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中期ミサ曲

何回か暗い曲が続いたんで、ちょっと気分を変えて明るく楽しい曲をやってみましょう。
で今回取り上げるのがこの中期ミサ曲の
ZWV11ZWV13なんですが…何でミサ曲が明るく楽しいの?と言う方がいるかも知れません。

確かにそうですね。ちまたに流布しているミサ曲というと、まずバッハのロ短調ミサ曲とかパレストリーナやジョスカン・デ・プレのルネッサンス系のミサ曲とか、ブルックナーなんかのミサ曲や、極めつけはベートーヴェンの荘厳ミサ曲だったりするんで、基本的にミサ曲というと神聖かつ荘厳だというイメージが強いです。
明るく楽しいっていう形容は宗教曲に対しては今一つピンと来ないはずなんです。

実際私もそうだったわけで、初めてこのゼレンカのミサ曲を聴いたときは、そのノーテンキさに何か違うやん!と思ったもんです。
特に音楽を聴こうとする時っていうのは、その時の気分に大きく左右されるわけで、宗教曲というのはちょっと沈み込みたいなぁ…という気分の時に聴くものであって、やってやるぜ!って時にはあまり聴かない物です。

良くは覚えていませんが、多分その時もそういう気分で聴いたんでしょう。するといきなり派手なファンファーレで始まったりして精神的にずっこけて、ぜんぜんぴんと来なかったというわけなんですが…

でもこれははっきり言ってそういう態度で聴いた人がいけません
カトリック典礼と音楽の簡単な歴史のところでちょっと言及しましたが、17~18世紀の宗教音楽観と現在の宗教音楽観はかなり食い違っているようです。「宗教音楽と言う物は神聖・荘厳であるべきだ」と言う考え方はたまたま現在の考え方に過ぎず、決して普遍的な考え方ではありません。

バロック音楽では喜びを喜び、悲しみを悲しみとして表現することは当然のことでした。当時の作曲家には、そういった場合喜びの気持ちを素直に表現することが求められたのです。

以下の2曲はいずれもおめでたい機会のために作られた物で、ゼレンカが喜びを表現したいときの見本のようなものです。

というわけですので、もし以下の曲を入手された方は、落ち込んでっから一発景気づけに何か…と言うような場合に聴いて頂くのが吉かと思われます。

ちなみに中期ミサ曲といえば私の勝手な分類ではZWV3ZWV16とかなりの数があります。当然のことながらこれ全てノーテンキかどうかは、聴いたことがないんで全く分かりませんです。

ミサ対訳を別ウインドウで開いとく

“我らが主イエスキリストの割礼ミサ ニ長調 ZWV11

編成:solo SATB; ch SATB; 3 tpt; 2 hrn; timp; 3 ob; 2 vn; va; b.c.;

この作品は1728年12月24日及び28日の日付が付いています。従って初演は1729年1月1日だと思われます。

ルカ伝にはキリストが8日目に割礼を受けイエスと命名されたとあります。主イエスキリスト割礼の祝日とはこの日に当たりますが、計算すればそれはずばり1月1日になります(12/25当日も含む)また同時に降誕祭(クリスマス)の8日間の最後の日にも当たります。

教会暦では正月そのものを祝う習慣はないようですが、しかし1月1日はそういう意味ではやっぱり大変めでたい日になるわけです。

ゼレンカのこのミサ曲はそういうイメージを反映して、非常に派手で祝祭的な音楽となっています。

キリエの部分はまずトランペット、ホルン、ティンパニがどんどこどんどんどんと目一杯派手にはじまります。しばらくして合唱によるキリエ・エレイゾン(1)のフーガが始まります。
クリステ・エレイゾン(2)はSATB4名による重唱です。
一般にミサ曲のキリエ部はその歌詞から3部形式になっているのが多いですが、この作品ではキリエは通しで1曲で、大ざっぱにABABみたいな構成になっています。

グローリアは大ざっぱに3部に分かれます。

最初はマニフィカトのところでも説明した協奏曲的な合唱曲です。
マニフィカトニ長調のようにいくつかのパーツよりなる前奏の後 Gloria in excelsis Deo(4)と合唱が始まります。Laudamus te(5)のところでSAの重唱が入ってきますが、すぐに合唱も加わり、様々なパートが出たり入ったり大にぎわいの楽章が繰り広げられます。
Domine Deus(6)以下は独唱がTBになってまた同様に続きます。

それが一段落すると、ヴァイオリンとオーボエによる前奏の後に、ASの重唱による美しいしんみりとした Qui tollis(7)が始まります。
重唱が終わると Qui sedes ad dexteram Patris は一瞬 Gloria 冒頭のような明るい合唱となりますが、最後の miserere nobis はやはり思いっきりしんみりとした合唱で終わります。

続く Quonism tu solus sanctus(8)では気分を変えて明るくTBの重唱となります。

その後に cum Sancto のフーガになって行くわけですが、ここのフーガのテーマがやや変わっています。といっても出だしを聴いたら単に同じ音が繰り返されているだけなんですが、実はこれが4/4拍子で冒頭に8分休符が入っているというもので、すなわちオフビートで同音連打してるわけですが、対旋律が入ってきて初めてそのことが分かるという仕掛けになっています。
こういう変わったリズムというのはゼレンカの十八番の一つです。

