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テ・デウム

今回はテ・デウムを紹介しましょう。

これは元々は聖務日課の朝課で歌われる物でしたが、やがて列聖式や戦勝などの公のおめでたいイベントがあったときに歌われる物になります。そのためいろいろな作品がありますが、最も有名なのはやはりブルックナーの物でしょうか。

ゼレンカのテ・デウムは2曲知られていて、運良く両方ともCDが出ています。テ・デウムは祝典用の音楽ということもあって、両方とも前回のミサ曲ZWV11,ZWV13にも増して明るい内容となっています。

以前どこかで「ゼレンカの音楽は底抜けに明るい」という評を読んだ記憶があります。実際このテ・デウムや前章のミサ曲を聴いたらまさにその通りです。
ただこの明るさが「底抜け」かどうかは微妙なところです。少なくとも今の感覚から言うと確かにそうかもしれませんが、ゼレンカに言わせれば「神に感謝の喜びを捧げる音楽」なんだから、このぐらい嬉しい音楽を作るのが当然なのかもしれません。

また当然のことですが、いくらめでたいからといって一本調子にドンチャカやってるわけではありません。歌詞の内容に合わせて音楽も次々に変貌して行きます。長調と短調の間を行きつ戻りつするところは他の曲同様です。

実際私自身も持ってるのが輸入盤が多いので、結構な曲を単にぼうっと聴いていました。ところがこのサイトを作るため訳詞を入手して一句一句聴いてみると、とにかく歌詞の意味と音楽が良くマッチしていることに今更ながら気づきます。
まあ当たり前といえばそうなのですが、聴く度に違った発見ができるというのはやはりゼレンカが大物の証なのではないでしょうか…??

具体的な歌詞は以下のようになっています。

TE DEUMテ・デウム
(1)
Te Deum laudamus:天主にまします御身をわれらたたえ、
te Dominum confitemur.主にまします御身を讃美し奉る。
Te aeternum Patrem永遠の御父よ、
omnis terra veneratur.全地は御身を拝みまつる。
(2)
Tibi omnes Angeli;なべての御使いら、
tibi caeli et universae Potestates;すべて御国の民、よろずの力ある者、
Tibi Cherubim et Seraphimケルビムも、セラフィムも、絶間なく
incessabili voce proclamant:声高らかに御身がほぎ歌をうたいまつる。
(3)
Sanctus, Sanctus, Sanctus,聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、
Dominus Deus Sabaoth.万軍の天主、
(4)
Pleni sunt caeli et terra天も地も、御身の栄えと
maiestatis gloriae tuae.御霊感に満てりと。
(5)
Te gloriosus Apostolorum chorus,ほまれにかがやく使徒のむれ、
Te Prophetarum laudabilis numerus,ほめたとうべき預言者のあつまり、
Te Martyrum candidatus laudat exercitus.潔き殉教者の一軍皆もろともに御身をたたえ
Te per orbem terrarum sancta全地にあまねき聖会は、
confitetur Ecclesia,共に賛美し奉る
Patrem immensae maiestatis:御身限りなき御いつの御父を、
Venerandum tuum verum et unicum Filium;いとたかき御身がまことの御独り子と、
Sanctum quoque Paraclitum Spiritum.また慰め主なる聖霊と。
(6)
Tu Rex gloriae, Christe.御身、栄えの大君なるキリストよ、
Tu Patris sempiternus es Filius.御身こそは、聖父のとこしえの聖子、
(7)
Tu ad liberandum suscepturus hominem,世を救うために人とならんとて、
non horruisti Virginis uterum.おとめの胎をもいとわせ給わず、
Tu, devicto mortis aculeo,死のとげにうち勝ち、
aperuisti credentibus regna caelorum.信ずる者のために天国を開き給えり。
(8)
Tu ad dexteram Dei sedes,御身こそは、天主の右に坐し、
in gloria Patris.御父の御栄えのうちに、
(9)
Iudex crederis esse venturus.裁き主として来りますと信ぜられ給う。
Te ergo quaesumus, tuis famulis subveni:願わくは、尊き御血もてあがない給いし
quos pretioso sanguine redemisti.しもべらをたすけ給え。
(10)
Aeterna fac cum sanctis tuis彼らをして諸聖人と共に数えらるるを
in gloria numerari.永遠の栄えのうちに得しめ給え
(11)
Salvum fac populum tuum, Domine,主よ、御身の民を救い、
et benedic hereditati tuae.御身の世継ぎを祝し、
(12)
Et rege eos, et extolle illosかれらを治め、かれらを高め給え。
usque in aeternum.永遠にいたるまで。
(13)
Per singulos dies benedicimus te.われら、日々、御身に謝し、
Et laudamus nomen tuum in saeculum,世々にいたるまで
et in saeculum saeculi.御名をたたえ奉る。
(14)
Dignare, Domine, die isto主よ、今日われらを護りて、
sine peccato nos custodire.罪を犯さざらしめ給え。
(15)
Miserere nostri, Domine,われらをあわれみ給え。主よ、
miserere nostri.われらをあわれみ給え。
Fiat misericordia tua, Domine,御あわれみをたれ給え。主よ。
super nos, quemadmodum speravimus in te.御身に依り頼みしわれらに。
(16)
In te, Domine, speravi:主よ、われ御身に依り頼みたり、
non confundar in aeternum.わが望みはとこしえに空しからまじ。

