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わたしは神経内科医をもう26,7年遣っています。ALSの研究から始まって、この20年間はALS患者の療養サポート、ケアに関してのことを一生懸命考えてやってきました。17年前から在宅人工呼吸療法を手掛けてきて、大勢の患者さんと接してきた中で、今までやってきたこと、考えてきたこと、わかったことがたくさんありました。ですから今日は、皆さんがALSの説明の本を読んでもあまり書かれてないようなこともお話したいと思います。
公立八鹿病院神経内科部長 近藤清彦先生
わたしは神経内科医をもう26,7年遣っています。ALSの研究から始まって、この20年間はALS患者の療養サポート、ケアに関してのことを一生懸命考えてやってきました。17年前から在宅人工呼吸療法を手掛けてきて、大勢の患者さんと接してきた中で、今までやってきたこと、考えてきたこと、わかったことがたくさんありました。ですから今日は、皆さんがALSの説明の本を読んでもあまり書かれてないようなこともお話したいと思います。
公立八鹿病院神経内科部長 近藤清彦先生
それでは実際に人工呼吸器の装着についていつごろから相談を始めるかということですが、実ははっきりした基準が決まっていなくて、今年神経学会が作りましたガイドラインも、ちょっと歯がゆいぐらいのことしか書いてないのです。だから神経学会の基準というよりは、私が考えている。
ここで注意が必要なのは、炭酸ガス濃度に頼りすぎると、診断を誤ることがあります。
こういう二通りの呼吸不全のタイプがあります。
八鹿病院では40名近い方が、気管切開をされて人工呼吸器を装着しています。発病してから気管切開をするまでの期間ですが、3ヶ月以内、6ヶ月弱、1年、2年、3年以内、4年以内、10年以内、一人の方は13年でした。大体1年から5年の方が多くて、中にはもっと早い方もありますし、平均するとやはり3年弱ぐらいにはなるわけです。従来の3年で呼吸不全といわれているのは間違ってはいないのですが、個人差が大変大きいことを知っておいて頂きたい。
私は肺活量を定期的に測るということが大変大事だと思っているのですけれども、肺活量はグラフで言うと、発病してしばらくは落ちませんが、落ち始める底から破線を引いたように落ちていきますので、80%を切り始めたら1ヶ月に1回ずつ肺活量を測っていただくと非常に大事な目安になります。
声を失うから気管切開をためらうと、近畿ブロック会報に以前投稿されていたことがありました。私の考えでは、気管切開だけでは声を失わないとほぼ言えると思います。ただカニューレの種類によってはっせいのなんいどがかわることがあります。
カニューレを使用しながら発生する方法では、カフのエアを減らして、漏れる空気を利用するだけで話せる方がかなり居られる。それから、スピーキングバルブを使って、呼気を口のほうに流すという方法。それからカニューレのサイドチュ―ブに、水槽に空気を送るポンプを使って空気を流して発声する方法もあります。
ただ喉の筋もいずれは麻痺してきますので、そうなった段階では発声は無理になります。喉の麻痺から発症した場合は声は出にくいのですが、気管切開する直前まで声が出ていた方では、声が出せる可能性は非常に高いと思います。
カニューレの種類ですが、ポーテックス、マリンクロット、アーガイル[シャーウッド]とか、その他にもいくつか種類があります。ポーテックスのタイプはカフが非常にがっちりしていますので、分泌物が下に落ちないというメリットはありますが。発声という面では一番でにくい。カニューレ交換するときに摩擦でitamiがあって入れにくい事も在ります。
こう言ったカニューレの工夫をすることで声が出やすくなります。
もうひとつの目安は、食事が出来る人[嚥下可能]であれば、喉の筋肉はかなり保たれていますので、発声できる可能性はあると思います。
気管切開をして人工呼吸器をつけてから病気がどの様になるかということは余り書いてないと思うのです。3年で呼吸不全に為ると書いてあっても、それから後はどうなるか書いてないし、すべての機能がいきなり低下するように今まで思われていたと思うのです。
