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INDEX
(初出 2013.8.5 renewal 2019.9.20)
アニメーションの制作費は、たいへん安い。
30分の番組1本あたり、安いのだと2、300万、高くても800万円の制作費しか出ない。 ところが、同じものをジブリのスタッフで、ジブリのクオリティでやるとなると、1億円でもつくれない。この安い相場を形成したのは、手塚治虫氏だったという批判がある。
(鈴木敏夫のジブリマジック 梶山寿子 日経ビジネス文庫)。
特撮番組の制作費も安かった。
当時は通常30分ものの番組で250万円から300万円という予算が相場だったが、 特撮部分に予算が大きく奪われる特撮作品は、1本の制作費が750万円から1000万円もかかっていた。 これに対してテレビ局から支払われる制作費は550万円程度であり、制作が進むに連れどんどん赤字が累積していったのである。先日、サンダーバード博で見た解説書には、 「当時、破格の2,000万円の制作費」と書かれていた。 時期は同じだから、日本の特撮番組がいかに安い価格で作られていたかがわかる。
(特撮の神様と呼ばれた男 鈴木和幸 アートン)
さて、その後どうなったか。
プロ野球選手の年俸は上がったが、優秀な選手の多くが大リーグに移籍した。
虫プロダクションは倒産。
円谷プロダクションは、創業一族が放逐され、身売りとなった。
では、なぜそこまで安くしても、仕事がしたかったのか。
たぶん、「何としても、自分の好きなことをしたかった」からなのだろう。
ある人が言っていた。
「アニメーターというのは、その作品のクオリティを上げるのには、ものすごく熱意のある人たちなんです。
ところが、その作品で儲けようということについては、まるで無頓着なんですよね」
率直に言って、これでは、ビジネスモデルとしては成り立たない。
だけど、そういう人って、とても多い。
街角で路上ライブをしている人なんかも、そうだろう。
それが日本人のいいところなんだとも、思うんだが・・・。
個人が好き勝手にやっているうちは、まだよいが、 熾烈な国際競争の中では、命取りになる。
ご存じのとおり、日本の技術者が毎週末に、なぜか韓国や台湾に旅行することが続きました。 高額の“アルバイト”で、技術指導に出かけていたのが親元企業に発覚したときにはすでに手遅れでした。
(技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 妹尾堅一郎 ダイヤモンド社)
このようにして、日本の生産現場のノウハウが海外に流出していった。
妹尾氏の報告はさらにこう続く。
ちなみにこれは、日本のお家芸だった柔道やバレーボールが世界のメジャースポーツとして普及したときに、 多くの日本人指導者が海外に招かれたことと同型です。 その結果、世界のレベルは一挙に上がり、日本の柔道もバレーボールも世界で勝つことがままならなくなったのでした。
(同)
私は、単に報酬の多寡が、彼らを海外に誘っているのではないと思う。
先に述べたように、「好きでやっている人」にとって、報酬は二の次なのだ。
「自分を高く評価してくれる人には、何かの役に立ちたいと思う。」――これは古い日本人気質として、自然の成り行きではないか。
報酬額はその際の一つの評価尺度に過ぎないと、私は考える。
「先生、先生」と丁重に受け入れられるのが、いいのだ。
日本企業が自社の技術者の「仕事結果」を正当に評価していあげていないとすれば、
おそらくその技術者は、国内よりも外国の自分の賞賛者に付く。
国への裏切りなど意識していない。
「士は己を知る者の為に死す」といったところだ。
本当に仕事が好きな人の帰属意識は<仕事そのもの>に向いている。
彼らは、「自分のやりたいことをやりたい」。それができるのだったら、どこの会社だろうとかまわない。
そこのところをきちんと押さえておかないと、日本のノウハウはどんどん海外に流出していく。
もう、手遅れかもしれないが。