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休めない代償 (初出 2010.7.13 renewal 2019.9.15)
【補注】
有給休暇のまとめ取りは、今ではかなり周知されているので、昔ほどトラブルになることは多くないと思う。
こういうのは気持ちの問題だ。
あの頃はリストラが多くて、辞めさせられる従業員としては「せめて一太刀」できれば、溜飲が下がる。そういうことで、こんな方法が流行った。
雇用環境が緩和されると、「退職する時にまとめて取らせるから、普段は休まないでくれ」と頼み込む経営者が出るかもしれない。
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昔、企業を退職する従業員が、「退職直前に残った有給休暇をまとめ取りする」という現象が頻発した。
有給休暇は労働者の権利であり、経営者には、その取得を阻止する権限はない。
取得させない権限はないのだが、「業務に支障が生じるので、別の日にしてくれないか」と、期日変更を要請することができる。これを時季変更権という。
ところがだ、退職直前だと、変更先の期日そのものがない。
このため、経営者によって唯一の権利である時季変更権が行使できない。頭のいい労働者がこの原理に気付いた。
だから、退職願と同時に残った有給休暇の取得を申し出ると、経営者に対抗手段がなくなる。
「今月末で退職することにしました。有給休暇が残っているので、明日から職場には来ません」というやつだ。
これを知ると、中小企業のオヤジは「だまし討ちだ」と、激怒する。
従業員は「役所にでも相談してみてください」と言い捨てて、出勤しなくなる。
経営者が公的機関に相談すると、「休暇を取得させる義務」から始まり、
「残った給与は時間外割増を含めて全額支払わなくてはならない」
「急に辞めたからといって損害賠償を請求することは難しい」という、“聞きたくないこと”まで、勢いで説明されてしまう。
「そもそも有給休暇が労働者の権利であるのなら、常日頃から、正々堂々と要求すればいいではないか。
「それを、変更不可能な状況になってから、『まとめ取り』するというのは卑怯だ。
「それに『急に辞める』と言われること自体、会社は迷惑する。
「後任者を決めるのにも時間がかかるし、引き継ぎやら手続やらで時間が必要だから、休暇など取ってもらいたくない。
「何とかならないかと頼んだら、『だったら金銭で解決しましょうか』と言われた。
「休暇を金銭処理することは法律違反なのではないのか。
「退職金の支払いは法的な義務ではない。当社は3年未満で退職するような従業員には退職金を出さないことにしている。
それなのに、これでは退職金が義務付けられているのも同じだ。
「こんなワガママな労働者を役所は放置するのか。
・・・というのが、経営者の憤懣やるかたない言い分だ。
だが、如何ともしがたい。
ついでに説明すると、金銭と交換するのを前提に休暇を取らせないというのは法律違反である。
しかし、結果的に取れなかったため捨ててしまう有給休暇部分については、会社が買い上げても違法性は問われないというのが、
一般的な解釈だ。もちろん会社が法定水準を上回って与えた部分の買い上げも、許される(休暇付与の主旨には反するのだが・・・)。
さて、こうした手管にしばしばはめられると、会社側も勉強するようになる。
逆に、有給休暇を消化してから退職しろと勧告する方法に気付く。
「1か月の猶予を与えるから、退職しなさい。
「これは退職の勧奨だが、解雇予告だと解釈することは、あなたの自由だ。
「有給休暇が残っているだろうから、向こう1か月の間に消化しなさい。残りの出勤日を使って、きちんと業務の引き継ぎをしておくように。
「なお、キミは勤続期間が短いので、退職金は出ない。
「得意先の名刺などは会社の所有物なので必ず返すこと。健康保険の手続もちゃんとしておくように。
と、矢継ぎ早に勧告する。
従業員側には、「解雇権の濫用に当たる退職強要ではないか」と、争う余地が残されている。 しかし、こういう風にポンポンと企業から言い放たれると、「撤回してもらう余地はないな・・・」というような気になる。
先の例と比べると、会社が負担する金銭的コストは、こちらの方が大きい。
しかし、要は“気持ちの問題”だ。「飼い犬に手を噛まれた」といった、後味の悪さを感じることはなくなる。
そして、とどめにこう言う。
「疑問があるんだったら、役所にでも相談してみたらいいよ」(終)