように感じる。」「生き生きしてきて嬉しく思っている。」等々です。これには私の方がびっくりしました。

−変化2−
「びっくりした」というのは,今までこんなに言われたことがなかったからです。私が今までやってきたことは,朝の会は心のウォーミングアップとして,「笑い」を入れること,忘れ物や宿題は徹底的に教師がチェックすること,「のせる」を意識することぐらいです。今年だけ特に変えたところがある訳ではありません。それでも今回こういう反応が聞かれた理由として,1つ考えていることがあります。

−変化3−
教育界はこの10年で大きく変化してしまいました。一言で言えば「独自性」が奪われ,「管理化」されてしまいました。その原因を作ったのは教師自身ではないかと思っています。私は新採の年から100マス計算を時間を計って行っていましたが,当時,児童数1800名のマンモス校でそんなことをしている教師は一人もいませんでした。また,夏休みに児童を集めて補習をしていたら,糾弾されました。次の学校では,学習に遅れのある児童に対する放課後の学習計画について話していたら,「何でするのか。」と言われました。

−変化4−
これは全くの想像ですが,ひょっとしたらこういう空気が子どもたちの学力低下の原因とされ,その反動が教育界に出来上がってきたのかもしれません。そして,この圧力の下で教育が行われてきたとしたら,今回違う空気に触れた子どもたちに変化がみられたのかもしれません。

−講座(その2)1−
4月に学力づくりについての私的講座を行いました。この時は私の方から声をかけましたが,その後については黙っていました。もし,自分たちの役に立つと思ってもらえれば,「次」への要望が自然に出てくるはずだからです。それに,聞きたくもない話を無理矢理二度三度と聞かされるのはたまったものではないからです。また,忙しいという理由からそのままになれば,それだけのものだったということの証明になると思っていました。

−講座(その2)2−
7月になって次の講座の要望がありました。学ぼうという意欲が感じられ,こちらも熱を入れて資料を作りました。用意したのは,自分の実践資料を閉じた冊子,プレゼンスライド,レジメ,演習プリント2枚です。勤務時間を終えて,6時から始めて2時間30分の講座となりました。始めて約2時間後,「2時間経ったので,ちょっと休憩しましょう。」と言うと,「えっ,もう2時間経ったんですか?」と言われた一言をとても嬉しく思いました。

−講座(その2)3−
レジメは次のようなものでした。

     「授業を通した学級づくりの実際」

1.はじめに
  ○授業と学級づくり
  ○ご褒美

2.朝の会
  ○ウォーミングアップ

3.教科指導の工夫
  ○「集中」「参加」への手立て
  ○発問づくり(資料1)・・・演習1
  ○意欲を高めることと生かすこと
  ○技能の習得

4.日記を通して
  ○変容
  ○一言・・・演習2
  ○書き出し(資料2)

5.評価 
  ○基本的なこと
  ○ほめること(資料3)
  ○のせること(資料4)
  ○本質的なこと

−講座(その2)4−
演習1では「発問づくり」を実際に行いました。その演習プリントは次のようなものです。

演習プリント1

○次の文は「千年の釘にいどむ」の一部です。子どもが文章をよく読まざるを得なくなるような発問を考えてください。

@ところが,古代の人々はそれを成しとげた。奈良には,世界でいちばん古い木造建築がある。法隆寺は千四百年。薬師寺にある三重の塔,東塔が千三百年。コンピュータもブルドーザーもなかった時代に,古代の職人たちは千年たってもびくともしない建物をつくりあげたのだ。

(発問)

A「釘なんて,いつの時代でも同じではないのか。」そう考えるかもしれない。しかし,それはちがう。今の釘の寿命は,せいぜい五十年。それ以上になると,空気や水にふれたところからさびて,くさってしまう。今の日本の木造家屋は,三十年ぐらいで建てかえをすることが多いから,これでもさしつかえない。ところが,千年ももたせる建物には,こういう釘は使えない。

(発問)

B白鷹さんは次に,古代の釘の形に注目した。古代の釘は,よく見ると不思議な形をしている。先からだんだん太くなって,頭の近くになるとまた細くなっている。そして,真ん中から先にかけては,表面がでこぼこしている。どうしてこんな形になっているのだろう。白鷹さんは調べてみて,驚くべきことを発見した。釘と木材の関係だ。

(発問)

C千年も前のかじ職人たちは,歴史に名を残すこともなく去っていった。それでも,すばらしいことをやりとげた。この職人たちに,負けるわけにはいかないのだ。
「千年先のことは,わしにも分からんよ。だけど,自分の作ったこの釘が残っていてほしいなあ。千年先に,もしかじ職人がいて,この釘を見たときに,おお,こいつもやりよるわいと思ってくれたらうれしいね。逆に,ああ千年前のやつは下手くそだと思われるのははずかしい。笑われるのはもっといやだ。これは職人というものの意地だね。」

(発問)


時間を取って,自分だったらどんな発問をするかこのプリントに書いてもらいました。

−講座(その2)5−
発問の最初はできるだけ「そんなの簡単じゃん」と思えるようなものを用意します。しかし,不用意に答えると正解できないものが効果的です。つまり発問のポイント1は「間違いが事前に想定できるもの」だと思っています。そしてポイント2は,答えを聞くと「あーそうかぁ。」と全員が納得できるものです。

−講座(その2)6−
演習プリント1では,各自が自分の考えた発問を出し合った後,私が実際に授業で行った発問を紹介していきました。@の部分では「千年以上経っている建物は?」と聞きました。子どもたちはノートに発問と答えを書いて持って来ますが,残念ながらというか,案の定というか,半分以上の子が不正解となります。(ポイント1「間違いが事前に想定できるもの」)

−講座(その2)7−
@の答えの1つは「法隆寺」ですが,2つ目に「薬師寺」と書いて来る子がいます。ここの文章から考えると「薬師寺」では正解にできません。やはり「東塔」という言葉が入っていなければいけないでしょう。「読む」というよりはさっと見て,思い込みで答えを出してしまう子がいます。ここでしっかり注意して,次の問題に移ります。


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