「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:有期雇用 (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。

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今、企業会社では、伝統的な日本の雇用慣行の崩壊が起こっている。

雇用形態が多様化した。働き方の違いによって、発生する問題も異なってくる。
次の表は、それをごく一般的に分類したものだ。

  期間の定めのない雇用 有期雇用
仕事を命ずる人
=雇用主
いわゆる「正社員」 パートタイマーの多く
仕事を命ずる人
≠雇用主
特定派遣
(【補注】特定派遣は2018年に廃止された)
登録型派遣

が、もちろん例外はある。名称にはこだわらない方がよい。
アルバイトと呼ばれる働き方がある。「暇だったら、ちょっと働いてみないか?」と呼ばれて働く。これは、意外にも「期間の定めのない正社員」に近い。
有期雇用でないパートもいるし、.「フルタイムのパート」なんていう、ワケの分からない雇用もある。

「偽装請負」というのが一時問題視された。請負だと労働法の保護を受けられなくなる。それこそ、いつ仕事が切れるかわからない。 だったら、まだ法の傘の下にある「派遣」の方が良いだろうと、国は製造業の派遣を許可した。
しかし、皮肉にもリーマンショックが起こり、製造業分野から派遣社員が大挙して排出された。 年を越せない人が退去して東京に集まり、派遣村のようなものができた。
このときは、派遣という働き方そのものが悪いことだと言われた。

「契約社員」という形態が広まっている。しかし、契約社員とは何かという明確な定義はない。 だから、その会社が「契約社員」と呼んでいるのが、契約社員ということになる。
一般的には若い年齢層に多く、1年更新、年俸制で、成果主義ないしは実績給であることが多い。 契約社員も正社員の一種であるはずなのだが、「優秀な者から正社員に組み入れる」なんて決まりがあったりする。

そのほかにも、働き方はいろいろある。
従業員なのか、委託・請負なのか、はっきりしないものも多い。

口約束のアルバイト
ホステス・モデル・芸能人
代理店契約
必要の都度招集されるテレビスタッフ
フリージャーナリスト
トラック持ち込みの運輸会社社員

あるテレビ局のアナウンサーが別のテレビ局の顔になった。これは、正社員を退職してフリーになり、業務請負をするようになったからだ。 ギャラは高額になるが、視聴率を上げられなければ契約打ち切りになる。

私の友人は、広告代理店の個人事業主だが、ある事務機器メーカーに自分の机がある。 そしてそのメーカーの名刺を使い、その会社の社員としてPR関係を担当させられている。 会社にも本人にも不満がないので、そういう請負関係が続いている。

営業職の保険外交員の場合、成績に応じて、以下のように身分が切り替わる場合がある。

(1)委任契約:初期の研修期間などの扱いで、試用期間的な取扱いとなるが、正社員ではない。
   ▼
(2)労働契約:本採用となり、営業職に編入される。労働者としての保護を受ける。
   ▼
(3)委任契約(外務嘱託):基準となる勤務実績を果たせなかった営業職の身分を外務嘱託に切り替わる。 外務嘱託はあらかじめ定められた期間内に一定の成績を上げなければ、契約解除される。

この働き方は裁判(第一生命保険事件 東京地検 h12.2.25)になったが、 裁判所は、「あらかじめ」そのような移行条件を定めておき、これを契約書に盛り込んであることから包括的合意が成立していたので、 全体が一つの大きな契約だったのだとして、このような移行を認めた。

かつて、パートタイマーという働き方が広まったときに、私たちは「パートの労働問題」というものに注目した。 しかし、パートという短時間労働を求める人も多かった。だから、そういう働き方も一般的になった。

かつて、派遣労働という働き方が広まったとき、私たちは「派遣労働者の労働問題」というものに注目した。 しかし、派遣で働くことが、「働きたいとき思いっきり働き、自由時間を作って海外旅行」 「いろいろな企業を見聞して、社会勉強」といったイメージが受け入れられて、派遣労働がどんどん広まった。

派遣労働者の給料がどれくらいかというと、平成22年度の厚生労働省の調査(労働者派遣事業の平成22年度事業報告)では、 登録型の事務用機器操作が日額1万0,607円である。時給にすれば、1,325円。そこそこの額になる。
もちろん派遣会社の取り分もある.。受け入れた会社は派遣会社に、事務機器操作の派遣社員1人につき1日1万4,835円払っている。 差額の4千円が派遣会社の取り分になる。

ところが派遣労働というのは、必ず仕事を紹介してもらえるとは限らない。
仕事と仕事の間にインターバルが生じる。その期間の長さによって、年収は大きく変わる。

そういう不安定な状況だから、国では3年以上勤める派遣労働者は、正社員に取り立てるように会社に働きかけた。 ところが、その年数が来るのとほぼ同時に、リーマンショックが起き、景気が落ち込み、製造業中心に派遣労働者が大幅に整理された。
結局のところ、会社が派遣労働者を雇うのは、いざというとき切りやすいからなのだ。
会社も優秀な派遣社員には長く勤めてもらいたい。だが、正社員にしてまで雇おうとは思わない。

最初に派遣が認められたのが26業務だったが、なぜ、この業種が選ばれたのか。
正規職員の職域にまで、派遣が普及しないようにしたためだ。この範囲ならば、派遣を認めても正社員の雇用には影響しないとの判断があった。

では、そのような派遣労働が広まってしまったのはなぜかというと、 たしかに労働力の需給を柔軟に調整したいという会社側の必要性もあったのだが、その一方で、労働者側もそういう働き方を望んだからだ。
終身雇用の崩壊も、同じ道をたどっている。

いろいろ見てくると、「有期雇用」という決まりがあって、多くの問題は、ここから起こっている

有期雇用の原則その1=契約期間中は、解雇も退職もできない。 有期雇用の途中解雇だと、労働者は残りの賃金全額を請求できる。

だが、
有期雇用の原則その2=契約の切り替え時には、労働契約は、いったん白紙の状況に戻る。
このため、労働者は強い自己主張ができない。
「そこまで言うんだった、辞めてもいいんだよ・・・」
「給料を下げてもよければ、契約更新するけど・・・」―これを変更解約告知という。

なお、有期雇用でも更新が続けば「事実上、期間の定めの無い雇用」とみなされることも、覚えておいた方がいい。
有期雇用についても様々な判例があるが、総じて言うなら、有期雇用の労働者を守るのではなく、 「もはや有期雇用と呼べないほどに正社員化している」と位置づけて、労働者を守っているのである。

だから、働くときは最初から正社員の方がいい。
しかし、そんなことを言っていると、勤め先が見つからない世の中になってしまった。
(【補注】初出は2011年・平成23年なので、最近の「人手不足」とは、かなり世の中が違っている) 続く→