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根回しのすすめ (初出 2010.4.4 renewal 2019.9.15)
【補注】
「根回しは俺がやっとくから」「○○とすり合わせは終わっているよね」「○○が落としどころってとこか」という言葉は、
私が人事係にいた頃(1984年・昭和58年~1993年・平成5年)の都庁でよく聞かれた言葉である。
鈴木都政の頃は、新しい事業は下から積み上げて形になるものでした。だから、関係部署との根回しなどが必須だった。
したがって、日の目を見るには時間がかかり、外野から見れば「お役所仕事は時間がかかる」ということになる。
その後、青島都政でリセットが行われ、石原都政になると、新しい事業は上から落ちてくるのが普通になった。だから、「根回し」などは意味をなさない。
事業の吟味はスルーされて、どんどん新しい仕事が進むようになる。実現すれば所属部門の手柄となるので、部門間のコミュニケーションは悪化する。
逆に面倒な仕事が来そうな場合は、できるだけ他の部門に引き受けさせるように誘導する。
これは、そんな時代背景の中で書いた提言です。
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最近(※初出は2010年・平成22年)、企業組織に失われつつある言葉がある。
絶滅の危機にある『しごと言葉』は、次の3つ。
しかし、別の解釈をすると、どうだろう。
どうしても実施をしなければならない行為がある。
しかし、それを実施した場合、双方が傷つく。だから、妥協ができず、いつまでたっても決定ができない。
しかし、何らかの意思決定は避けられない――。
そういうときの判断が、組織においては一番難しい。
そういうシチュエーションで、有効になるのが、この3つの言葉だ。
例えば、新しい仕事が企業で発生する。しかし、どこのセクションも皆忙しく、手一杯だ。
それでも、その仕事をどこかにやらせなければならない。
そんなとき、この3つの手法を用いる。
ところが、こうした調整行為を意味する言葉が使われなくなってきている。 つまり、部門間の調整が行われないまま、仕事が進むことが増えている、ということだ。
効率性と引き替えに失われるものも大きい。
3つの言葉と正反対の行為を考えて見るとよくわかる。
「根回しもせず」「すり合わせもなく」「落としどころの模索もされないまま」何かの事業が進めば、しばらくすると、たいがい、大きな問題が起きる。
組織内の反目が更に大きくなることもある。
そして誰が主犯かという犯人捜しが始まる。しかし、犯人捜しの行為からは何の利益も生まない。
そればかりではない。一度そういうことが起これば、組織内に不信感が充満してしまい、新しい事業が生まれなくなる。
現場が事業を産まなくなると、トップダウンしか取るべき手段がなくなる。
たしかに剛腕なトップが毅然とした決定を下した方が、ものごとは早く進むものだ。
そして直下の部下は、ワンマンな社長の威を借りて自分の意思を通す方が、地道に調整するよりよっぽど効率的だ、ということに気づく。
大きな組織では『社長』といっても、システムの一部に過ぎない。
自分の会社だからといって、一人で何でも思いどおりにすることはできない。
天皇機関説というのがあったが、社長機関説というのも成り立つ。つまり、社長といえども、やはり歯車の一つでしかないのだ(大きな歯車ではあるが)。
だから、社長が強力なリーダーシップを発揮しようとするためには、腹心の部下が必要だ。腹心の部下は、やはり自分の言うとおりに動く部下を求める。
こうして、“閉鎖性の高い”企業の意思決定の仕組みが作り出される。
取り巻きの厚い防御網に守られた社長には、現場の声が届かない。
だから、社長は自分の判断で暴走する(ことができる)ようになる。これでは、判断ミスを犯しても、社長本人は気づかない。
続く→