「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

 INDEX

つまずかない人生:展示会への思い (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。 これも前振り。
これは、品川校、物流、建築(2011.7.29)で使ったもの。物流効率化といえば、自分としては失敗談なんだが。

*******

●物流効率化事業の思い出

2006年、私は商工部というところへ転勤となった。
そこで最大の事業だったのは物流効率化の事業。もともとはCO2削減のために産業労働局も協力できないか、というところから来ている。

物流を効率的にすれば、都内を走るトラックの数も減る。結果としてCO2削減につながるというわけだ。
中小企業が提携して物流効率化につながる提案をしてもらう。優秀賞は2,000万円の補助金をつけるという事業だった。
物流を効率化させることで、企業の省力化を推進し、交通量を減らし、CO2への削減も進める。いいことづくめの事業だった。 ところが、この事業は大失敗だった。
そんないい事業なら、以前にも考えた人がいても不思議はない。 実は、そのとおりだった。その折も失敗だったという。
しかし、人事異動が激しくなり、過去の経験が受け継がれなくなっていた。 情けないことに、事業を始めてしばらくして、業界の関係者から「何でまたやるの。あんな痛い目にあったのに・・・」と聞かされた。

さて、事業を興すということは、何らかの勝算があってのことである。
実施にあたって、私たちも素人なりに、物流効率化の想定案を作った。

(1)同業の中小企業同士による共同配送

同じような商品を輸送する部門を持つ同業種があったとしよう。
消費者の要求は強くなっているので、「配送時刻指定」など、制約が増えていて、逆に積載効率は悪くなっている。 だったら、同業者同士が協力しあって商品を配送したらどうか、という案である。

ところが、中小企業同士は、協力し合って共同配送部門を持とうとしない。 なぜなら、「そんなことをしたら、ライバル会社に、自社の取引先や取引内容がバレバレになってしまう」からだ。
気がついたときには、得意先を共同事業の相手に取られてしまう。共同配送するくらいだったら、3PL(サードパーティロジスティックス)を選択する方がよい、 という話だった。要するに、黒猫や飛脚やペリカンやカンガルーに任せた方が安くあがるということなのだ。
ではなぜ、非効率を承知で自社の配送部門を廃止しないのか。それは、要するに「雇用問題に発展」することを避けるためなんだという。
アスクルというビジネス周りの物流の専門会社がある。ここは、ある文房具メーカーの配送部門が発展して、他社の製品をも扱うようになった例だ。 こういうケースも実際はあるのだが、最初から対等な協力関係はリスクが大きすぎる。

(2)地域による域内共同配送

第二案は、域内の共同配送だ。
当時は駐車違反への取り締まりが急に厳しくなった時期だった。
例えば、商店街のそばに専用の“荷さばき場”を作る。そこで、トラックに乗せてきた荷物を積み替え、地域内に配送する。
実際にそういう仕事をやっている会社はあった。だから、その会社に別の地域でも事業実施をしてもらいたいと話を持ちかけた。
ところが、その会社の会社概要を見てみると、株主にそうそうたる大手宅配業者の名前が並べられている。
要するに、狭い地域で大手が競合するとお互いに効率的ではないので、手打ちをして別会社を作り、 その地域はその会社に任せることで大手はお互いにけんかをしないようにする、という仕組みだ。
こういう企業は、たとえ見た目が中小企業であっても“みなし大企業”という分類になり、都の補助金は交付できない。
それに、過去において域内共同配送の補助事業は国もやっていたが、どれも立ち切れになっていた。 域内といっても、人件費を含め費用は発生する。それを誰が負担するのか。補助金で賄われているうちは何とか維持できるが、その後は誰も費用を負担してくれない。

(3)都内に拠点となる共同倉庫を設置して商品サプライ網を築く

たしかに配送効率は上がる。
ところが、都内は土地代が高いので倉庫を設けても採算が合わないことがわかった。
共同倉庫を作るなら、土地が安くて交通の便がよいところでなくてはならない。
そういう実態がわかったので、私の方から、事業は1年で終了するよう提案した。
6月に応募を開始したが、8月には幕引きがほぼ決まっていた。スタート時点から負け試合だった。
儲けにもならないのに、私が飛び込みセールスで協力を依頼した「物流ウイークリー」の編集長は、 「自分が記事にした事業ですから・・・」と、ことあるごとにPRしてくれた。
本当に申し訳なかった。

誰が考えても「いい話」なのに、誰もこれまでやらなかった。大概、こういう話には落とし穴がある。
これは会社への就職も同じ。

実際に採択された物流効率化案は、九州から魚を生きたまま築地に運ぶためのコンテナ貨物車を作る案と、 高速道路料金の割引額を自動計算するシステム設計の案だった。それはそれで優れたところはあるが、これでは、都内のトラック量を減らすことはできない。

と、まぁ、こんなことばかり話しているとすぐに1時間半が経ってしまうので、前置きはこのくらいにする。 続く→