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女性労働力の有効活用が、子どもの数を減らした

(初出 2013.8.21 renewal 2019.9.20)

もう、いいかげん誰か、きっぱりと認めたらどうか。
この国は、少子化に歯止めをかけるのに失敗したと・・・。
だいたい、最初からそんなこと無理だったということを・・・。

それを自覚できれば、次なる一手が早く打てる。


私が新採だった40年くらい前には、女性の労働者には残業時間の制限があって、1日2時間、週6時間、年150時間と、決められていた。
「女性は家庭責任を担っているので、負担軽減するのが当然」というのが、その根拠だ。
しかし、この保護規定は、「女性には責任ある仕事を任せられない」とする会社側にとって、とてもいい口実となっていた。
このため、実力のある女性がなかなか社内で枢要なポストに就けないでいた。

当然、「男女均等待遇をしろ」という運動が起こった。
私は、そういうウーマンリブ(※死語かなぁ?)の主張に感情的には同調しかねていたが、 能力ある女性が職場で活かされていないのは問題とは、認識していた。


今では、男女の均等待遇がかなり進んでいる。
しかし、女性の待遇が上がったわけでもないようだ。
むしろ、男性の扱いが低くなった。

会社は、女性も自由に残業させられるようになった。そうなってみると、能力のある女性はどんどん登用できる。
しかも、優秀な女性ほど仕事には真摯に対応する。悪く言えば融通がきかない。
その「融通のきかなさ」が、会社にとってとても都合がいいことに、経営者が気付き始めている。

職場のな~な~気分を払拭するには、女性の管理職を配置することが、とても効果的なのだ。


さて、その昔、警察署に婦人警官が採用されることになった。今なら、女性警察官と呼ぶべきだろう。
警察署側は、「男性警察官のお嫁さん対策」くらいの、かなり軽い気持ちで始めたらしい。
しかし、いざ、活用してみると、婦人警官はとても役に立つことがわかった。

駐車違反の取り締まりが、とても厳しくなった。
男性の警官だと、アバウトに許してしまうところが、婦人警官は、きちっと取り締まる。
この几帳面さ、悪く言えば融通のきかなさが、実は、な~な~で仕事が行われている職場にカツを入れるのに役立ったのだ。


あるとき、某コンサル会社の若い女性コンサルタントが、私のところに相談に来た。
「本社が指定した新しいシステムを普及させるのが私の仕事なんですが、会社のベテラン社員がそれを使ってくれません。 どうすればいいのでしょうか」
私は尋ねた。
「ところで、そのベテランさんと、システムを使っている社員さんとでは、どっちの方が営業成績がいいのですか?」
「ベテランの人の方がたくさんお客さんをつかまえています」
「だったら、システムの普及より、ベテランさんたちが、どうやってお客をゲットしているかを、よく調べて、 そのノウハウをシステムに組み込むことの方が大事なんじゃないの・・・」
そう答えて帰したが、その後、その会社からは、入れ替わりで若い従業員が相談に来るようになって・・・。

これは偏見なんだろうが、優秀な女性ほど、自分の職責にしか目が向かない。回りが見えていない。
ところが、それが企業側にすれば、とても利用しがいがあるのだから、あぶない。
後で問題が発覚すれば、彼女の責任にすればいいんだし。 事実そうだし。


ところで、家庭責任の負担が男女平等になったかというと、そうでもない。
子育ては、やはり女性に大きな負担を負わせる。
親が病気になれば、その介護は女性がかなりの分担をしなければならない。

ここで、男の出番だ。
「もう、働くのはいい。経済面は、おれが支えてやる。だから、オマエは家のことを頼む」と、しゃきっと言いきるときが来た。
しかし、現実は厳しい。

女性と男性との職場での均等待遇が進んだ。 女性の地位は上がった。しかし、毎日残業する女性が増え、その一方で、男性の給料が相対的に減った。
夫が50万円の給料をもらって家計を維持していた時代は過ぎ、夫が25万円、妻が25万円で家計を維持する時代になった。 だから、女性はおいそれとは、仕事をやめられない。
このことは、「子どもを持たない」という方向性を強める。

その一方で、非正規従業員の割合が増えた。
彼らは安い給料で働く。そのかわり、残業などの拘束は、正規従業員より弱い。

「子どもが欲しいのだったら、非正規従業員になる道もあるよ」と、会社側は誘う。
しかし、亭主の収入は安い。配偶者も非正規従業員だって場合も、たくさんあるだろう。とても一馬力では、生活を維持できない。
このことは、「子どもを増やせない」という方向性を強める。


じゃぁ、企業側が従業員の子育てに手厚く面倒を見るべきか?

私は、労働相談をやっていて母性保護規定に反論する経営者がいると、 「だって、貴社の製品を買ってくれるのもそういう人たちでしょ。子どもがいなくなれば、御社の製品も売れなくなるんですよ・・・」と、 説明していた。

だが、「そんなの関係ない」というのが、経営側の本音だ。
実際、会社が潰れてでも慈善活動するってところは少ないだろう。 その言い分はもっともなのだ。

一般的に企業の寿命は30年という。 人間の一生よりも短いのだ。従業員の子どもや親のことを最優先して経営することを求めても、酷だ。


こうして、女性労働者は、
(1)正社員としてバリバリ残業もこなすキャリアウーマン
(2)非正社員として、仕事もそこそこ、家庭もなんとか、という不安定生活者
に二分されるようになった。

会社の労務政策を考えるならば、(1)を強調すればするほど、(2)を選ぶ人間が増える。
だから、会社としては優秀な女性従業員を枢要なポストに就け、その大変さを一般の従業員に周知することが、得策となる。
いずれにせよ、安心して子どもを増やすことなんてできない。

そして、企業側は両者の便利な使い方に気づいた。

(1)のキャリアウーマンは、男性と同様の処遇をして、どんどん仕事を任せる。
人事異動も、海外駐在もやらせる。だって、平等だから。
優秀だし、几帳面だから、そういう部分を活用して、厳しい職場管理を任せようとする。 しかしその結果、彼女は職場で孤立する。だから、さらに頑張ろうとする。 家庭生活は二の次。昔の男性のモーレツサラリーマン並に無視しなければ、やっていけない。
子どもは持てない。親が病気だろうが面倒は見られない。

(2)の不安定雇用は、言わずもがな、雇用の調整弁として利用される。
何となく同棲し、できちゃった結婚し、何となく別れた。
でも、子どもの世話は自分に任された。 せめて経済的に面倒見てほしいのだが、元夫も、非正規従業員で自分の食い扶持しか稼げない。 そういう人たちだから、安く使える。

統計的には子ども数はどんどん減っている。 しかし、社会的には待機児童が問題化している。
つまり、(2)のタイプが、急増しているからだ。
子どもを預けて仕事をしなければ、生活できない。 そういう人たちが急に増えたから、待機児童問題が顕在化した(たぶん)。

子どもの数が増えたからでははい。
待機児童の問題に気を取られて、子どもが減っていることを忘れてはならない。

人口が減少し、それが続くということは、日本民族がいずれ滅びるということなのだ。
だが、その前に、いろんな問題が顕在化する。
遠い先のことですますことは、できない。
例えば、若者がいなくなったら、誰がこの国を防衛するのか・・・。