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カプリッチョ

この作品群は ZWV182~185 とZWV190 の総称です。182~185まではゼレンカのウィーン留学時代の1718年頃に作られたと考えられています。いわば現在入手できるゼレンカの最も初期の作品といえます。190はゼレンカ中期の作品になります。
この作品群で特徴的なのは、通常の編成にホルンが入ることでしょう。これは当時のウィーンでの習慣に影響されていたらしいです。

曲の構成はいわゆる組曲形式みたいなものです。組曲形式というと第1曲にイタリア風やフランス風序曲が来て、その後にいろいろな舞曲が並んでいる形式ですが、これの場合まんま組曲形式の物もあれば、第1曲が協奏曲形式になっているものもあります。
タイトルがカプリッチョになっている理由は今一つ明らかではないようです。

ところで作品リストを見て頂いたら分かるとおり、ゼレンカの器楽作品が彼の作品のおおよそ1割程度しかありません。その中でこのカプリッチョはゼレンカの器楽作品の約1/3を占める重要なレパートリーと言えるでしょう。

しかしその割にはこれはトリオソナタなどに比べると知名度は遙かに落ちるようです。
その理由としてはまず第一に演奏が難しいことが挙げられるようです。

実際このカプリッチョはホルン奏者の間ではかなり悪名が高いという噂です。なぜなら現在のホルンの出せる最高音域は「二点ヘ」ぐらいらしいのですが、この作品では少なくとも「二点変ロ」ぐらいまである上、そういう音域での速いパッセージや逆にゆっくりと歌わせなければならないところなど、ほぼ究極の激ムズ作品なんだそうです。

しかしそれに加えて実はほんの最近までは、この作品はトリオソナタに比較して音楽的に一段落ちるからなのかもしれないなどと失礼なことを思っていたりしてました。

それまで持っていたのがカメラータ・ベルン(ハインツ・ホリガーがいます)の演奏したCD(85)とチェコフィルの演奏した物(30)だったのですが、残念ながらその演奏を聴いても今一つピンと来なかったというのがその理由です。
ホリガーのトリオソナタの方は新盤も旧盤もそれなりの名演ですから、演奏の違いと言うよりはやはり音楽の本質的な部分が違うのかなと思ってわけです。

ところがつい最近ルードヴィッヒ・ギュトラーが演奏している盤(96)を入手して、はっきり言って衝撃を受けました。要するにこりゃもう完全な別物なんですね。

今まで聴いた演奏では、音をはずすとかいうことはないにしても、いかにもホルンパートが一生懸命というのが分かって、手に汗握る(笑)演奏だったわけです。そのため結果的にホルンパートが浮き上がってしまって、全体のバランスが崩れてしまっていたのです。

ギュトラー盤の場合何がすごいかというと、ホルンがアンサンブルに見事にとけ込んでいることです。特にこれを聴くとホルンパートがそんなに難しいとは思えないほど、ごく素直に当たり前に鳴っていることでしょうか。全く何の心配もなく音楽を楽しめる演奏になっています。

これはギュトラーの技巧がすごいこともありますが、さらにはコルノ・ダ・カッチャで演奏していることも重要でしょう。これはホルンの原型となった楽器で狩猟ホルンとも言われる無弁の楽器です。ゼレンカの時代にはこれしかなかったわけで、当然ゼレンカはこの楽器を前提に曲を作っています。そのためアンサンブルに入っても音色の違いが目立たないのかもしれません。
いずれにしてもこの作品はホルン協奏曲ではないわけで、ホルンパートがいかに難しいからと言って、一人目立ってはいけないのです。

こうなって初めてこの曲集が、決して侮れないどころか、トリオソナタにも負けず劣らない傑作であることが分かったのです。初めてゼレンカが意図した音楽が聞こえたのではないかという気がします。

“カプリッチョ ニ長調 ZWV182

編成:Strings; 2 hrn; 2 ob; fg; b.c.;

  1. Andante - Allegro
  2. Paysan
  3. Aria
  4. Bourrée
  5. Minuetto I-II-I

この作品は1717年とカプリッチョのなかでは最も古い作品です。しかしじっくり聴けばなかなかの傑作でしょう。
最初のアンダンテ-アレグロの部分は、フランス風序曲のような感じで、アレグロの部分はフーガになっています。
その後は舞曲が並んでいますが、中でもアリアは傑作なんじゃないかと思います。

“カプリッチョ ト長調 ZWV183

編成:Strings; 2 hrn; 2 ob; fg; b.c.;

  1. Allegro
  2. Canarie - Aria - Canarie
  3. Gavotte
  4. Rondeau
  5. Minuetto - Trio - Minuetto

これは1718年に作られました。第1曲のアレグロは快活な協奏曲形式となっていて、いわゆる序曲形式ではありません。
全曲が軽快な音楽になっています。

“カプリッチョ ヘ長調 ZWV184

編成:Strings; 2 hrn; 2 ob; fg; b.c.;

  1. Andante - Allegro - Andante
  2. Allemande
  3. Allegro
  4. Menuet - Trio I - Menuet - Trio II - Menuet

この作品も1718年の作品です。第1曲はフランス風序曲で、アレグロの部分ははフーガとなっています。

“カプリッチョ イ短調 ZWV185

編成:Strings; 2 hrn; 2 ob; fg; b.c.;

  1. Allegro assai
  2. Adagio
  3. Aria I - II - I
  4. En tempo de Canarie
  5. Menuet I - II - I
  6. Andante
  7. Paysan I - II - I

この作品も1718年に作曲されました。カプリッチョの中では最も有名な作品でしょうか。実際聴いていて最も聴き応えのある作品でしょう。
第一曲は快活な協奏曲形式になっています。最初の出だしがユニゾンのリトルネロで、すぐホルンが出てきてなかなか演奏効果が高い曲です。またあちこちにカノンみたいな入りがあって対位法的なの芸も細かいようです。
またその後の舞曲も一つ一つ個性的です。アリアのIIはまたホルン難曲でしょうか?超高音領域弱音で歌わせる部分は大変美しいです。

なおこの作品の第6曲のアンダンテは“トリオソナタ #6 ハ短調 ZWV181-6”の第3楽章に転用されています。

“カプリッチョ ト長調 ZWV190

編成:Strings; 2 hrn; 2 ob; fg; b.c.;

  1. Allegro
  2. Minuetto I - II - I
  3. Il Contento (Allegro - Trio - Allegro)
  4. Il Furibondo (Presto assai)
  5. Villanella I - II - I

この作品だけ番号が飛んでいるのは、これは1729年に作られたからだと思います。
ゼレンカの器楽曲はウィーン時代のカプリッチョ、トリオソナタ、プラハの戴冠式の時の音楽とほとんど前期に集中していますが、この作品はほぼ唯一の例外と言っていいでしょう。
この1729年という時期は、宮廷楽長のハイニヒェンが死んでまだハッセが来ていないちょうど合間の時期に当たります。要するに宮廷側から見れば本当にゼレンカはショートリリーフという扱いでした。私たちにとってはとてつもなく残念な話です。

第1曲はユニゾンのリトルネロから始まる協奏曲形式となっています。雰囲気としてはトリオソナタ第5番系といった感じでしょうか。
ZWV185 ほどの押し出しの派手さはないように思いますが、その音楽は円熟期のゼレンカの芸が冴えた一作と言っていいでしょう。


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