「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:余生の必要経費は早めに計算すべし (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

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人生なかなかうまい具合にはいかないものである。
生活を豊かにする3つの要素――時間、金、やる気―のバランスが、いつもうまくとれない。

若い頃には、時間と意欲は十二分にあった。だが、残念ながら「お金」がなかった。だから、やりたいこともできなかった。
そこそこの歳になって、それなりの経済力が付いたときは、仕事に忙殺されて、何かをやるには時間が足りなかった。ひたすら睡眠時間が欲しかった。
仕事生活のゴールが見えるようになると、時間も経済力もそれなりに余裕ができた。しかし、意欲がまったくわかない。

時間、金、やる気――この三つがすべて揃っていたなら、もっといろいろなことに挑戦できただろうし、自分の人生も今と違ったものになっていただろう。
そんな風に考える人は多いかと思う。

昔読んだ、オー・ヘンリーの短編に「運命の道」というのがあった。
ある若者が、人生に行き詰まって旅に出る。あるところまで行くと、道は分岐点に分かれていた。 そこから、ストーリーは、右の道を選んだ話と、左の道を選んだ話と、思い返して元の道を戻った話とに分かれる。 そして、いずれの結末も、同じように銃で撃たれて死ぬことになる。
オー・ヘンリーの短編といえば、「最後の一葉」や「賢者の贈り物」など、心温まるストーリーが有名だが、 若い頃の自分は、この救いのない話の方が妙に記憶に残った。
そのワケが、今にして思うとよく分かる。

結局、人間は違う人生を生きているように見えても、最終的には“死”という共通の決着に向かって進んでいるのだと、 齢を重ねた最近では実感できるようになった。
若い頃には、時間と意欲は十二分にあった。時間が無尽蔵にあるかのように思えたから、先が見通せず、不安ばかりが大きくなった。
50歳を越えてみると、実際のところ、人生はとても“短い”。あたふたしている間に、終わってしまう。

十数年前から、エクセルを使って、自分の総財産と残りの人生に必要な費用の、バランスシートを作ることを覚えた。
方法は簡単。人生の貸借対照表を作る。そして、取りあえず自分の人生の最終到達点を決める。 54歳の時だ。そのときは、まさか1年半後に都庁を退職するとは思っていなかった。

まず、私は自分の死亡予測年齢を、祖父の死亡時の69歳に置いた。
しかし、何やら余命も伸びているようなので、今のところ、同年代の平均余命から算出した83歳を想定している。
そして、借り方側に、それまでに必要な費用を計上する。
そして貸し方側に、自分の貯金や財産、今後得るであろう給料や退職金、年金などを費用に積んだ。
そのうえで、生涯を見通した経済的余裕がどのくらいかを見る。
結果、バランスがとれる時点(=いつだったら退職してもいいかというポイント)が鮮明になるのだ。

再掲(2019年・令和元年)の時点では、退職金も受け取り、年金も不完全ながら出始めている。その前提で、税金や健康保険料も固まってきているので、 収入面では、かなり正確な金額が計算できるようになった。
実際に表をながめていると、1年経過するごとに、人生の経済的余裕はグッと楽になっていく。
収入は増えないが、残りの人生の期間が短くなっていくので、余命期間にかかる費用がどんどん減っていくからだ。

私は、余裕をもって生活できる経費を、年額350万円に設定した。 1年が経つと、残りの人生に必要な額から350万円が減る。それは、貯金が350万円増えたのと同じだ。
1年生きると、350万円も余生の必要経費は減る。
このように前提変えると、物事の見方が大きく変わる。正月を迎えるたびに、どんどん生活が楽になったような感じになるのだ。 とすれば、これからの自分に一番必要なものは“お金”ではないな、と思った。
そう思ったら、退職したくなった。

【補注】
最近、国が「退職後の余生の生活を維持するにあたって、夫婦2人の家庭で2千万円が不足している」と発表し、物議を起こしている。
しかし、かなり前から「年金だけでは生活できない」ということは、わかっていた。
仲間の役人で、「退職金で年金が出るまでつなぐ」という言葉を口にする人がいるが、退職金は全額「老後資金」に回さないといけない。
さらに、私の退職した翌年に、東京都の退職金テーブルの見直し(大幅削減)が行われた。
本俸の手当化で、退職金がズルズルと削減されてきていたが、それが終わったら、退職金テーブルの見直しが行われると予想していたが、大当たりだった。
私の退職時の退職金は最高の「59.2か月分」(昔の90か月が懐かしい)だったが、今(2019年)は、「43か月分」で頭打ちになっている。 金額では600万円以上の減少だ。とんでもない合理化なんだが、不思議なことに職員から不満の声は出ない。
実は当時、「定年間近の職員が少なかった」からだ。うるさがたの皆さんは「団塊の世代」なので、すでに退職していた。うまい具合にできている。

55歳で退職したので、退職金は1割増しとなったが、非常勤となり給料は激減。 おまけに、年金の制度改革で、公務員の年金は一般サラリーマンとの差が無くなり、しかも「給料減→年金の徴収額減→年金の支給額減」のダブルパンチ。
ひどい有様だが、特段、贅沢をしたいとも思わないので、内部留保を取り崩しながら細々と生活していけば、何とか死ぬまではつなげそうだ。

政府や行政は、かなり能天気に「人生100年時代」なんて言っているけれど、ほんとうに人生100年になったら、大半の国民は飢え死にしていると思う。 続く→