ベンチレーターにつないで使うスピーキングバルブ

このスピーキングバルブは、カニューレとベンチレーターの管の間に取り付けます。仕組みは同じですが使用する目的が異なります。
ベンチレーターを装着した場合、声が出せるのは空気が送られてくる間です。
次の空気が来るまでの一瞬、声が出せなくなります。
スピーキングバルブを使った場合は、空気が入ってきた時はもちろんのこと次の空気が来るまでの間も声が出せます。


ベンチレーターを使っても声が出せない場合

カニューレにはカフという風船状のものが付いています。
このカフは、空気の漏れ(リーク)や誤飲を防ぐためのもので、空気を入れて膨らまします。
カフを膨らませると気管をふさぐ形になり、誤飲した食べ物や水分が肺に入るのを防ぎます。
また空気が口や鼻、気管切開口から漏れるのを防ぎます。
従ってこの場合は、ベンチレーターから送られてくる空気が声帯まで届かないので、発声できません。
恐らくドクターの大半はカフを膨らませることを選ぶと思います。
発声よりも誤飲や空気の漏れを防ぐことを優先します。
しかし、常に唾液などを誤飲する可能性がある場合を除き、必ずしもカフを膨らませる必要はありません。
(気管切開手術後、出血が収まるまではカフを膨らませる必要はあります。)
食事の時に誤飲が起きる人は、食事中のみカフを膨らませることで誤飲を回避できます。
空気の漏れについては漏れる量を予測して換気量を高めにすることで問題はありません。


・スピーチカニューレを使用している場合の発声,
・スピーチカニューレは、カフを膨らませながら声を出す場合に使います,

カニューレのカフを膨らませると空気はカニューレを通り肺にいき、またカニューレから出て行くため声がでません。
スピーチカニューレの場合(図8)は、管に窓が付いており、窓からも空気が出ます。
カフを膨らませていないのと同じ状態になり、声が出せます。
分泌物が非常に多く、窓から入り込む場合は使用が難しいかもしれません。


        

換気量について

ベンチレーターが一回あたりに送る空気の量が換気量といいます。
ドクターの多くは、換気量を決める際は体重10kg あたり10ml という基準で決めるようです、この基準はベッドの上で安静にし、会話もしない人を想定したものです。
体重が30kg だからといって換気量が300mlでは、車椅子に乗って活動し、発声をすることは難しいと思います。
ベンチレーターを使っていながら呼吸が苦しいという矛盾が起こります。
体重が50kg 台でカフを膨らませずに発声する人は、750ml の換気量が必要な人がいます。
個人差はありますが、多めの換気量が必要です。
まず多めの換気量(500ml 程度)で開始し、様子を見ることが必要だと思います。
本人が体調、呼吸状態からその換気量で十分なのか判断し、それに合わせて換気量を変えることがベストだと思います。
またカフを膨らませている時と膨らませていない時では換気量が違います。
カフを使うことがある場合は、その時々に応じた換気量設定が必要です。


        

発 声 法

ベンチレーターを使用しながら発声する方法は

  1. カフ上側に開口するサイドラインチューブ付カニューレ(Portex社ボーカレイドなど)を使用し、声門へ酸素またはエアを送り込んで発声する方法            
  2. カフのエアを抜くだけの方法            
  3. カフのエアを抜いて一方弁バルブ(Passy-Muir社スピーキングバルブなど)を使用する方法がある(Bが一番効率よく大きい声が出せる)。

@は人工呼吸と関係なく発声できるのだが、酸素配管もしくはコンプレッサーを必要とし在宅向きではない。
 AとBはカニューレのカフエアを抜くか、カフなしカニューレを使用する。
つまりリーク(呼吸回路からのエアもれ)が必ず発生する。
リーク分を見込んで1回換気量を多めに設定すればよいのだが、呼気量や回路内圧でアラーム感知しているベンチレーターは警告音が鳴り続けるのでアラームを鳴りにくくする設定が必要となる。

