「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:会社側の悩み (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。

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実は、現在の風潮に会社側も悩んでいる

悩みその1:従業員が定着しない

昔は、終身雇用が良いことだという考え方があった。
会社=自分の棲む世界
しかし、今では
会社=収入を得る手段

だから、3年くらいで辞めていく従業員が多い。
1人の社員を採用するためには、費用がかかる~求人広告・面接の手間
1人の社員を教育するためには、費用がかかる~教育担当者の手間・給与
1人の社員が給与以上の収益を会社にもたらすには時間がかかる~3年くらいはマイナスか?
だから、採用してもすぐに辞められるのでは、会社は採算が取れない
小さな会社は、経営の先行きが見えにくくなっているので、多少忙しくても、募集をかけたりしない。 今の従業員だけで行けるところまで行ければいいというのが本音になっている。

いずれにせよ、終身雇用というものが名実ともに崩れてしまった。
仮に、私が終身雇用職場の人事担当だとして、新規採用者の配属を決めるとすれば、 最初は、他の従業員があまりやりたがらない仕事に、その新採をつけ、適性を見る。
でも、そのままでは、がまんできなくなって爆発してしまうので、その寸前に、もう少しいい仕事に異動させる。
勤務年数が増えると、たとえば、その人を「主任」とか「チーフ」とかに昇格させるときがくると、 また従業員を人のやりたがらない仕事に戻す。 そして、少しずつ、希望を叶えていく、そういったことを繰り返し、キャリアを積ませる工夫をする。
終身雇用・年功序列が徹底していればこそ、そういう異動が可能だった。

しかし、今の時代、新規採用者が、いつまで勤めてくれるかわからない。
だから、取りあえず席の空いているところにつけて、様子をみる。
人を育てるという観点から従業員管理ができていない。だから、短期間で辞めていく。
短期間で辞められるから、人材育成に手間をかけられない。堂々巡りになる。

なでしこJAPANの活躍から私たちはひとつの教訓を思い出した。
“つなぐ”技術こそ、我が国製造業の真価であることだ。

トヨタのカンバン方式は、不良在庫を持たないことばかりが有名だが、ここで大切なのは前行程と後工程の関係を重視していることだ。 このため、「後工程は前工程のお客様」という原則がある。
トヨタや花王では、『後工程は前工程のお客様』と認識されているから、 『後工程は前工程に文句を言うのが仕事』だと理解されている。 ・・・一方、現場力の弱い企業では、ものごとが決まるまでは押し黙っているくせに、決定され実行される段階になると、 『俺は反対だった』と言い出す人が出てくる。」(出所:現場力を鍛える「強い現場」をつくる7つの条件 遠藤 功 東洋経済新報社)

職場の人間関係が希薄になると、つなぎの技術も落ちていく。

悩みその2:最近の若い人の価値観~社長の価値観と相容れない

周囲の従業員とうまくやっていけない新採がいる。

社長は必ずしも労務管理の専門家ではない。
特に創業者は、機能まで営業や研究開発の第一線で活躍していた人たちだ。
自分の仕事を肩代わりしてもらいたいがゆえ、社員を採用する。
ところが、社員が思うような働きをしないと、社員を採用したが故に仕事が増える。
社長自らが営業先に行き、顧客の要望をくみ上げて、社内で製品化させている企業というのは、わりと多い。
そういうIT企業の社長と話をする機会があった。 「このままでは、会社は社長の代で終わりになりませんか?」と聞くと、 「以前、社員にやらせたら、やっぱりダメなんですよね。顧客のニーズをきちんと把握できるのは、私だけなんです・・・」という、お話だった。

世代間の意見対立は、昔からあった。新採の呼称~新人類・宇宙人と変わっていったが、「よくわからない連中」という意味では共通していた。
最近では、ゆとり世代の弊害なのか、自分の生活を最優先させる人が多い。

行き着けの阿佐ヶ谷の焼き鳥屋の店長の話だ。その店では、ジャズの演奏などをやっていて、近所でも評判になっている。
従業員を募集すると、何人も応募がある。しかし、日本人の青年は決まって、「バンドの練習があるから水曜と金曜は残業できません」てなことを言うらしい。
マスターは、「無理して来てくれなくていいよ」と、あしらう。

ひょっとしたら、自分と周囲の人との係わり合い方が昔と違っているのかもしれない。
「社会関係の中で生きていくノウハウ」が、かなり低下しているのではないか。
「自分はこう思っているのだけれど、それをストレートに出したら、みんなはどう思うだろうか」というワンクッションがなくなった。
周りに迷惑を掛けまくっても気づかずにいられる。
そして、突然切れる。
会社側は、そういう人がたくさん増えたことを知っている。
だから、有期雇用にして、様子をみているのだ、ともいえるのである。

そして、大企業は、経験者採用のメリットに気づいた。 社会人としてもマナーをマスターしてから、採用しようというのだ。これは、中小企業との人材確保競合に繋がる。

その結果、中小企業には、後継者がいない。
会社の将来像が描けない。だから、若い人を採用できないし、自分の子供に会社を継がせることにも躊躇する。
多くの経営者は、自分の代で廃業しようと考えている。

逆に、「辞めたいのに、解雇すると言われるまで辞めない」という人もいる。

説明したとおり、自己都合退職だと、労働者の権利は大幅に減るのは事実。
いろんな本にもそう書いてある。しかしそれが呪縛となって、「本当は辞めたい。だけど、損になるから辞めると言えない」と、いう気持ちから逃れられず、 あくまで会社と対立する。
ある面、いたずらに問題を引き延ばすことになりがち。そして、会社側の「いじめ」を誘発する。
ごたごたを嫌がって「会社が解雇を撤回する」ということもありえるのだ。そうしたら、どうするのだろうか。

人を雇う側も勉強しているので、最近では労基法20条に従って「30日前の解雇予告」をする会社も多くなったようだ。
「あなたを解雇する。理由は書面で提示する。急に職を失うのでは生活も困るだろう。1か月間の余裕を与えるから、その間に再就職先を探しなさい。 これは解雇の予告と理解してかまわない。有給休暇はその間に消化するように。 会社は後日、余った休暇を買い上げたりしないから。保険証と顧客先の名刺はきちんと返却すること。」
理路整然と申し下す経営者に対抗するためには「解雇」そのものの「合理性」を争うしかない。 続く→