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空白の罠 (初出 2010.11.7 renewal 2019.9.15)
【補注】
コンプライアンスがうるさくなった今日では、面接で聞くことができる質問も限定されるようになっている。
応募者が若い人であれば、企業はそのスキルにさほど重点を置いていない。
ともかくは、コミュニケーション能力が第一だ。わかりやすく言い換えれば「同僚とうまくやっていけるかどうか」が最低限求められる。
でも、それは書面ではなかなか把握できない。そこで、何とかして面接で問題点を掘り起こそうとする。
そのキーポイントの一つが、経歴の「空白」である。
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昔は一つの企業に勤めたら、そこで生涯をまっとうするのが良いことだとされた。
だから、会社や仕事を次々と変えながらスキルを磨くこと(=ジョブホッピングという)は、好ましくないと思われていた。
しかし、現在は、アルバイト、派遣、契約社員と、働き方は様々となっている。職場も短期間で変わっていくことがありふれたものになった。
そうなったとき、採用する企業の立場からすると、面接に来た就職希望者がどんな能力をもっているかが、大きな関心事になる。
だから、その実務経験を詳細に記載した記録を添えれば、その人間は採用してもらいやすくなるはずだ。
従業員の雇用は1人あたり2億円の投資だ。これを失敗するわけにはいかない。
とりわけ、「解雇が困難」であることを知っている大企業は慎重になる。
だから、採用面接官の立場では、履歴書やジョブカードを、「就職希望者のウソを見抜くための道具」として使おうということになる。
採用面接の場で、面接官と就職希望者は、初対面だ。面接官も何を聞いていいかわからず、緊張している。
ジョブカードのような資料があれば、質問を組み立てるのには、なかなか便利である。
面接官が一番知りたいのは、採用候補者の「人柄」なのだ。
しかし、うかつな質問をすると人権問題になる。けれど、業務遂行能力を聞く分にはそのような問題は起きない。
「あなたの学歴では、この機械の操作は無理だ」というと角が立つが、
「あなたの経験ではこの機械を操作するのは無理だ」と言えば、すごすごと引き下がるしかない。
面接官がまず気になるのは、採用希望者の経歴に「空き」があるかどうかだ。
学卒後、ある企業に就職し、退職した。そして、次の企業に就職し、退職した。
前職の退職と、次の就職との間に、かなりの期間が開いていたとすると、そこが聞きたくなる。
病気をしていたり、ぶらぶらと過ごしていれば、それでわかる。
事情によっては、期間が開くことはある。しかし、それが1年、2年となると「何かあるな?」という疑問が生じる。
だから、「その間、どんなことをやっていたのですか?」という質問をする。
「もともと最初の仕事は自分に合っていなかった」と答えれば、
「では、なぜそこに○年間もいたのか?」
「どんな仕事がやりたかったのか?」
「次の仕事が希望どおりだったのなら、なぜそこも辞めたのか?」
「弊社があなたの希望に近いと判断した根拠は何か?」
「弊社で長続きする自信はあるのか」と、矢継ぎ早の質問が来る。面接者を追い詰めるのは簡単だ。
とはいえ、面接官が「空き」や「職歴」にこだわるのは、そこに採用希望者の個人的な好き嫌いが色濃く表れるからである。
実のところ、学校を卒業して行く当てもないので「何となく就職してしまった」というのは、現代ではよくある話である。 最初の職場は世の中のことがよくわからないまま、たまたまそこに席を置いただけ。 だから、短期間で転職も不思議ではない。
例えば、デザイン学校を卒業して服飾業界に就職するということは普通だ。
しかし、そこを退職して、2年後に飲食店に勤めたとすれば、なぜ前の世界を捨てたのかが気になるのは当然である。
そして、当該企業が服飾業だとすれば、いったんは捨てた業界になぜ戻ろうとするのか、とても聞きたいところになる。
こういった場合、たいがいは、何となく進学し、何となくその延長で就職したのだが、ひょっとして自分には合っていなかったのではないかという疑問が湧き、
確たる決意もなく退職してしまったが、簡単には就職先も見つからず、アルバイトを転々とし、このままではいけないと思って飲食店に就職したが、
それはそれで大変なことがわかり、やはり前の服飾業が良かったのではないかとの思いが蘇り・・・といった経過をたどっている。
要するに「確たる決意」があって、この会社に就職しようとしているのではないのだ。
そこを、面接官に見破られる。
同一経路でも、こんな説明も可能だ。
デザイン学校を卒業して服飾業界に就職した。
しかし、服飾業界もITによるデザイン作成が当たり前になっていた。
そこで、会社を退職し、あらためてデザイン学校でコンピュータを学び、専用マシンを駆使できるスキルを身につけ、ネット展開の知識を得た。
これをもとに就職しようとしたが、雇用環境が悪くて、これまで違う仕事を続けながら、新たな従業員募集があるのを待っていた。
すらすらとこう説明できれば、面接官としては納得できる。
もちろんウソをつけば、就職後、すぐに発覚してしまう。
虚偽の経歴を申告して就職したのであれば、それは立派な解雇理由になりうる。
とどのつまり、どういう経歴を積んだかは、あまり重要ではない。
企業が知りたいのは、「共に会社を盛り立てていこうという気構えができているかどうか」なのであって、その人間の「人となり」が大切なのだ。
少なくとも20代前半に対しては、即戦力は期待していない。能力はいずれ身についていく。問題は意欲だ。
ただし、人間性重視とはいえ、30歳を超えた人に対しては、企業はやはり「即戦力」を期待する。
だから、どういうふうに、自分のキャリアを積み重ねて行こうと考えているかが重要になる。
そのためには、早いうちに、職業教育を身につけさせなくてはいけない。
そういう機能が、家庭にも学校にも失われてきている。続く→