gosei_title

 INDEX

通勤手当の支給が遠距離通勤の原因に

(初出 2013.8.17 renewal 2019.9.20)

「従業員には通勤手当を出さなければならない」と、法律には書いていない。
事実、派遣労働の場合、通勤手当込みで給料が決まっている場合が多いだろう。計算が面倒だからだ。

しかし、正社員の場合、通勤手当が出ている会社が多い。
これは昔からの成り行きで、映画『三丁目の夕日』を観るとよくわかると思うが、 昭和30年代、40年代には、地方から多くの若者が集団就職で都会に出てきた。
とはいえ、住むところがない。そこで、中小企業は住み込みで従業員の面倒をみた。 大企業になると、独身寮などを持つことが多かった。

しかし、いつまでも寮生活では困る。次の新規採用が入らない。 だから、年齢制限を設けて、寮から独立させるという決まりができた。 しかし、都心ではアパート代が高い。安いところを見つけるとなるとと通勤時間が延びる。 そこで通勤手当を作らざるを得なくなった。

通勤手当は、1か月10万円まで非課税となる。 さすがに、そんなかかる人は少ないだろう。だから、会社は全額支給することが多い。義務ではないが。

都庁も同じだ。


さて、通勤手当とは別に、住宅手当というのが出ることもある。
都庁の場合、住宅手当は昔から異常に安い。
以前、知人にその額を話したら、「一桁違うんじゃないか」と言われてしまった。 しかも、最近、それすらも事実上圧縮され、「出ない」と言ってもいいほどに制度変更されたという。

通勤手当の全額支給と安すぎる住宅手当が重なると、必然的に超長距離通勤者が発生する。

昭和50年代になると、これが人事異動の上で、大きな足枷となっていた。
忘年会などがあると、「宴たけ」前の夜8時半くらいに、「わりいけど、オレ、ぼちぼち終電だから・・・」と言って、退散する職員が出た。 それもそのはず。隣の県の、そのまた隣の県の県庁所在地を越えて、出勤しているのだ。

ちょうど、団塊の世代が30代後半になる時代で、「家を持つなら一戸建て」が理想とされていた。

となると、すっごく遠くに自宅を建てる。通勤時間2時間以上がざらになった。
だから、自宅から少しでも近い職場に就きたいという希望がとても大きくなった。 また、運良く近い職場に配置された職員は、何とかそこに長く留まろうと、現職にしがみついた。

余談だが、人事配置権は会社側にある。 昨今、「地域限定型の働き方」が取りざたされているが、そういう制度でもなければ、会社は辞令一つで従業員をどこにでも異動させることができる。

ちなみに従業員が、“悪意のない”人事異動命令に服さない場合、そのことは解雇理由になる。
会社側に他の選択肢がないからだ。 裁判でも、かなりの個人的事情がないかぎり、解雇有効とされている。 (※悪意とは、「労働組合つぶし」などの作為がある場合でであり、「あいつ気に入らないから」というような悪意が会社側にあったとしても、 事実上、立証することは困難。)


ところで、都庁は地方自治体だ。
都庁職員は、東京都民であるべきだ、と私は思う。 私自身、東京都から居所を移したことはない。

しかし、当時はそういう事情から、千葉県民、埼玉県民、神奈川県民、茨城県民の東京都職員が、やたらと多くなった。
それって、本当に看過していいことなのだろうか。
例えば、防災問題を考えてみてほしい。
他県に家族を置く東京都職員の防災への関心は、都民の安全に向くのか、自宅の安全に向くのか。
同じように、高齢者問題や、子育て問題もそうだ。

地方公務員は、担当区域の生活実感にいつも敏感でなければならないと思う。
だから、自宅が遙か彼方にあっては、良くないのではないか。
むしろ、「都内在住手当」があって、割高の住宅費を補填するくらいであってもいいと思うのだが、いかがか。


最近では、都庁内で、昔のような超長距離通勤者の話は、あまり聞かなくなった。
理由は簡単。「庭付き一戸建て」の夢を実現することがかなり困難になったからだ。

今の給料では、オヤジ一人の収入で、一家全員を食べさせていくことは難しい。 当然、共働きが前提となる。とすれば、多少住宅経費はかかったとしても、都内のマンションに住んだ方が便利ということになる。

これは、これでいいことだったのかどうか「?」だ・・・。
というのも、こうした生活は両親との別居が前提。だから、親が寝たきりになったりすると、急に前提が崩れる。 子どもの面倒を見てくれる人もそばに居ないので、不便だ。

夫婦共働きで歳を重ねると、簡単に片方が退職するということもできない。 ダブルインカムを前提に生活が成り立っているからだ。


さて、最近、民間では、むしろ動きは逆になっている。

企業の近くのアパートを借り上げ、会社がそれを所有する。 その代わり、従業員からは家賃を取り、住宅手当を出して負担を軽くしてやる代わりに、ちゃっかり給料は低く抑える。
その方が、節税対策になるらしい。これで、所得税や社会保険料を節約できる。

もちろん、毎朝の通勤ラッシュに、エネルギーを浪費させるくらいなら、その方が得策というわけだ。
さらに、交代制や不規則勤務の場合も、便利。これに裁量労働制なんて加われば、会社はずいぶんと得をすることになる。
多少の不満があっても、従業員は簡単に辞められなくなるし・・・。