続くクレドはこのミサ曲中最もノーテンキに始まるところかも知れません。最初の Credo から descendit de caelis(11)は、グローリア冒頭部のようなノリで合唱独唱取り混ぜながら一気に展開していきます。

続いて Et incarnatus(12)ではがらりと気分を変えてSATの重唱で始まります。更にその雰囲気のまま Crucifixus(13)に突入していきますが、この部分がこのミサ曲の白眉といっていいでしょう。

続く Et resurrexit(14)では再び明るい曲調になって一気に突っ走ります。途中 mortuorum(16)という単語のところでは一気に沈みますが、それもすぐ終わって華やかに終結します。

サンクトゥスの部分ではまず、Sabaoth(17)まではしんみりと、次いで派手に Pleni sunt 以下が歌われます。Hosanna(18)の落ち着いた合唱の後、SAによるBenedictus(19)が続きます。
最後のHosanna(20)は(17)的なノリで歌われます。

最後の楽章アニュスデイはまず Agnus Dei(21)は荘厳な感じの合唱で歌われ、miserere nobis の部分はグローリアの Qui sedes(7)のミゼレーレと同じ旋律のようです。ただグローリアでは男声合唱から導入していますがここでは女性合唱から導入されます。
Agnus Dei(22)はオーボエとかけ合いながら歌うT独唱です。Agnus Dei, qui tollis peccata mundi(23)は再び合唱になりますがここは経過的に流され、最後の Dona nobis pacem(23)になだれ込みます。

この部分はゼレンカのミサ曲では非常に良くあるパターンですが、冒頭のキリエ(1~3)のパロディとなっています。

この作品はゼレンカ中期の傑作に属すると思うのですが、今ある録音(4),(5)はどうも今一つのようです。

“ミサ「大いなる感謝を捧ぐ」 ニ長調 ZWV13

編成:solo SSAATB; 4 tpt; timp; 2 fl; 2 ob; 2 vn; va; b.c.;

1730年10月7日、皇太子とマリア・ヨゼファ妃の第8子 Franz Xaver Albert August Ludwig Benno の洗礼式が執り行われました。このミサ曲はその時のためにゼレンカが作った作品です。

ザクセンはカトリックに改宗して日が浅いため、実質的にはカトリック教会は王室専用という趣があったようです。そのため教会のイベントは、王室内のイベントと非常に密接に関連していたようです。その中でも皇子誕生というのは第一級のイベントであったのは間違いありません。

1730年というと、この頃はゼレンカがある意味最もやる気な時代かもしれません。
この作品はそういったやる気がじんじん伝わってくるような、そんな作品です。長さとしては30分ちょっとですが、ソリストを6名とか、トランペット4発とか構成も派手になっています。

キリエの部分は上記のZWV11同様通して1曲の作りになっています。
華やかで喜ばしい前奏の後まず器楽フーガが始まりますが、これはしばらくして Kyrie eleison の合唱に受け継がれ、そのまま第二キリエまで一貫して続きます。

グローリアは目一杯グローリアな雰囲気で始まります。
Laudamus te(5)からはS独唱になります。同じ曲調で Domine Deus(6)に入りますがここではTBの二重唱となります。

Qui tollis(7)はやや沈んだ感じの美しい合唱になります。特に最後の miserere のところはなかなか見事です。

Quonism tu solus(8)から再び明るいS独唱になります。
cum Sancto Spiritu はモテット調の合唱になり、最後のアーメンフーガになだれ込みます。

クレドもまたおめでたいというかもはやノーテンキといってもいいようなリズムのトゥッティ、すなわちゼレンカ節で出発します。
このノリで(9~11)が一気呵成に歌われた後、女声合唱の非常に対照的で落ち着いた Et incarnatus(12)及びAソロの Crucifixus(13)になります。
全体が明るい曲であっても、ゼレンカのこういった部分での対照づけは非常に見事と言っていいでしょう。

Et resurrexit(14)からはまた明るい雰囲気になって、最後まで一気に歌われます。

サンクトゥスも明るい合唱ですが、クレドあたりに比べるとやや真面目(笑)な雰囲気になっています。

Benedictus(19)は一転落ち着いたオーボエのオブリガート付きTの独唱になります(たぬきさんよりの譜例)
最後の Hosanna(20)はフーガで締められます。

アニュス・デイはまず Agnus Dei(21)が全曲の締めにふさわしいような合唱で歌われます。

Agnus Dei(22)がこの作品で最も印象深い曲でしょうか。SSAAの4名で歌われる美しい4重唱です。特にフルートがバックで小鳥のさえずりのように動き回るところは、非常に微笑ましいです。生まれたばかりの皇子様を抱いているヨゼファ妃をイメージしているのでしょうか?

最後の Agnus Dei(23)は再び(21)と同様の合唱で歌われます。最後の Dona nobis pacem は独立したフーガになって全曲が締めくくられます。


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