「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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孤高に立つ者 (初出 2010.6.5 renewal 2019.9.15)

【補注】
本稿では、けっこう偉そうな主張をしている、と自分でも思う。お恥ずかしい。
この頃、経営支援の仕事をしていて、いろいろと関連本を読みあさっていた。その影響はある。

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もう30年近く前のことになる。 直属の部長が3か月ほど、病気で入院したことがあった。 手術になったが幸いなことに大事に至らず、医者も驚くほどの強靱な体力で、短期間で見事な回復を遂げ、職場に復帰した。
その部長が、退院後、はじめて登庁し、部長室でこんな話をされたことを思い出した。

「入院することになって、あれこれ考える時間を持つことができた。
「つくづく思ったのは、『上に立つ者は孤独だ』ということだ。
「自分は管理職になって、たくさんの判断をしてきた。
「もちろん、判断にあたっては、いろいろな人に相談をする。
「しかし、最終的に決断を下すのは自分だ。
「自分の決断は、ひょっとしたら間違っているかもしれない。
「自分の判断が間違えば、大きな問題に繋がる。
「しかし、何らかの決断を下さないと、ものごとが進まない。
「最終的に、上に立つ者は、たった一人で決断を下さなければならないのだ。
「おかげで、こうして職場復帰できたが、まだ病み上がりなので、休み休み仕事に復帰したい。
「よろしくお願いする。

しかし、その頃、部長室の外では、部長の判断を求める管理職が列をなしていた。

最終判断を下す者は孤独だ。しかも、次から次へとくる相談ごとに対して、テキパキと指示を出さなくてはならない。
だが、ほとんどの物事は、プラス、マイナスの2つの側面を持っている。

かつて東京都は、自らの手で銀行を作った。それが知事の公約だった。 「街の金融機関が困っている中小企業を助けようとしない。ならば、東京都が救いの手を差し伸べよう」
実にわかりやすい政策提言だ。
しかし、庁内にはこれに意義を唱える声が多かった。
「窮状を抱えて行政に頼ってくる企業は、すでに金融機関から見放されている場合が多い。そういう企業に税金を投入するのはリスクが大きすぎる」
実際、そうだった。

同じ頃、融資の借入期間の延長、すなわち“リスケジュール=リスケ”というのも行われるようになった。
これによって救われた企業もある。 しかし、反面、金融機関にリスケを求めるということは「我が社は経済的に厳しい状態です」と宣言するようなものなのだ。
弱点をさらすのも同じだ。だから、「絶対にリスケなんて申請しない」という経営者も多かった。

だとすれば、どのような手順をとって判断を下すのが賢明なのか。
まずは、あまりにも多い情報をどう整理するかから、始めることにしよう。続く→