「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:バランス (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。 ようやく本論に入った。

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労働関係の法律には、いろいろなものがある。 こうした法律が、労働者と経営者との力の差を埋めている。
一番有名なのは、労働基準法。
お手元の「ポケット労働法」は、主に労働基準法について書かれている。
労働基準法は、働く上での最低基準を示したもの、違反した場合の罰則もある。

先に述べた強制労働が一番重い罰則で「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金(117条)」とされている。

その他、
6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(119条)となるのが、労働者の権利への直接的な妨害。
・解雇予告(手当)なしの解雇
・週1回(4週に4回)の休日を与えない
・割増賃金を支払わない
・有給休暇を与えない
・産前産後休暇を認めない など

30万円以下の罰金(120条)になるのが、手順に関する不備。
・採用に当たって労働条件を明示しない
・就業規則の作成にあたり、労働者の意見を聞かない
・変形労働時間の協定を行政機関に届け出ない など

罰則規定まであるにもかかわらず、これらの法律を守らない会社が後を絶たない。

つまり、法律はあっただけでは意味がなく、それをいかに守らせるか、という手順がひひょうに重要だということになる。
その社会的な仕組みが、近年、ひじょうに弱くなっているように思える。

数ある労働法規の中で、最近できたのが労働契約法だ。
この法律には罰則規定がない。

労働契約法第16条には、こう書かれている。
『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』

それだけ読むと、たいへん頼りがいのありそうな法律だ。
しかし、労働者が「解雇に合理性がない」と訴えれば、会社は「解雇のもっともらしい理由」を考え出して 「社会通念上相当である」と主張することになる。

双方いずれにも『言い分』というのがあるのだ。
最近、企業は、労働者がきちんと仕事をしていなくても、いちいち注意することを控える傾向にある。「人を育てる」という意義を見失っているからだ。
労働者の方も、それを「うざい」と感じて、忌避する。労働者は、職場で労働法が守られていなくても、法律上の権利を主張したりしないで我慢して働いている。
こういった社会風土が、労使のトラブルの根底にある。

そういった状況で、仕事上で何か問題が起こったとき、急に会社はその原因が労働者にあると主張する。 いざ、となると、いろいろな主張がゾロゾロと出てくる。
労働者は、突然権利意識に目覚めて、会社の待遇を批判し始める。
こうなると、正論と正論のぶつかり合い→感情のもつれに→やがて解雇問題に発展する。

白黒つけるのは、最終的には裁判所だが、お金とひまのない労働者にとっては、裁判を勝ち抜くのは一苦労だ。

労働問題の解決のためには、
まず、法律の内容を知ってもらうことが大前提になるが、それだけでは不十分。

いかにして、法律の内容を実現するかというノウハウが必要になってくる。
前述のように、そのことについて「解説書」にはほとんど書かれていない。

「会社が有給休暇を取らせてくれません。どうしたらいいでしょう?」という質問に対する答えは一つしかない。
「それは法律違反です。法律では有給休暇を取らせなければならないことになっています。 時季変更権を行使しないなら、会社は従業員に有給休暇を取らせる義務があります。 だから、取ってしまえばいいのです・・・」
そういう答えを鵜呑みにして有給休暇の権利行使を行った従業員に対し、その後のサポートができるだけの自信のある相談担当者は、 どのくらいいるだろうか・・・。

その結果、有給休暇)は退職時にまとめて取得する(???)という、傾向が生じた。

退職時に年次有給休暇を取得申請する。会社は時季変更権を行使できない。だから、取らせるしかない。
会社の意識としては「従業員を休ませて、また元気に働いてもらうために有給休暇があるはず」と考えている。 だから、「行きがけの駄賃を要求するなど卑怯千万だ」という。
経営者は有給=賃金=出費、と考える。だから、収益につながらない出費はしたくないのだ。

それを、私たちが「気持ちは分かるが・・・」となだめている。 続く→