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短気は損気 (初出 2010.3.28 renewal 2019.9.15)
【補注】
私は事例をシナリオ仕立てにすることが多い。
というのも、いろいろと相談を受けてきて、相談に来た人たちの“想像力の欠如”を感じることが多かったからだ。
「そういうこと言ったら、相手だってそう言ってくるでしょ」と説明して、初めて気づく。
今風に言うと「空気読めない」ということになろうか。
世の中を生きていく上では、ストーリーをどう書いていくかというのが、とても大切なのである。
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ある日の夕方、営業のA君は、部長室からB部長に手招きされた。
部屋に通されると、B部長は、あらたまった仕種で、「まぁ、かけたまえ」と、応接ソファーを指さす。
・・・・とまぁ、こんな具合に、A君は「一身上の都合により」という辞表を書き、会社を後にした。
後日、A君は離職票をうけとり、ハローワークへ向かった。
担当は、「あなたの場合は、自己都合退職ということになりますので、失業給付の需給は3ヵ月後になります。」と告げる。
確かに離職票は「労働者の個人的な事情による離職」がチェックされていた。
A君は抗議の電話を職場にかけた。対応したDは冷たく答えた。
「B部長からは何も伺っていませんし、ご自分でお書きになった辞表も『一身上の都合』ですから、会社としては致し方ありません。」
「いったいどこが、『自己都合』なんだ・・・」 A君は、力ない声でつぶやいた。
(補足:本事例はフィクションです)
会社はなぜに「自己都合退職」にこだわるのか。
初出当時は、表面的に「自己都合」であっても、事実関係が明らかになれば「会社都合」にしてもらえることがあった。
ところが、現在は、国が雇用関係の助成金制度を何種類も出している。
そして、そういう助成金を企業が受け取る条件として「会社都合の退職者を出していないこと」が前提とされる場合が多い。
国としては当然だろう。
このため、助成金を受けている企業は、何とかして「自分の意思で退職した」という形にしたいと考える。
また、従業員を解雇する場合には、正当で合理的な理由が必要だということが、これまでの判例で積み上げられている。
理不尽な解雇は「権利の乱用」として無効となる。したがって、解雇が争いの対象となった場合、会社側の主張を通すのは簡単ではない。
退職後の従業員が労働組合に加入して、突然、解雇撤回を要求して団体交渉を申し入れることもありえる
(※この場合、ともかくも話し合いに応じなければ不当労働行為になる。「聴く耳持たない」的対応は、絶対にダメだ)。
加えて、会社都合の解雇では、「解雇予告手当」の支払い義務が生じるうえ、退職金も支給額が増えるなど、会社側の負担が大きい。
しかし、「自分から退職を申し出た」ということになると、労働者側が抗弁することは、極めて難しくなる。
一方、従業員が「不当解雇」「解雇権の濫用」を会社と争うとなると、「職場復帰」が当然の帰結となる。
「不当だから撤回しろ。撤回したからには元に戻せ」と主張しないと、解雇問題は争えない。
しかしながら、争っている当の本人に聞くと「あんな会社、戻りたいはずないじゃないですか!」と言う。
世の中複雑だ。続く→