またバルブを使うと呼気はすべて声門を通るので、声門の開閉がうまくできないと上手に使えない。これはコツなのでその感覚を覚えれば難しいことではなく、装着後すぐに発声できる人も多い。

 しかし発声のためとはいえ、カフのエアを抜くことに抵抗感を覚える医師が多いのも事実である。1回換気量の定量ができないこと、アラームを鳴りにくくすることは、ICUを基準に考えればずいぶん乱暴なことである。
しかし自分の声によるコミュニケーションはそのデメリットを十分に凌駕するのではないだろうか。

いわゆるICUでベンチレータを使っている場合では、基本的に送り込んだ空気が送り込んだ分だけ返ってこない。
つまり洩れていると言う事でその状態でしゃべっていると言う事は、危険であると言う事につながって来てしまう。それは当然のごとく危険なわけはないのですが、実際には問題に成る点もあります。

つまり、送り込んだ空気が必ずしも100%肺に行っているという保障がない。つまり、100%の保障が欲しいために、ICUでカフなしのカニューレを使うことは、日本の医療ではほとんどありません。

この面で、日本が立ち遅れているのは、やはりどうしてもベンチレータがICUから出て行くということが、医師の中でも広まっていない部分だと思います。

今のような会話ができるようなセッティングというのは、先ほどのスピ−キングバルブの話も含めて、できる方とできない方があるのでしょうか。
そのへんの線引きというのは、障害の状態でどのように整理するのでしょうか。

笠井さん

やはり、基本的にはベンチレ−タの仕組み上、送った空気が 100パーセント肺に行って、それが 100パーセント出てくることを確認できてこそ、安全が確保されるという部分があると思います。


 つまり、この人にはこれだけの換気量がなければ呼吸不全に陥るという設定が、医療的に必要な場合は仕方がないと思います。でも、こういう方は当然、ICUで管理されなければならない方です。このようなスピ−キングバルブをつけて在宅に移る方というのは、そういうところを脱した方、つまりある程度安定している方に適用しているのが事実です。


 その場合の設定としては、1回の換気量をふやすということを行います。これは当然のことなのですが、リ−クがある状態でベンチレ−タを使うので、リ−ク分を見越して1回換気量を多めに設定します。そうすると、スピ−キングバルブを使わなくても、送り込んだ空気のリ−クでしゃべることができるので、実際のところスピ−キングバルブは必ず必要なものではありません。むしろ、逆にこれは1方弁なので、問題がある場合はそこで肺の圧力を高めてしまうこともあります。だから、1回の換気量の調整で、バルブがなくてもしゃべることができるというものです。


私の呼吸器の換気量は、カフアップで 500でした。カフダウンにしたときは、ちょっと空気が足りないのではないかと思いました。たくさん洩れているので少しずつ換気量を上げていったら、呼吸も話しもできるようになりました。呼吸も話しもできることは、とてもすばらしい組み合わせです。


 私の国では、呼吸器をつけているのに話せないという人はおりません。C1の方を除いては話しができます。呼吸器に依存している方が声帯に空気を通して話さなければいけないときは、ちょっと間隔をおいてから次の言葉を出します。でも、今の先生のお話しをうかがって、非常によく理解してくださっていることが分かったので、とてもうれしかったです。


 生活の質というのは、機能的に、いろいろな身体的な面での測定をするばかりではなく、コミュニケ−ションがとれて、そこに出かけることができるということなのです。だから、松井先生がおっしゃられたように、ICU以外では、カフ使用はそんなにいいものではないということです。


 私は、サイズ8のトリックインということでやってきましたが、今はサイズ4になりました。つまり、みなさんの親指よりも少し大きいくらいのサイズから、小指くらいのサイズにダウンしてきたので、たくさんの空気が声帯を通ります。だから、医師のみなさんにも、これだけの空気が声帯を通ることによって声が出るということを、理解していただくことが必要だと思っています。つまり医師の方々は、患者さんの生活の質を上げたいという理解は非常にあるのですが、どうすればそれが可能になるかということが、まだ分かっていない方がおられるということです

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