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INDEX
(初出 2013.8.10 renewal 2019.9.20)
さて、「野球とサッカーとどちらが好きか」と問われるならば、私は野球を選ぶ。
サッカーはなかなか点が取れない。3対0くらいだと大差らしい。
しかし、野球は一発逆転がある。だから、負けていても最後には逆転するのではないかと、期待して見てしまう。
ところがだ、ボールが飛ばなくなって、ホームランが出なくなった。ホームランが出ないと、野球の醍醐味が削がれる。だから、観客が減る。
こうした状況から、こっそり、“飛ぶボール”に戻されていた。
そうしなくてはならなかった事務方の気持ち、私にはたいへんよくわかる。
しかし、コミッショナーは「聞いてないよ。部下の一存でやったことだ」と、責任を回避した。
もう少し余裕があれば、どういう風に立ち回った方がよいか考える余裕もあるのだが、
たぶん、ホントに「寝耳に水」だったのだろう、記者会見の席上で「オレは知らない」と言ってしまった。
「知らなくても、責任はある」のだ。上に立つ者というのは、そういう宿命を背負っている。
理不尽だが、そういうことだ。それが今回のテーマ。
ずいぶん以前のことだ。
人事異動で、仕事熱心な上司が私の上に来た。
ある日、上司から、「仕事の問題点をリスト化しろ」と、命じられたことがある。
こっちとしては、リストの提出後に、「では、改善策を考えろ」と言われるのが見えているので、<予め改善策を考えてから>、問題点をリスト化した。
しかし、上司はそれを見込んでいて、
「こんなリストではダメだ。どんなに考えても答が出すのが難しいような課題を考えて、書き直して来い」と、資料を差し戻した。
仕方なしに、私は、解決困難な問題のリストを作り、提出した。
そしたら、やはり、「では、改善策を考えろ」と、命じられた。
マスコミで、「ニート問題」が指摘されるようになった。
「自室に引きこもっている若者に何とか仕事に就かせるような事業を考えろ」という下命があった。
自分は担当ではなかったが、話を聞いたとき、「そんなの無理だ」というのが第一印象だった。
「今の世の中、仕事に就きたい人だって仕事が見つからない。面接でやる気を示したって、なかなか採用してもらえない。
それなのに、<仕事に就きたくない人たち>という注釈付の若者を会社にあっせんしたって、会社も採らないだろう」というのが、実感だった。
(【補注】初出時は、雇用環境が軟化している現在とは、かなり状況が違っていた)
しかし、事業は実施に移された。たくさんの費用が投入され、多くの人の汗が流された。
やはり実績は上がらなかったが、それでも、想定していたよりは、マッチング件数が出た、とのことだ。
しかし、マスコミからは、「こんなにお金を使って、わずかな成果しか上がっていない」という記事を書かれ、事業廃止となった。
じゃ、他に何か方法があるかというと、思いつかなかった。
その後お付き合いした会社さんの中には、身障者や知恵遅れ、発達障害の人などの就職を進める仕事をしている企業がある。
本来なら、行政が行うべき分野を、民間企業でもやっているところがある。
頭の下がる思いである。
今はもう、ほとんど見られなくなってしまったが、 昔の公務員の中には、上司の命に対して、「そんな仕事、私はやりませんから」とガンと言って、突っぱねてしまう剛の者がいた。
これは、明らかに業務命令違反だ。法令に反する命令以外は従わなくてはいけない。
業務命令違反は、りっぱな解雇事由になる。
この場合言えるのは、「私の能力では、その仕事は無理だと思いますが、いかがですか」か、 あるいは事後的に「やったけど、できませんでした」という謝罪が限度である。
労働法的に言うと、従業員の業務についての結果責任は、会社が負う。
だから、従業員がちょんぼして、他社に損害を与えたとしても損害賠償するのは会社だ。
本人側に悪意や相当の過失がないと、会社は従業員に賠償請求はできない。
交通事故の損害賠償などを従業員当人に求めた裁判もあるにはあるが、かなり少ない額しか認められていない。
ま、追っかけで、従業員には社内的な責任追求はあるだろうが・・・。
さて、強引な上司に対し、従業員は何の抵抗もできないのか。
実は、「業務命令は拒否できない」×「無過失責任は問われない」という与件から、きわめて有効な対応策がある。
「ひたすら上司の命令を忠実に実行する」ことだ。
どんな優秀な上司とはいえ、判断ミスは起こす。
それに、そもそも物事にはプラスの面もあればマイナスの面もあるのが普通だ。得てして強引なリーダーというものは、プラスの面しか目に入っていない。
従業員は、それが「会社にとって良くないこと」だとわかっていても、一切反論せず黙々と、その命令を実行するのだ。
結果、会社に被害が発生する。その責任を負うのは上司であって、従業員ではない。
会社が傾けば、従業員の給料にも影響するが、そもそも、そんな会社にしがみついていたいと思うか?
「このまんまやってたんじゃ、ダメなんだけどね~。ま、上司がそう言うんだから、しょっがないかぁ~」てなノリで、ひたすら頑張る。 運が良ければ、上司が飛ばされて決着する。
専門家の話では、「事業分野に関係なく、従業員がこんな話をするようになると、その企業は長くない」のだそうだ。
最近、世の中全体に、そんな雰囲気が蔓延してはいないか。
とても心配である。
最後に本文とは直接関係ないのだが、「予期せぬ答え」という意味で、野球についての、ちょっといい話を載せておく。
出所は、1日2400時間発想法(吉良俊彦 プレジデント社)。
「例題をやってもらいたい。
テーマは野球だ。ピッチャーは現在のあなた自身。そしてバッターボックスには、かのイチローがいる。
2アウト満塁、あなたは2ストライク3ボールというフルカウントに持ち込んでいる。
これだけが私の提示する状況である。
あなたにはさらなる状況を設定してもらい、ストライクを投げるか、それともボールを投げるかを決めてもらいたい。
・・・(中略)・・・
これまで私が遭遇した中でも指折りの面白い答えを挙げた人は、野球のことを本当に全然知らない人だった。・・・(中略)・・・
この例題に取り組むのが誰であれ、必ず考えなければならないのが自分とイチローとの実力の差だ。
こんなものは言うまでもなく、圧倒的にイチローが上だ。 ストライクを投げれば100パーセントの確率でホームランを打たれると考えなければならない。
つまり、ストライクを投げれば4点を失う。だが、ボールを投げれば押し出しで1失点。 ストライクかボールかで、3点も差がある。
・・・・(中略)・・・
先に挙げた、野球を知らない人の答えはどんなものだったのか。
その人はこう答えた。
「これは少年野球で、イチローが有志で参加してくれている。私は子供たちにホームランを見せてあげなくてはいけない。 だから、ストライクを投げて、イチロー選手にホームランを打ってもらわなければならないのです」。
・・・・(中略)・・・
目的を勝つことではなく、イチローにホームランを打ってもらうことというように設定している。
これを発想と言わずして何と言おう。