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我深き淵より/ミゼレーレ

今回紹介するこの2曲はまだ日本語版のCDが無いので比較的知られていませんが、その感動度から言えばゼレンカ作品の、ひいてはバロック音楽のトップクラスにある名曲です。
もしどっちでもいいので見つけたら即買ってOKです!

詩編129編:我深き淵よりはその悲痛な内容から葬儀の際にレクイエムと共に歌われることで知られています。そのため古来より多くの作品が作られてきました。

ミゼレーレも同様に旧約聖書詩編50編のことです。これも上記の「我深き淵より」と並んで何か悲しむべき時、例えば受難節とかによく歌われる詩編で、これに付けられた音楽はたくさんあります。
中でも最も有名なのは、ローマのシスティーナ礼拝堂の秘曲とされていたアレグリの作品でしょうか。14歳のモーツァルトが一度聴いただけで書き写してしまったというあれです。

上記のシスティーナ礼拝堂ではこれは聖週間に歌われていたようですが、ドレスデンでは四旬節(灰の水曜日~受難の主日)に毎日歌われていたようです。ゼレンカのミゼレーレにはグロリア・パトリが付いているのはこのためだと思われます。

ところでゼレンカはミゼレーレを2曲残しています。一つがこれから解説する“ミゼレーレ ハ短調 ZWV57”で、これは1738年3月12日の日付が付いています。すなわちこれはゼレンカ晩期の作品に当たります。

もう一つの“ミゼレーレ ニ短調 ZWV56”は1722年の作品で、曲が長いのに業を煮やした皇太子がカットさせたという逸話付きのものです。こちらの方はまだ録音が出ていないようです(多分こっちも傑作ではないかと踏んでいるのですが…)

“詩編129編:我深き淵より ニ短調 ZWV50

編成:solo ATBBB; ch SATB; 3 tbn; 2 ob; 2 vn; 2 va; b.c.;

1724年、ゼレンカの故郷ロウノヴィツェで父イジーが亡くなりました。ゼレンカはドレスデンで父の追悼ミサを行い、そのために“レクイエム ZWV247”とこの「我深き淵より」を作曲しました。

ゼレンカはあの“エレミアの哀歌"の例を挙げるまでもなく、様々な感情を音楽で表すことに非常に長けた人でした。この作品は10分程度の曲ながら、それは余すところなく発揮されており、亡き父をしのぶゼレンカの想いと祈りが極めて感動的に表現されています。

これらの作品は当時の人々をも魅了したのでしょう。ゼレンカはよくそういった個人的なレクイエムを依頼されたと言います。
これを聴くと“レクイエム ZWV247”やその他に依頼されたといわれるものが散逸してしまったのは返すがえすも残念なことです。

ちなみにこの作品は非常に個人的な理由で作られていますが、ドレスデンでは楽団員の身内に不幸があった場合は、王立礼拝堂でミサがあげられるのは普通のことでした。ですからゼレンカが職権乱用しているわけではありません。

De Profundis我深き淵より
(1)
de profundis clamavi ad te Domine深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます。
(2)
Domine exaudi vocem meam主よ、この声を聞き取ってください。
(3)
fiant aures tuae intendentes耳を傾けてください。
in vocem deprecationis meae嘆き祈る私の声に
(4)
si iniquitates observabis Domine主よ、あなたが罪をすべて心に留められるなら
Domine quis sustinebit?主よ、誰が耐ええましょう。
(5)
quia apud te propitatio est人はあなたを畏れ敬います。
et propter legem tuam sustinui te Domineなぜなら赦しはあなたのもとにあるからです
(6)
sustinuit anima mea in verbum eius私の魂は望みをおき御言葉を待ち望みます。
speravit anima mea in Domino私の魂は主を待ち望みます
(7)
a custodia matutina usque ad noctem見張りが朝を待つにもまして。
speret Israhel in Dominoイスラエルよ、主を待ち望め。
quia apud Dominum misericordia慈しみは主のもとに
et copiosa apud eum redemptio豊かなあがないも主のもとに。
(8)
et ipse redimet Israhel主は、イスラエルを
ex omnibus iniquitatibus eiusすべての罪からあがなってくださる。
(9)
Requiem aeternam dona eis, Domine,主よ永遠の安息を彼らに与え、
(10)
et lux perpetua luceat eis.絶えざる光を彼らに照らしたまえ

