「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:労働“契約” (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。 ようやく本論に入った。

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本日の受講生のみなさんを見ると、男性も女性もいるし、年齢も様々だ。
社会経験もそれなりに積んできた人も多いかと思う。
正直いって、社会経験を積んだ皆さんに労働法の話をするのは、話しづらい。

お手元の、ポケット労働法のを見てほしい。

有給休暇が書かれている。半年間勤務して8割以上の勤務実績があれば、10日間の有給休暇がもらえる。
年休は、パートタイマーでも取れる。
しかも、年休の日時を指定する権利は労働者にある。

ところが、実査に企業で仕事をしてみて、自由に年休が取れるかというと、それはなかなか難しい。
しかし、私たちの立場では、労働法の中身や労働者の権利を説明しなくてはならないので、 実際に厳しくても「それは権利ですよ」と説明しなくてはならない。

労働者にとっては「労働法」に書かれていることを知るのは大切だ。
しかし、知っていれば自動的に法律が守られるのではない。
いかにしてその中身を実現させるのか、という第二段階のノウハウが必要になる。そのことは、一般的な解説書には書かれていない。
書かれているのは、「権利の内容」と「こういうふうに要求してみましょう」「こうした方が得です」といったレベルであり、 「こういう風に言えば、会社との関係を悪化せずに、権利を実現できますよ」ということは書かれていない。 後々の責任を考えると、軽々しくそういうことは書けないのだ。

今の世の中、終身雇用が壊れて、雇用が断続的になるにつれて、そういうルールも次第に守られなくなってきている。 知識だけでは、問題は解決しない。

さて、最近は「契約労働者」という名前で働く人が増えている。
比較的若い人で、年俸制だったり、1年間の契約更新だったりすることが多い。
しかし、「契約労働者」という言葉は、実はおかしい。

いわゆる正社員もパートタイマーも、口約束で働いているようなアルバイトも、実は、契約に基づいて、働いている「契約労働者」なのだ。
だから、そのうちの特別な範囲を捉えて契約労働者と呼ぶのは、「馬から落ちて落馬した」というような重ね言葉になる。
では、それがなぜ違和感なく社会に通用するかというと、契約労働者以外の人たちが、 「自分は契約に基づいて働いているんだ」という意識がひじょうに薄いからである。

ものを買うとき、売買契約を結ぶが、労働契約もそれと同じである。
売り手と買い手がいて、双方がなっとくずくで契約を結ぶ。結んだ契約はお互いを拘束する。
どちらかが約束を破れば、もう片方は契約を解除することができる。
これが契約というものの原則だ。
その原則が書かれた法律が「民法」という法律になる。

これから就職しようとしている人たちを前にして、退職の話から始めるのは、たいへん失礼だが、話の都合上、退職の話から始めさせていただきたい。
というのも、労働相談に持ち込まれる相談の多くが、「辞める、辞めない」の問題だからだ。

雇用関係が“契約”である以上、労働者と会社とは同等の関係にあるように、見える。

退職と解雇

民法第627条第1項は、こう書かれている。
『当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。 この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。』
一般的に、「会社を辞めるときは2週間前に言っておけ」という話をされることが多いが、これがその根拠である。

もっとも、労働基準法には「強制労働の禁止」が謳われているので、突然辞めても、会社は引き留められない。 とはいえ、民法の規定を守って2週間前に退職届を出しておけば、損害賠償請求もできなくなるという意味で、2週間以上期間をおいて申し出た方がいい。

会社の就業規則には「1か月前には申し出ること」と書かれていることが多い。
もしそうなら、1か月前に申し出るのが無難だろう。「離職票」をもらったりするので、退職してもすぐに会社と縁が切れるわけではない。

ところで、民法627条には「雇用の期間を定めなかった場合は」と書かれている。
つまり、期間の定めのある労働契約、いわゆる有期雇用では、途中で会社を辞めたり、辞めさせたりしないというのが、大原則になる。
期間が定まっている場合も、やむを得ない理由があれば、即時に雇用契約を終了させることもできる(民法第628条)。

『期間の定め』のある場合でも、『やむを得ない』理由があれば辞められる。しかし、たいがいの場合、「やむを得ない」かどうかで、争いになる。
中には「契約期間中に契約解除をする場合は1か月前に申し出る」などの特約規定がある場合があるから、契約書はよく読んでおかなければならない。

期間満了という時点で見てみると、
有期雇用の場合、契約期間の満了時には、両者の約束はいったん白紙に戻る。
雇用を継続するかどうかは、もう一度、当事者の仕切り直しになる。
このときの労働者は、ひじょうに弱い立場に立たされる。
そこでトラブルが生じる。

ところで、労働者が強制労働させられないのと同じように、会社にも「解雇権」という権利がある。

しかし、日本の会社の場合、従業員の解雇はかなりの制約を受けている。簡単には辞めさせられない。
だから、会社は、労働者側から「辞める」と言わせるように働きかける。
いったん退職届を出してしまうと、それを覆すのは、ひじょうに難しくなる。
だから、私たちは「退職届を出す前に相談に来てほしい」と言っている。続く→