「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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商品にも寿命がある (初出 2010.6.5 renewal 2019.9.15)

【補注】
自分で言うのも何だが「世の中には、誰か(何か)と会話をしたい人がたくさんいるのだ。」という一文は、素晴らしい。
新しい技術が開発されて、その技術を活用してどんな流行が誕生するかを模索することも大切なんだが、 その裏で脈々として変わらない「何か」があることを、 つかみ取ることがとても重要だと思う。

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どんなに売れている商品であっても、いずれ売れなくなる時が来る。 しかし、経営者にとって、自分が手塩にかけて商品は、我が子のようにかわいい。 だから、それに寿命があることを受け入れたくない。このため新製品開発に着手するタイミングを逃す。

商品寿命

「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」という言葉がある。

「プロダクト・アウト」とは、企業が売れると踏んだ商品を、自社の販売・生産計画に基づいて、市場へ投入するマーケティング手法だ。
一方の「マーケット・イン」とは、消費者のニーズを十分にくみ上げて、それを商品化にして市場に出すという考え方である。

製品の出来が良すぎると、経営者は「こんな良い製品が“売れないはずはない”」と信じてしまう。
製品の良し悪しと、売れる売れないは別物だ。 買い手が「良い」と評価する製品が、ほんとうに良い製品で売れる製品なのだが、自社製品を溺愛している経営者はそれに気付かない。

商品の寿命を読むのは難しい。
「たまごっち」の失敗は、まだ記憶に新しい。 デジタルペットの育成ゲームであるたまごっちは、1996年に発売され、あっという間に大ブレイクし、たちまち品不足になる。 しかし、急激にその人気は下火になって、製造元では相当数の在庫を抱えることになった。 現在、その人気は再燃しているようだが、企業は以前の轍を踏まないよう、多岐にわたる手立てを配している。
「たまごっち」がブレイクした背景には、ポケベルの普及がある。 ポケベルは1968年にサービスが開始され、「ポケベルが鳴らなくて」がドラマや楽曲の題名になったのが1991年、ベル友ブームが最高潮に達したのが1996年である。 その後、携帯電話に押され、2007年にサービス終了となった(NTT)。 ポケベルの寿命は40年だったということになる。

インベーダーゲームを作っていた会社の人が飲み屋で話していた。
「ほんとに急に受注が止まったんですよね。でも、ウチは、まだまだ売れるとふんで、部品屋さんにたくさんの注文を出してました。 だから、製品は売れないのに、部品だけはどんどん納品されてきて、在庫の山です。そりゃ、部品屋さんは儲かったでしょうけど、ウチは大損です。 出荷用の段ボールの箱の山に埋もれて、途方に暮れてました。

現代のヒット商品は、ひじょうに短命なことが多い。
あれほどまでにブレイクした商品でも寿命がある。とすれば、一般的な企業が生み出した新製品の寿命が数年であっても不思議はない。 その短い間に、企業は開発経費の回収と、相応の利益をゲットしなければならない。
その旗振りは、経営者が行わなければならない。

どんなの売れている商品にも寿命がある。
スポーツにしてみたって、人の関心は、相撲→プロレス→野球→キックボクシング→ボウリング→テニス→バスケットボール→サッカーと目まぐるしく動いてきた (・・・それぞれ時代にはそれぞれのスポーツ選手を主人公にしたマンガがあったなぁ)。
夢中になっていた頃は、そのスポーツが衰退する日が来るとは、まったく考えなかったが、昨今の状況をみると、どれも永遠に続くという確信は持てない。

企業の目玉商品にしたって、同様だ。永遠に売れ続けるようなものは、ありえない。 だから、売れなくなったときの対策を、あらかじめ織り込んでおかなくてはならない。
ところが、経営者の心情としては、自らの手がけた商品は永遠に売れ続けると信じたい。 寿命の長い商品ほど、売れなくなると「まさか」という気持ちが強く働き、その後の対応が遅れる。

対策は単純だ、予め商品の寿命を想定して、対応策を練っておくこと。
ウォークマンはソニーの目玉商品であり、世界を席巻し、ずっと売れ続けると多くの人が信じた商品だ。 しかし、今、誰もが持っているのは、i-Pod。だからといって、ソニーは倒産したかというと、そうではない。

しかし、中小企業の場合は、そうはいかない。
それゆえ、売上が順調な時期に、新しい目玉を考えていなくてはならない。
実際、中小企業の経営者は「いつも、新しいことを考えている」人らしい。 とはいえ、それが自分の経験則の延長であるのは、前述のとおり危険だ。

自社製品の売上が絶好調だという裏には、「それが売れる理由」があるはずだ。
ある商品が売れた。それに「理由」があるならば、同じ理由で売れる商品もあるはずだ。
それを捜すのが、マーケット・インの手法。
ポケベルは携帯に押されて姿を消したが、ポケベルやたまごっちが当たった背景にある社会的心理が消えたわけではない。 それは、携帯電話はもとより、プレステなどのゲームの隆盛に受け継がれたと言っていい。
最近の、SNSの異常な普及にも繋がっている。

そう、世の中には、誰か(何か)と会話をしたい人がたくさんいるのだ。
誰かと話をしていないと、孤独が満たされない。
それは、50年前も今も同じだ。続く→