まず冒頭(1)の部分は祈るような器楽伴奏から始まります。そこにやがてバス3名がカノン風に「深い淵の底から主よあなたを呼びます」と歌い始めます。
2の「主よこの声を聞き取ってください」というところではその気分は更に昂揚し、音楽は悲痛な叫びとも言えるものになっていき、ここの部分の歌詞を見事に表現しきっています。このあたりは何度聴いても背筋がぞくっとしてきます。

3の「耳を傾けてください。嘆き祈る私の声に」の部分はやや明るい雰囲気になりますがその後また冒頭の器楽伴奏が復活し、悲痛な気持ちでこの部分が終わります。

この1~3の部分は3人のバスによる重唱というやや変わった構成になっています。エレミアの哀歌でもそうでしたが、バスが歌うところは悲痛な感情が表に現れている気がしますが、当時はそういう習慣があったのでしょうか?

4の部分はグレゴリオ聖歌旋律で歌われます。
5の部分はモテット風の合唱になります。合いの手に挟まるトロンボーンの響きが何とも哀愁を誘います。当時はトロンボーンはレクイエムなどの葬送音楽によく合うとされていたようですが、実際全くその通りだと感じます。

6~7は印象的な変わったリズムを持つオーボエオブリガート付きのアリアです。6の部分はテノールが2回歌い、7の部分はアルトが歌います。

合唱による経過的な楽節(8)が続き、9では再びグレゴリオ聖歌が出てきます。この部分はレクイエムの入祭唱の最初の部分と同じ歌詞です。聖務日課の詩編の後には通常グロリア・パトリが歌われますが、これは葬儀用なのでレクイエム・エテルナムが付加されます。
最後の10の部分は短いけれども緊張感溢れる合唱フーガで全曲が閉じられます。

この曲は10分程度の小曲に属しますが、ゼレンカの書いた作品の中でも一二を争う感銘深い作品と言えるでしょう。

“ミゼレーレ ハ短調 ZWV57

編成:solo S; ch SATB; 2 ob; 2 vn; va; b.c.;

この作品はゼレンカ晩年の作品に当たり、ミサ曲などの大曲と並んでこの時期を代表する逸品です。

この曲は出だしからキてます。滅茶苦茶カッコいいオープニングから始まり“Miserere mei Deus"と出てくるところなどもう落涙物です。

2の部分でミゼレーレの歌詞全体が、ジローラモ・フレスコバルディの Messa delli Apostoli (Fiori musicali より) の旋律に合わせて歌われます。
ここはまた“Miserere mei Deus"という歌詞がフーガのように主旋律に重なっていて、かなり複雑な音楽になっています(そのためメインの歌詞がほとんど聞き取れなかったんで、以下の歌詞対訳もかなり手抜き加減になっております)

続くグロリア・パトリ(3)前半部分はソプラノによる美しいアリアです。これはハッセの影響が大きく出たオペラアリア風の、しかしやっぱりゼレンカなアリアで、最後の部分には独唱カデンツァが出てきたりもします。

それが終わると経過的な合唱でもう一度グロリア・パトリ(3)前半が歌われ、続いてグロリアパトリ後半(4)が、2の部分のフーガによって歌われます。

そして最後に再び冒頭の“Miserere mei Deus"が再現し、感動的に終曲します。

この曲を最初に聴いたときは、何だか聴いた人の意見が割れそうな曲だなと感じました。というのも、出だしの緊張感に対して、続くフーガ部分がやや支離滅裂で、さらに続くアリアと、なんだか全体の統一性がないように感じたためです。

ただゼレンカの曲は、どれに対しても言えることでしょうが、演奏技術のうまい下手がかなり露骨に出るようです。あのトリオソナタでも下手な演奏だと全くもってピンと来ない物になってしまいます。

