「しごと」と「労働」に関するよもやま話(renewal)

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つまずかない人生:相談先 (初出 2011.8.7 renewal 2019.9.15)

【補注】
「社会科」の講義ノート続き。

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RPG(ロールプレーイングゲーム)で育ったせいか、最近の相談者には「どこに頼んだら、一番強力なんですか」と聞く人がいる。
それは問題の種類によって、異なる。
どこに相談したらいいか。それぞれの相談先の特性を把握しておくことが、効率的なトラブル解決につながることになる。
その前に、法律そのものの実効性はどのようなものがあるか、知っておく必要があるだろう。

個人的な見解だが、法律の決めごとはこんな種類に分かれる。

相談先

法律には、図に示したような種類があり、見て分かるように、会社が罰則付きの禁止規定がある法律に抵触したときが、労働者の立場がもっとも強くなる。

そのときは、権限を有する所管官庁に申し出るのがいちばん手っ取り早い

<労働基準監督署>

明らかな法律違反なら効果大。上記、「罰則あり-ただちに罰則」が該当。
文字通り、労働基準法などの法規が守られているかどうかを監督する役所。 「署」とあるのは、警察署・消防署などと同様に、それなりの権限をもっていることの現れ。
だから、「明らかな賃金不払い」などは証拠を添えて労働基準監督署に申し立てるのが早道になる。

労働基準監督官は司法警察員であるから、労働者から告訴、告発を受けたときはその調書を作る義務と書類、証拠を検察官に送付する義務が負わされている。

労基署に対して労働基準法違反を申告する場合は、文書による“申告”を行うことを薦める。この場合は、相談ではなく「申告します」という。
労働安全衛生法違反などの場合、送検されることもある。

権力機関であるので、法律違反かどうかが取扱いのポイントとなる。
賃金未払いがあり、その額を立証する証拠書類などが整っている場合や、会社の就業規則に明白な法律違反がある場合などは、労基署がもっとも効果的。
逆に、賞与・退職金など法律の決めがない分野、口約束だけのもめ事・感情的なトラブルなどは、取り上げてもらえないことが、ある。
「上司からいじめを受けている」などは、監督署が取り扱う案件ではなく、東京都の相談センターか、東京労働局の個別紛争処理の対象になる。
なお、労働災害や労働安全衛生に関する相談事は、労基署がもっぱら扱っている。

その反面、「慰謝料」までほしいというと、「それなら、裁判所に行け」といわれる。

<都の労働相談情報センター>

権限はないが間口は広い。そのわりには、年間5万件を超える労働相談を受けている。
権限はないがその代わりに、守備範囲というものもない。権限を持たないため、解決まで時間がかかることがある。
初期の段階で、気軽に相談してもらうべきところだ。あちこちの相談窓口をぐるぐる回って、最後に私たちのところに来る人も少なくないが、 そのときだと、残念ながらできることはごくごく限られている。
労働相談情報センターは、労使の間に入って紛争の調整をすることもある。
サービス機関なので、どちらか一方から拒否されると、それ以上の介入はできないが、双方がトラブルの解決を望んでいる場合は有効である。

<東京労働局(国)>

国も、法律違反以外の労使紛争を取り扱ってくれている。
とくに、雇用均等室は、セクハラや男女平等などのトラブルの相談に乗ってくれる。

<弁護士>

依頼料が負担できれば代理になってくれる。
依頼者の代理人として動くことができる。とれも楽だ。
だから、弁護士に頼むときは、洗いざらいすべて事実を話してほしい。
慰謝料がらみの問題、典型的には弁護士が取り扱う案件になるが、その場合は裁判になり、途中で和解(話し合い解決)になる場合が多い。
相談だけならそう多額の費用はかからない(30分5000円程度~)が、実際の裁判に移行するとなると、かなりの費用を覚悟しなければならなる。
弁護士を使うのだから、その謝礼を払っても元が取れる賠償を得られなければならない。
セクハラなら、弁護士は水面下で交渉してくれる。 セクハラなど、自分も相手も会社も、名前を表に出したくないと思っている案件では、弁護士を代理人に立てる方が、いい。
会社や本人の名前が公表されないと、慰謝料も一桁上がるという(あくまでもウワサだ)。

決まった金額はないのだが、
日弁連の調査で、「10年間勤務した労働者が解雇無効を訴え、退職金・解決金あわせて400万円の案件だと、いくらで請け負うか」と弁護士に質問したところ、 着手金は20万円から30万円、報酬金は30万円から50万円と答えた弁護士が多い。
わかりやすくいうと、クライアントが400万円くらい取れそうな解雇問題だと、20~30万円くらいの着手金で受けてくれるということだ。
お金が取れそうな案件でないと、弁護士は費用だおれとなる。
くどいようだが、弁護士に頼む以上、勝つ見込みが必須だ。 さらに、弁護士費用を上回る金銭的な賠償が必要だ。 勝っても負けても、弁護士費用はかかる。「行列ができる」事務所でも、当然、費用請求は行う。

<合同労組・ユニオン>

1人でも入れるところがある。
職場内で労使問題が起こったとき、会社に労働組合があるならば、まずそこに相談する。
労働組合がなくても、同じ境遇にある社員が2人いれば、新たに組合を結成することができる。
会社が労働組合からの交渉要求を、合理的な理由なく拒めば、「不当労働行為(労組法第7条)」となり、労働委員会に訴えることも可能。
また、「合同労組」や「ユニオン」「個人組合」などと呼ばれる、地域や職域で結成された横断的な労働組合があり、 一般の人に対しても門戸を開いている(こうしたキーワードを使ってネットで探すと、情報を得られる)。
これらの組合に加入して、組合員として会社と交渉することも可能。
労働組合も、活動のための費用は必要だ。だから、組合費などを支払わねばならない。慈善事業とは違う。 当たり前といえば、当たり前なんだが・・・・。

蛇足だが、仕事柄、「どの労働組合に加入したらいいか。どのようなタイプの合同労組なのか」、という質問をうけるときがある。 が、こういったご質問には答えられる立場にない。また、答えるだけのデータも持ち合わせていない。

<法テラス(日本司法支援センター)>

法律全般の相談先。新しくできた法律関係の総合相談窓口。
所得の低い層の相談を、無料で受けてくれる。
その他、弁護士会・社労士会なども相談窓口を設けている。調べてみる価値はある。

<裁判所>

労働審判制度、少額訴訟などもある。
簡易裁判所では民事調停の制度があり、話し合いによる問題解決を労使双方求める場合は、裁判所が第三者の立場で調停を試みる。
賃金未払いなどの場合は、支払督促や少額訴訟などの手だてがある。
裁判所は、訴えた人の主張が正しいと、その人を勝たせる。しかし、慰謝料などは大幅に減額することがある。 要するに、弁護士代を払ったらほとんど手元に残らない額でも、「でも、勝ったんだから気が済んだでしょ」という話だ。
なお、問題解決が司法の手に移された後は、行政機関の側は動けなくなるので、予めご了解願いたい。

そのほか、分野ごとの専門窓口がある。

<ハローワーク>

失業給付と就職あっせん。就職相談もできる。

<東京しごとセンター>

キャリアカウンセリングのサービスもある。

<年金事務所>

年金と健康保険に関しては、ここ。

しかし、どこに相談しようとも、主体となって動くのは「自分」。
RPGで育ってきた人は、「自分は陰に隠れたままで、会社を何とかできないか」と、都合よく主張するだろうが、それは無理。 続く→