gosei_title

 INDEX

ブラック企業がなくならない

(初出 2013.7.29 renewal 2019.9.20)

日本は、「過労死が発生するほど仕事がたくさんある国」であり、「自殺者が出るほど就職先が少ない国」になっていると、 海外の識者から批判されているという。
(【補注】初出は2013年なのでこうなるが、現在2019年、日本の雇用事情はきわめて良い。今のところだが)

最近では「ブラック企業」という言葉も流行っている。きちんとした定義はないようだが、「低賃金で長時間労働」というのが共通項のようだ。

ところでだ。
1日7.5時間、月21日働くとすると、月間労働時間はおおよそ158時間。
仮に最低賃金を1,013円/時間(r1.10.1の東京都基準)とすると、最低賃金相当の月給はおおよそ16万円。
次に、残業代を含む月給を設定し、これを23万円とする。
最低賃金との差は7万円。
休日・深夜の残業代、及び各月の60時間超部分は別枠で出すという仕組みにして、2割5分増の残業代を支払うとすると、
7万円/(1,013円×1.25)=56時間
つまり、こうすると月56時間までの残業代は払わなくてすむ。

こういうのを残業代組込型の労働契約とでもいうのだろうか?(【補注】「固定残業制」という言葉で定着したようだ)
これは、これで合法。最低賃金法にも、労働基準法にも抵触しない。 (※ ただし、こういうシステムで給料が決まるということを、採用前によく説明し、合意を得ておくことが不可欠である。)
合法ならホワイト企業でいいはずだが、今、世の中では、こういう会社も「ブラック企業」と呼ぶ。
こんな会社で働きたいと思うか?

さて、時給1,500円で働く、上記と同じ労働時間だとすれば、
1,500円×158時間=23万7千円。こっちの方が給料は高い。
ところで、この企業では残業代が出ないとする。となれば、明らかに違法だ。
こういう企業も少なからずある。正真正銘の「ブラック企業」になる。

月の手取り額は、2社ともほぼ同額だ。
同じ賃金額でも、運用次第では、法律から見てホワイトにもブラックにもなる。
しかし、法的ブラック側だと、違法だから争う余地が出る。
実際、残業手当が全額出ない中小企業(大企業もだが)は、たくさんあるだろう。
では、こういう企業で働く気は起るか?

さらに、もう一つ条件を加えてみよう。
あなたは、失業生活に入って、もうだいぶ時間が経つ。
雇用保険の給付期間ももう切れようとしている。
採用面接もたくさん受けたが、ことごとく落ちた。
このままでは収入ゼロになって、生活が行き詰る。
その前提で考えたとき、上記2社が採用すると言ってきたら、こういう企業で働こうと思うか?

低賃金・長時間労働を強いる会社を「ブラック企業」と呼んで批判することは簡単だ。
しかし、一番問題なのは「そういう会社でも就職しなければならない状況にある」ということ。
マスコミがいくら批判しようと、そこで働く人がいる限り、ブラック企業はなくならない。
「もっと労働条件を良くしないと労働力が確保できない」、ということになれば、ブラック企業はなくなる。
(【補注】雇用環境が良くなってもブラック企業はなくならなかった。私はまだ別の要素があると考えている。 とはいえ、「人が雇えない」現状では、ブラック企業はなかなか維持できなくなっている、はずだ)

つまり、産業を振興し、雇用の場を広げることが、労働条件改善にとって、とても重要ということになる。
しかし、そういう点を指摘する識者は、あまり多くない。 むしろ、「企業にばかり金を流すな」と非難する声の方が大きい。
(【補注】雇用環境改善の面について言うなれば、現政権の功績だと私は認めている。今のところは、だが)


ところで、雇用の場が狭くなってしまったのには、いくつかの理由がある。
その一つが、「産業の空洞化」だ。

“失われた20年”の間に、大手企業は次々と生産拠点を海外に移した。
その下請けだった中堅企業も、無理をして海外生産を進めた。
企業の投資は国外で行われ、雇用も現地に創出された。

なぜ、企業が海外に進出したかというと、これにもいくつかの理由がある。
その一つは、「相対的に日本の労働力が割高」というところにある。

ところで、近年、最低賃金額は、かなりのスピードで上がってきた。
その理由は、「生活保護に比べて相対的に低く、これでは働く意欲が生まれない」というところにある。
生活保護の水準を下げることもできるのだが、実際にはギリギリで生きていけるレベルだから、そうもいかない。
(【補注】現実には、生活保護の水準も下げられている、という)

最低賃金を上げれば、連動して国内の賃金水準は高まるだろう。
(【補注】全述のように、どうも実在賃金が最低賃金に張り付いてきているようだ)
そうなると、海外に進出する企業が増え、とすれば、雇用の場は狭まり、ブラック企業は揺るがない。
(【補注】ほかの国でも最低賃金を上げすぎてしまって、経済運営が難しくなっているところもあるようだが・・・)

あゎゎ、もう、どうどうめぐりだ。

*******

【補注】
この項、補注多いなぁ。わずか6年の差で、かなり状況は変わってきている。
現政権は「デフレ脱却」を旗印にしてきた(最近、この旗はあまり見なくなったけど)。
ここからすれば、物価は上がり、連動して賃金の上昇が誘導されて当然だ。結果として、国の借金は縮小し、増税もできる、税収も増える。はず。
しかし、思ったほど物価は上がっていない。
賃金も最低賃金は上がったが、実際の賃金がこれに張り付くようになってしまった(最低賃金が意味を持つようになったのは結構なことだが)。
この先、どうなるのか? 私にも想像がつかない。
次に改訂する際に、「やっぱり私の予想どおりだった」と自慢したいのだが、なんともいえない。