この作品では鬼門は2の部分でしょうか。出だし(1)の部分がとりわけすごすぎるだけに、ここで集中力を欠くとたんにだらだらしただけの音楽になってしまいます。最初に聴いた録音がまさにそんな感じだったんで、う~む…全体構成としてはやっぱりイマイチか…と感じていたのですが、最近入手した Dombrecht盤(28) では結構良かったんで、やっぱりゼレンカのせいではないのだと思い直しているところですが…

Miserere憐れみたまえ
(1)
miserere mei Deus神よ、わたしを憐れんでください。
(2)
secundum magnam misericordiam tuam et secundum multitudinem miserationum tuarum dele iniquitatem meam御慈しみをもって。深い御憐れみをもって背きの罪をぬぐってください。
amplius lava me ab iniquitate mea et a peccato meo munda meわたしの咎をことごとく洗い罪から清めてください。
quoniam iniquitatem meam ego cognosco et peccatum meum contra me est semperあなたに背いたことをわたしは知っています。わたしの罪は常にわたしの前に置かれています。
tibi soli peccavi et malum coram te feci ut iustificeris in sermonibus tuis et vincas cum iudicarisあなたに、あなたのみにわたしは罪を犯し、御目に悪事と見られることをしました。あなたの言われることは正しく、あなたの裁きに誤りはありません。
ecce enim in iniquitatibus conceptus sum et in peccatis concepit me mater meaわたしは咎のうちに産み落とされ、母がわたしを身ごもったときも、わたしは罪のうちにあったのです。
ecce enim veritatem dilexisti incerta et occulta sapientiae tuae manifestasti mihiあなたは秘儀ではなくまことを望み、秘術を排して知恵を悟らせてくださいます。
asparges me hysopo et mundabor lavabis me et super nivem dealbaborヒソプの枝でわたしの罪を払ってください。わたしが清くなるように。わたしを洗ってください。雪よりも白くなるように。
auditui meo dabis gaudium et laetitiam et exultabunt ossa humiliata喜び祝う声を聞かせてください。あなたによって砕かれたこの骨が喜び躍るように。
a verte faciem tuam a peccatis meis et omnes iniquitates meas deleわたしの罪に御顔を向けず。咎をことごとくぬぐってください。
cor mundum crea in me Deus et spiritum rectum innova in visceribus meis神よ、わたしの内に清い心を創造し、新しく確かな霊を授けてください。
ne proicias me a facie tua et spiritum sanctum tuum ne auferas a me御前からわたしを退けず、あなたの聖なる霊を取り上げないでください。
redde mihi laetitiam salutaris tui et spiritu principali confirma me御救いの喜びを再びわたしに味わわせ、自由の霊によって支えてください。
docebo iniquos vias tuas et impii ad te convertenturわたしはあなたの道を教えます。あなたに背いている者に、罪人が御もとに立ち帰るように。
libera me de sanguinibus Deus Deus salutis meae et exultabit lingua mea iustitiam tuam神よ、わたしの救いの神よ、流血の災いからわたしを救い出してください。恵みの御業をこの舌は喜び歌います。
Domine labia mea aperies et os meum adnuntiabit laudem tuam主よ、わたしの唇を開いてください。この口はあなたの賛美を歌います。
quoniam si voluisses sacrificium dedissem utique holocaustis non delectaberisもしいけにえがあなたに喜ばれ、焼き尽くす献げ物が御旨にかなうのなら、わたしはそれをささげます。
sacrificium Deo spiritus contribulatus cor contritum et humiliatum Deus non spernetしかし、神の求めるいけにえは打ち砕かれた霊。打ち砕かれ悔いる心を、神よ、あなたは侮られません。
benigne fac Domine in bona voluntate tua Sion ut[et] aedificentur muri Ierusalem御旨のままにシオンを恵み、エルサレムの城壁を築いてください。
tunc acceptabis sacrificium iustitiae oblationes et holocausta tunc inponent super altare tuum vitulosそのときには、正しいいけにえも、焼き尽くす完全な献げ物も、あなたに喜ばれ、そのときには、あなたの祭壇に、雄牛がささげられるでしょう。
(3)
Gloria Patri et Filio et Spiritui Sancto.栄光は父と子と聖霊に
(4)
Sicut erat in principio et nunc et semper始めのように今もいつも
et in saecula saeculorum.世々限りなく
Amenアーメン

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