この方は喉の麻痺から始まった方です。喉の麻痺から始まった方は声が出にくいわけですが、逆に手の力とか足の力は保たれています。気管切開をしても、人工呼吸器を夜間だけ装着して、昼間は外して廊下を歩く練習が出来ます。
人工呼吸器をつけると重症だと思いすぎて、離床させてはいけない、歩かせてはいけないという思い込みが病院側にもありますが、早期に立位訓練をすれば、むしろ酸素が十分に夜間に取り込めて、昼間は力が出せるということにもなるわけです。
実際にどのくらいの期間歩けたかを、八鹿病院で人工呼吸器を装着した34人について調べました。足の麻痺から始まった方は歩けないのですが、手の麻痺から始まった方や、喉とか呼吸筋の麻痺で始まった方では、かなりの期間歩ける人がいました。5か月、10か月、15か月ですね。この歩行というのは、介助でトイレまで歩行できるというレベルを示しています。こういったことはこれまであまりわかってなかったのですね。
30数名のうち、気管切開をした時点で、歩けた人は65%、食事が飲み込めた人は約60%、会話ができた人も55%、手が上がる、はしが持てる人50%ということです。八鹿病院で気管切開をしたり、人工呼吸器をつけた時点で、大体こういう能力が五、六割は残っておられるわけです。その能力がどうなるかを見ると、6か月、1年、2年、3年と、だんだんと出来る率は減っていきます。これを見ると呼吸器装着後も症状は進むと言える訳ですがその弱くなる面だけを見るのではなく、呼吸器を装着してからも、たとえば歩行は、6か月間に30%の人は歩けたとか、1年たっても2割の人が歩けたとか、そういう一面も見ていくことが大切です。どこから発症したかによりますが、歩けないけれどもしっゃべれる人とか、しゃべれないけれども歩ける人とか。どこかの能力が少なくとも1年から2年ぐらいは残っている。そういうことが大事なことかと思います。
気管切開後に、いろいろ工夫しておしゃべりができた期間です。喉の麻痺から始まった方はしゃべれないのですが、手の麻痺、足の麻痺、呼吸筋の麻痺から始まった方は10か月、20か月と意思疎通ができる会話が可能でした。
カフマシン、別名カフアシストという機器があります。アメリカから入ってきました。日本では1995年に医療機器として認可を受けたばかりです。1998年に福岡県の浅木病院の三好正堂先生が近畿ブロック総会で公演された(会報29号掲載)、そのときにも紹介されました。
三好先生の言われることだから間違いないと思って、病院で1台買ってもらって使い始めてみました。80万円程度から上等なものは定価120万円です。手動式だと50〜60万円です。気管切開していない方はマスクで合わせます。バイパップとよく似ています。マスク式の人工呼吸器で、空気がぐっーと入ってきますが、2秒すると今度は逆に陰圧になります。バキュームになるのですね。陽圧にしていきなり陰圧にすることで、肺の奥の方の痰が口元まで出てきます。吸引が要らないぐらいです。ティッシュで拭けばいいぐらい出てくるのには感激します。
このカフマシンを上手に使うことが、無気肺とか肺炎を予防、治療していくうえで必須になると思います。この機器は病棟に1台は要ると思います。在宅療養では1人に1台必要と私は思うわけですけども、今レンタルすると月3万円以上ですし、保険適応になっていません。患者会でアピールしていただいて、医療保険の対象に入れていただきたいですね。病院でこれを使っても、保険点数にはならないので、まだまだ普及していません。一度使ってみてうまくいかないのでやめたという医療機関も多いのですが、上手に使うととても重宝します。
近藤清彦先生のこのレポートは、ALS患者の生活環境を一転させるようなレポートで、昔ながらの伝説を信じてる医師が多い中、ALS患者に一筋の光が射してきた。このレポートは迷っているALS患者にとっては一番の参考資料に最適だと信じます。
この資料は、ALS患者の気持ちを解ってくれる唯一の先生です。今なを、患者の立場で全国を公演のため、掛け捲っておられます。ALS患者の生活向上に、多大なる貢献なさってお見えになる