結構長い歌詞ですが、ゼレンカの作品では両方とも、1~10、11~16の2部構成となっています。

“テ・デウム ニ長調 ZWV145

編成:solo SSATB; ch SSATB; 2 tpt; timp; 2 ob; 2 vn; va; b.c.;

これはどういう機会かは不明ですが、1724年頃作られたと推定されています。

この作品で注目すべき点は、以下の部分が “オリーブの木の下での和解:聖ヴァーツラフの音楽劇 ZWV175” のパロディになっていることです。(Sub olea pacis は20世紀になって演奏された記録はありますがまだCDが出てないんでそういう意味でも現在貴重です)

Per singulos dies(13)→ 第15曲 Jam calle secundo
Dignare, Domine(14)→ 第26曲 Exurge providentia
Te Deum laudamus(1)→ 第36曲 Vos oriens adoret

曲はいきなりド派手な合唱から始まります。ティンパニやトランペットのにぎやかな前奏が挟まり、次いで合唱フーガが始まります。
Te aeterunam(1)ではS二人の重唱が入ったり、Tibi omnes(2)でTA重唱が入ったり、また合唱が出たり入ったりといった調子で、1、2の歌詞が歌われます。

3の部分は経過的な合唱で歌われますが、それが終わると4の部分はゼレンカ節全開の明るい合唱曲になります。

5~6の部分はかなり長い歌詞になりますがT独唱で一気に歌われます。

7~8の部分は最初美しい静かな女声合唱ですが、Tu devict のところでヴァイオリン、トランペットの伴奏が入るところから盛り上がっていきます。

1部終結部の9は打ち沈んだ合唱ですが、最後の in gloria numerari では冒頭の明るさを取り戻して終わります。

第二部は(11)はグレゴリオ聖歌で始まります。次いで Et rege eos(12)明るく力強い合唱となります。

Per singulos dies(13)の部分はSAによる対位法的な重唱です。
Dignare, Domine(14)ではまず美しい合唱を前振りに、特徴的なフーガ的器楽前奏が始まります。それにからむように出てくるB独唱で再び最初から歌われますが、なかなか感動的な音楽です。

Miserere nostri(15)の部分は「ミゼレーレ」という言葉に対応してじっと沈んだ綺麗な合唱です。そして最後の In te, Domine(16)はゼレンカらしいというか何というかの、ノーテンキな主題によるフーガとなって全曲が閉じられます。

“テ・デウム ニ長調 ZWV146

編成:solo SSATB; ch SATB; 4 tpt; timp; 2 fl; 2 ob; 2 fg; 2 vn; va; b.c.;

この作品は1731年11月11日のマリアヨゼファ第9子の Maria Josepha Carolina Eleonora Franziska Xaveria 安産記念、または12/15のマリアヨゼファ本人のお清め(というのをする習慣だったんでしょうか?)の際に演奏されたと推定されます。

作品の(1~5)の部分は協奏曲形式で作られています。
最初に器楽による前奏が始まりますが、この部分がリトルネロの役割を果たして、各節の合間に挿入されます。
(1~2)の部分は喜びに溢れた合唱です。Sanctus(3)のところでは一時静かになりますが(4~5)では再び冒頭の雰囲気に戻ります。

Tu Rex gloriae(6)の部分はS二人+器楽が技巧的に掛け合うなかなか見事な重唱になります。
Tu ad liberandum(7)の部分の歌詞は、良く読んでみるとまるでクレドの中心部のような歌詞で、受胎と受難のことを言っています。そのためでしょうか、弦楽とフルートオブリガート付きのAソロでじっくりと歌い上げられます。前半のハイライトと言って良いでしょう。
Tu ad dexteram(8)は今度は復活を意味する歌詞になります。それに合わせるように喜びに満ちたTB重唱となります。

Iudex(9)に来ると、急に音楽はアップテンポな緊張感溢れた合唱になります。これは「裁き主」という言葉に呼応した物でしょうか。
Te ergo 以下「しもべらを助けたまえ」に呼応して、今度は祈るような音楽へと変わります。
そしてAeterna fac(10)のフーガで第一部が終結します。

第二部は前作同様に Salvum fac(11)はグレゴリオ聖歌で始まります。
Et rege eos(12)は明るい合唱となります。

13~15の部分はフルート2本とSSA3重唱という構成の、美しく透明感のある音楽になります。
そして最後の In te, Domine(16)の速い明るい終結フーガで全曲が閉じられます。


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